その日、俺の初恋は終わりを告げた

@abcdtmtw

第1話

黒歴史






「付き合ってほしい」

 俺、西条葵はどこにでもいる平凡な男だ。

成績は平均。顔も普通。

一つ他の人と違うところと言えば、男性を好きなこと、くらい。


 そんな俺がなぜ学年カースト上位、俳優顔負けのイケメンで、勉強、スポーツともにできる。

そんな男、東雲彼方に告白されているのか。

(、、、あぁ。罰ゲームか。)

答えはすぐにわかった。

周りに携帯を持ち、こちらを撮影しながら笑う人もいるし、そもそも平々凡々な自分に告白する意味がない。


「、、いいよ、付き合おