天才殺し屋である僕は今日も今日とて、推し事中
黎月 夢稀
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第1話 殺し屋組織【イグジス】
夜は静かだ。
夜風は静かだった。街灯の明かりが濡れたアスファルトに細く伸びる中、僕は音もなくビルの屋上に降り立った。
ターゲットは六階、部屋に一人。密売人、傷害容疑三件、組織の敵。情報は簡潔、処理も迅速であるべき。
白い髪が風に揺れても、彼の瞳には何も映さない。ただ、蝶が夜空をふわりと舞う一瞬だけ、彼の視線が止まった。
「……綺麗だな」
呟きは誰にも届かない。
名を問う者も、恐れる者も、今夜また一人減るだけだ。
――――――
夜は静かだ。
けれど、下卑た声が、汚泥の如く汚い悪魔のような笑いが、美しい夜に響く。
「くっくっく!ハッハッハ!実に愉快!警察は馬鹿だ!あんな総動員してるくせに俺に近づいすらしねぇ!」
下卑た面持ちの男。高らかに、それでも気持ち悪さを全開にして、笑う。
「ホント、それには同意するよ」
「だよなぁ!」
「うんうん」
そんな男に話しかける少年?は突然と現れた。──しかも、男の目の前に
「って!誰だお前!」
「え!?今更?」
少年は驚く、けれど男が驚くのもよくわかる。存在感、と言うべきか。まあ、気配がしないのだ。
「うーん、でも、”お前”みたいなやつに名乗る名ないんだけど……」
「んだと!?」
「あ!でも、ひとつあるとしたら」
少年は不敵に笑い。
「月下のソナタみたいな?今はいい月夜だからね。」
「んだよ、それ……」
不気味、不気味すぎる謎の少年ソナタ。けれど男の中の危険察知能力をフル活用して、分かる。
「(こいつは、やべぇ)」
160程度しかない身長、枝のように細い体躯。どこからどう見ても、ヒョロいガキ、なはずだ。
「お前は……いや、あんたは何者だ?」
男は、少年にそう問う。不気味で不思議な雰囲気の少年、ソナタは異質で妙な圧が感じてしまう。
「それは、もういいよ」
「は?どういう───」
急に体が、ガクンと崩れ落ちる。まるで、体がないかのように。
「ぎゃぁあああああああ!?」
「おやすみ」
上半身と下半身の切断。そして、その瞬間男はわかった。目の前のやつがどんななのか。
「!ま、まさか【
「死んだんだ……随分うるさかったなぁ、まったく……」
静かに殺すがモットーなのに、これじゃあ達してないじゃんか、なんて困り顔をしながら考える。
「やっぱり切断はダメだったかぁ」
じゃあ、毒とか、眠らせてからの方が良かったかな。なんて飛び散った血を避け、死体に見つめる。
「でも、綺麗な切断面だね。良かったじゃん、散り際は綺麗で──」
なんていいながら死体を処理する。見つかったら面倒だから。
この少年の
「あーあー、オーダー、こちらソナタ」
『オーケー、ソナタこちら通信室、要件はなんだ?』
無線で、任務の完了を伝えるためにビルの屋上で無線機を取り出す。僕の所属殺し屋組織『
「ターゲット、死亡確認しました。」
『こちらで、証拠は全て隠蔽しておく、素早い対応さすがソナタ』
「ううん、五分もかかっちゃった。お喋りはダメってわかってるけど、やっぱりなぁ」
『そう卑下するな、ソナタ。今日本部へ帰れそうか?』
「無理だと思う。明日には戻るよ」
『オーケー、気をつけろよ』
そして通信は途絶える。その瞬間、息をふぅーっと吐いてSNSでとあることを調べる、それは──
「っ!!アルナさん!新しい絵、投稿してるー!!すごっ!蝶々と男の子かな?これ、すごーい!かわいー!さっすが!」
「そういえば来月即売会がまたあるらしいし……う、仕事増やさなきゃ」
と言っても、これでも誇りはあるので仕事は選んでいるつもり。
「明日は〜……って、休みか」
依頼がないのは困るが、殺しの依頼が少ないのはいい事だと、僕でも思う。それだけ世が平和ということだから。まあ、明後日はふつーにあるんだけど。
「?」
その時、ピコンってスマホが鳴る。マナーモードしてなかったっけ?なんて思いながら僕はスマホを開く
「ん……って!!アルナさんにフォローされてるぅぅぅ!!?」
確かに趣味でイラストは書いていたが!まさかまさか、推しに認知されるとは!!夢にも思っていなかった。
「最っ高ー!!!」
その時、電話がなる。
「……って、げっ」
そんな声を呟き、スマホに表示される応答ボタンを押して、電話に出る。
『おい、
「(激おこじゃん)」
何故か出たのに、怒られてしまう。
そして説明しよう。この電話相手はシリウス。同期であり、【暴風】のシリウス、と呼ばれている。よく説教されるから面倒だと思っている。
「そー、で、要件は?」
『てめっ、はぁ……今日は幹部会議だ。遅れんなよ、ソナタ』
シリウスは怒るのを我慢してそう言ってきた。そして、そういえばそんなのあったなと思い出し。
「あー、無理無理、行けない行けない」
『はぁ!?』
勿論
「今日は、欠かせない用事が……!」
『お前、昨日も言ってなかったか?』
「……てへぺろ」
『殺していいか?』
物騒な。ただ今日だけは外せない用事があるだけなのに。おかしいなぁ。
「だって、今日はアルナさんの絵配信だもん!無理無理!任務ならまだしも、会議でしょ?いいよ、僕居なくても。」
『ダメだっつってんだろ!何がだもんっだ!ふざけんな!』
やっぱりシリウスは頭が固い。こんなんじゃ【暴風】じゃなくて【ヌリカベ】って言われるに違いないし!だから最近奥さんとも上手くやれてないんだよ!
『おい、今何考えた?』
「ベッツに〜!なにも?」
『このやろ……。もういいから、五分だけでも、参加しろ。』
シリウスは僕が何を言っても説得できないと感じたのか、そう提案してきた。
「いーやーだ!」
それはだけは嫌だ。会議の時間はちょうど配信が始まる時間なのだ。嫌に決まっている。アーカイブを見るのは当然として、配信もみたいに決まっている。
『文句言うな!』
そんなことを言うシリウス。知ったことじゃない、と言うようにはぁ、とため息を着くような顔をする。
『他の連中にも言えることだが……お前な、組織一二を争う殺し屋の自覚あるんか?』
「それはアルナさんの推し絵を見ながら言ってください」
『……会議中にスマホ見るなよ』
「見るに決まってるじゃないか。もう、僕の魂なんだからね」
そう言うとはあ、とため息を着くシリウス。どうして?おかしいことを言ったか?なんて思っていると。
『ちっ、見ながらでいいから来い!』
「仕方ないなぁ……大音量で流すからね!」
『やめろ!』
プープープーと、切れてしまった。どうやらシリウスの方からガチャ切りしたらしい。
「あーあー、切れちゃった」
シリウスは短気だ。僕は悪くないはずなのに、怒られてしまう。でも、ここで行かなかったらもっとうるさくなるのは目に見えているので行くしかない。めんどくさいが
―――――――
白い蛍光灯が鳴る音だけが響く、整然としすぎた会議室。席は10席以上あるけど誰もいない。資料も未配布。
壁際に立てかけられたモニターが、前回の任務映像を映し出したまま静止している。スッと入室するが、足音だけが無駄に響いて異様な静寂をつくる。
「(早すぎた。無駄に目立つ。けど、遅れて誰かと並ぶよりは、ずっとマシ)」
そして配信開始をイヤホン付けながら椅子に座り待っていると。ドアが開く。
「あ!ソナター!ひっさー!」
「アール……久しぶり」
この子は同じ幹部である【旋風】のアール。速さを用いて誰にもバレずに殺すがモットー。その速さは世界一なんじゃないかと思っている。
「何してるの?」
「アルナさんの配信待機」
「やっぱり大好きだよね!アルナさん」
「僕の癒し、天使だね」
そんな
「久しぶり〜、ソナタにアール。」
「んげっ、ハル……」
「お久〜、ハルはいつも通りだねぇ。」
こいつの名前はハル、まあ、本名ではないが。コレは【淫蕩】のハル。美しすぎる美貌に男なら気にならないわけないと言われる
「ソナタはつれないわねぇ」
「ハル、鬱陶しい」
「……2人は仲良しだね!」
「おいコラ」
コイツをあからさまに嫌悪しているのは抱きついてくるから。
イケメンやカワイイ子に目がないらしい。そしてアールや僕はカワイイ子認定だそうで、いつもこうだから鬱陶しい。
「アールもかわいいわね?」
「あはは、ハル……抱きつくのヤメテ?」
いつも元気なアールはハルの前だけ調子が狂うようで 、辛辣になる。僕の前だとうるさすぎるからいいんだが。
「なんやなんや?おもろそうやないかい──ってアール!そこ変われや!」
その時うるせぇやつが来た。
「ハルちゃぁんに抱きしめられるなんてご褒美やろがい!」
「なら変わってよっ!」
「せやって!ハルちゃん!!」
「お・こ・と・わ・り♡」
「ガーンシック」
「喧しい」
「辛辣やん、反抗期かいな?」
「だまれ、ユースケ」
「あ、歳だけなら反抗期やったな」
こいつはユースケ、アニメにいるような糸目関西弁、第一印象が裏切り者かと思った。
けど無駄に顔がいいからこそ残念イケメンなんだ。後こいつの異名は【信徒】、【信徒】のユースケ。人を従わせることに長けていることからつけられた。
「あーあー、つまらへんなぁ」
「なら、どっか行けよ」
「つれへんこといわんといてや〜」
こいつの面倒な所はこういう所だ。こいつは気に入ったやつはウザ絡みを繰り返し、嫌われている。
「はぁ、疲れる……」
「んー、あ!これ食べる?チロルチョコ。美味しいよ?」
「ん、あー」
「はい、あーん」
面倒だから、寝ながら食べさせてもらう。チロルチョコはすごく甘い。美味しい。
「はぁ……ありがと」
「どういたしまして!」
その時
「アール」
「あ、ケイゴ!どしたの?」
「俺にも一個くれ」
「いいよいいよ!!」
今話しかけたのはケイゴ、200m以上のムキムキな体躯を持ち、【豪傑】のケイゴと恐れられるほどである。すごく真面目で静か。
「ソナタ、シリウスはまだなのか?」
「うん、まだ。ちなみに配信もまだ」
「ソナタ?多分それいらない情報」
なんて話していると数分後。
「全員集まったな」
「「「「「……」」」」」
「ボス、お入りください」
その瞬間、緊張が走る。個性派集団である幹部たちは別にシリウスに従っている訳じゃない。
その上であるボスに従っているのだ。
「みな、久しゅう思う」
「ボスもお変わりないようで、私どもも嬉しく思います。今日、貴方様のご尊顔を拝することの喜び、幸せに頂戴いたします」
「そうだな、ユースケよ」
ボスはこの幹部たちに尊敬され敬愛され慕われている。故に幹部達はいつもいつもどうボスに褒めてもらうか必死なのである。
「それで、みなの活躍も聞いておる。この会議は安否確認と、ソナタ」
「!…………はい」
「頼みたいことがあるんだ。任されてくれるか?お前にしか頼めない」
「「「「「「!?」」」」」」
ボス直々に命令が降りることは無い。まして、このような場ではありえない。だからこそ、ソナタを除く全員が思うのだ。
「それで、任務とは?」
「ソナタ……」
ゴクリ、と息を飲む。
「明日から学校に通ってくれ」
「は?……い、今なんて……」
突然、おかしいことを言われた。
学校、それはようきゃ?なるものの巣窟と聞いた。ソナタは昔から殺しの日々だったからか、何も知らないのだ。
「言葉通りだ。学校に、潜入してくれ」
「……?????」
頭が追いつかない。
「空前高校、そこに一之瀬 光という少女がいる。その子の暗殺依頼だ」
「!!……どういうことですか?まさか高校の女の子を殺せ、って言うわけじゃないですよね」
「その通りだ」
「「「「「「!!」」」」」」
全員が驚愕する。そして、同時に疑問を覚える。なぜならイグジスの理念は『悪人に死を』だから。女子高生がそんな罪人なのかという疑問。
「どうしてですか!どうしてその女の子を狙うのですか!ボス!」
「落ち着いけ、ソナタ」
「ですが、どうして……」
イグジスの理念には納得していたし、ボスはその理念に則って幹部達にも諭してきた。
それに尊敬もしていた。だから、今のボスの任務はそれに違反しているように感じる。
「これは、潜入だ」
「!……潜入?……殺し、じゃ」
「ああ、だが、まず一之瀬 光について探って欲しい」
ボスは話してくれた、経緯を。とある人から依頼されたらしい。
それが一之瀬 光の暗殺。そしてその時言った罪が、変だとボスは語る。
「『忘却と逃亡の罪』……って、なんですか、それ」
「詳しく聞けなかったので、同い年である、ソナタに探ってもらいたいのだ」
「…………」
よく分からない。言いたいことは分かる、でも、やはり、納得できない。おかしい気がするのだ。何故かなんて分かるわけない、でも
「言ってくれないか?」
「………………分かり、ました」
こんな怪しい任務、他に任せる方がよっぽどいやだ。話を聞いたからには絶対に達成したい。
「(これは、プライドだ)」
「じゃあ、明日から言ってくれ」
「……は?」
豆鉄砲を食らったハトのように
「では、解散」
「待ってください!?」
そして、本当にボスは部屋から出て言ってしまった。
「ぼ、ぼすぅ……」
「あはは……お、おつかれ!ソナタ」
「うぐぅ……」
ボスの命令に逆らうのはルールを破ることと同義。だからこそ、僕もできるだけやるんだけど。
「さすがこれは……」
「ドンマイやで!ソナタ~」
「……うざ」
「規律は絶対、それ以上にボスの言うことは絶対、だよ?」
「わかってる!!……けど」
やっぱり、意味がわかんない。どうして、僕が学校に……
「考え込むな。ボスにもなにか思惑があるのだろう。お前はお前の任務を全うしろ」
「む……はいはい、わかってる」
そして僕は会議室を出る。どうしても、納得できないけれど、暗い暗い夜の中では迷いすらも、バカバカしくなるから。
――――――――
「…………」
誰もいない自身の部屋で小さく嘆く、誰も予想なんてしなかったこと、それはソナタでさえも。
───その時
「……ソナタ」
「!ボス!?…どうして……」
その時、入ってきたのはボスだった。電気もつけていない部屋に入ってきたせいか、光が扉から漏れ出る。
「ソナタ、俺はな、お前に期待している」
「……ありがたき、幸せ」
本当ならば、心からの幸せだった、はずだ。こうなっていなければ、の話なのは自分自身、重々承知なのだが。
「迷いがあるか?」
「…………はぃ……」
ソナタは幼い頃から殺し屋として働いて、学校には行かず、勉強やらは仲間に教えて貰っていたからこそ、今更感がある。
そして何よりも
「どんなに取り繕っても、僕は大衆の命を狩って、それで生活を立てるような化け物です。それが、今更」
それが、1番の懸念である。殺し屋というのはどんなに取り繕っても、殺しをしていることには変わりない。
それが、本人たち自身、わかっているからこそ、今回の潜入に抵抗がある。
「ソナタ、俺は───お前だから任せたい」
「───っ」
ソナタは息を飲む。 初めて言われた事、悲しくもなかった。言われなくとも、ボスの役に立ちたかったから。
けれど、ボスがそういう時点で、今回何かが違うことに気づいた。
「この任務は、ただの依頼じゃない。
俺が、お前に“信じたいもの”を預けるために選んだ任務だ。」
ボスは、扉の方をむくと、歩いていきソナタの方を向かず、言った。
「もし、その命が、誰かを変えるなら、俺は、その選択を……喜んで認めたい。」
「……ボス」
「間違えてもいい。誰かに嫌われてもいい。でも、お前が“守りたい”と思ったものだけは、その命で証明してくれ。」
やはり、うちのボスは一番カッコイイからみんなついてくのだろう。
そして、ソナタはそれに報いるようにちゃんと結果を残す。
「……ボス、イエッサー」
そして、ボスは部屋を出ていく。少しだけ、本当に少しだけ、楽しみになった。
「ありがとうございます、ボス」
そして、ソナタは編入用の書類に目を通す。まあ偽装のプロフィールという注釈がつくが、ソナタはそれが終わるとベットに寝転がる。重い瞼を必死に上げながら。
「………あ、配信……忘れてた」
やってしまった。ボスが来たことによって、僕は配信を消し、スマホを閉じたことで見逃していた。
「……くそぉ」
そして、アーカイブを徹夜で見て、夜更かしてしまった。
――――――――
翌朝。
ピピピピピピピピピピピピピピピと目覚まし時計がなる。
「ん……んん…んー」
ガチャ、ととめる。そして、ゆっくり身体を起こす。ソナタの髪は乱れていて、口からヨダレの跡がある。
「ん……6時丁度……余裕」
そして髪を整え、顔を洗い。洗顔して、制服に着替えて、ご飯を食べる。
「優雅……流石だなぁ」
そして、
眠りから覚める。
ピピピピピピピピピピ!
「って!もう7時50分!?やばいやばいやばい!初日なのに!どうして!?──あ、そういえば仕事ないから遅め設定だった!!」
髪を梳かし、ヨダレを拭き、制服に着替えて、バックを持って外に出る、ここで約3分程度。学校まで三十分以上かかる。空前高校は始業が早めだから間に合わない!
「はぁ、はぁ……っ!」
全力疾走で学校まで行く、ソナタ達幹部陣は本部に部屋があるため、かなり遠いのだ。
けれど、これでは遅刻を免れられないと思ったソナタは──
「し、仕方ない」
ショートカットのため、ビルの屋上を駆け、次々と飛び移る。時には大きく飛び、速く駆ける。
「はぁっ、はぁ……これなら……」
駆け抜ける。ビルの上を、人が。ソナタは体内時計で大体わかるため、もうそろそろなことが分かる。
ギリギリには着くだろうと思った、その時
「って、あ……」
その時、空中で、スマホの通知がなる、これはアルナさんの更新音。あ、まずい
ソナタが気を抜いてしまう。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
そして、道路へ落ちていく。この時だけは神を恨む。
このままでは危ないと察して、体をひねらせてビルにロープを投げ、パンッと一瞬巻きついたことにより、少し落下速度が落ちる。
「っと、あっぶな」
まあ、危なかったが、着地する。そして再びの全力疾走。ビル渡りが使えない、だから地上を全力疾走
──結果は
『遅刻』だよ
すごく怒られた、転校初日で遅刻する奴がいるか!と、そして今は編入するクラスに案内してもらっているところだ。
「ここで、待機していてね。十六夜くん。呼んだら入ってきて」
「はい。分かりました。」
そして、中はザワザワし始めた。多分もうそろそろ、呼ばれるんだろう。
ソナタは本名は十六夜 颯を呼ばれ少しむず痒くなっている。
────そしてその時
「十六夜くん、入ってちょうだい」
より、ザワザワし始めたクラス。ここが僕の通う1ー3か。簡単な学校のことは頭で予習済み。なんて、考えクラスに入る。
「十六夜 颯です。趣味は絵で、好きなことも絵です!よろしくお願いします!」
そう挨拶すると、様々な反応がある。顔についてや、
「じゃあ、十六夜くんはあそこの窓際座ってね。」
「分かりました。」
隣りとなるのは……
「……!(一之瀬……光) 」
何たる偶然だろう、とこの時だけは神に感謝した。だって、これで潜入、探り任務がやりやすくなる。
「よろしくね。」
「あ、うん。」
綺麗な水色髪に肩くらいのボブ、ヘアピンで前髪を止めていて、吸い込まれる白い瞳。
ああ、こいつモテるんだろうなぁって言うのがよくわかる。
「一之瀬 光!」
「よろしく、僕、十六夜 颯」
でも、とソナタは窓の外をみながら目を細めた。顔は可愛い、性格もいい、なのに何故
「(なんだよ、コイツ)」
僕は魅力を感じない。というか、なんとなく合わない気すらする。
ま、いいか、ただの潜入任務だし。悪人なら死を、善人なら何もなしで、そのまま僕はここを辞める。
「(退屈だ)」
なんて、思っていると、ホームルームが終わる。そして、トイレへ立とうとすると、一斉に話しかけてくるクラスメイト達
「ねぇ、どこから引っ越してきたの?」
「九州からだよ~。」
「まじで!?」
「十六夜くんってさ、絵上手いの?」
「そこそこだと思うけど……」
「彼女とかいる?」
「いやぁ?」
「もしかしてホモとか!?」
「なわけなくない!?」
当たり障りのないように転校生の特権たる、質問攻めを難なく回避する。
そんなことをしているとみな笑っている。僕はホモじゃない!って大きい声で言いたい。いや、勘違いしてないだろうけど。
「(呑気だなぁ)」
そして数分経ち、一限目が始まる。
「(……レベル低くね?)」
簡単すぎないか?というもの、
「問一の問題を……一之瀬。答えろ」
「はい……答えは132です。」
「正解だ。」
当てられた一之瀬は難なく答える。そして颯は一之瀬は勉強が苦手ではないと感じた。ノートを見れば綺麗。
「(几帳面なのか)」
キーコーカーコーン、キーコーカーコーン。そんなことを考えていたら一限目の終了の鐘がなる。
「答えられなかったやつは復習しておくように。次は小テストやるからな。」
起立、気をつけ、ありがとうございました。そして、次の休み時間に入る。
「……あのさ、一之瀬さん」
「なぁに?」
「授業中、結構当てられてたけど全部正解してたよねー?」
「あー、うん!」
「意外と頭良かったり?」
「んー、自分じゃなんとも……」
ソナタは日常生活の中から、一之瀬の人柄を知って、仲良くなったら頃合いを見て聞き出すつもりだ。その時
「ねー!一之瀬さん!」
「あ、呼ばれてる!……えっと」
「?行かないの?」
そう言うと、申し訳なさそうにこっちに謝ってくる一之瀬。
「ううん、行かなきゃ本当にごめんー!」
そして走り去る。本当に嵐のような子だと思うのは僕だけだろうか。
「ナンダーイ?転校生くんをもう落としてるんか?ひかりんは」
その時、背後からいきなり声が聞こえてきてびっくりした。
「わぁ!?」
「あっはは、びっくりし過ぎだよー、わっちが幽霊みたいじゃぁん?」
そして、いたのは男のような短髪の銀髪に紫紺の瞳をした、所謂ボーイッシュ系の女の子であった。
「やっほぉ〜、転校生くん」
「えっと……君は?」
馴れ馴れしくソナタに上目遣いで覗き込むように喋りかける。少し、それには嫌な顔をしそうになるが、必死に我慢。
「わっち?わっちはねー───聞いて驚け見て笑え!!わっちこそ、漫画をこよなく愛し、漫画に愛された女!二階堂 涼だよ!」
「……に、二階堂さん?」
「まー、転校生くんは幸い可愛い系だし〜?特別に涼って呼ばせてあげてもー?」
「あ、お断りします」
「なんでだよー!?」
即刻切り捨てると、ソナタに縋る二階堂 涼であった。
「ねぇーん!!?わっちの事涼って呼んでよー!?お願いだから〜!?」
「うわっ!?離れて────ッ!?」
その時、ソナタは明確な違和感を感じた。それは、ソナタが涼を引き剥がせないという事実にあった。
「(なんだ、どうして!?)」
決して非力な訳でもないソナタは、引き剥がせないというのが違和感に感じた。
「?どした?」
「あ……いや」
「それとも、呼んでくれる気になった!?」
「それは無い」
「ねぇー!?」
「揺らさないでぇ!?」
そして、そんな事をしていると、絶対に悪目立ちしてくる。というか、もう視線が痛くなってきた。
「コラ、涼ちゃん!転校生くんいじめたらメーなの!」
「っ?」
「ありゃりゃ、なののん来ちゃったか」
そして、それを止めたのは袖から手が出ていなく、少し動きにくそうすら思うほど制服がおっきく、ベージュ色の髪をボブヘアにしている可愛い女の子だった。
「な、なののん?」
「気にしないで欲しいの……涼ちゃんが勝手に言ってるだけなの」
「あ、なるほど」
この一分にも満たない会話でわかった、この子は
「氷室 菜乃華、なのかって呼ぶといいの」
「なのか、か……よろしくね」
「よろしくなの」
そうして、恐らく疲れているであろう日頃の苦労を労りたいほど、この子は可愛い。なんて思ったその時。
「またれよ!?なんで、なののんの事は名前で呼んで、わっちは苗字+さん付けなんだよ、転校生くぅん!?」
「だって、なのかはうるさくないし」
「涼ちゃんはやかましいというか」
「だって、面倒くさいじゃん」
「メンタル激よわだし」
「2人とも酷ーい!?」
そして、縋るのもやめて、1回カッコつけるチャンスをくれとか言い出した。
まあ、許可したが。
「ん"ん……私は二階堂涼、よろしくね!」
「「……誰?」」
「涼ちゃんですけど!?」
なんて、やっていると予鈴のチャイムが鳴る。そして、涼達は帰っていった。
「……ま、いいか……」
そして、ソナタも次の準備をする。
けれど、知らなかった。ソナタも、光も、この後大きな渦に巻き込まれゆくなんて。
まだ、誰も知らない。
この日が、この任務が世界を大きく変えることとなるなんて、まだ、誰も
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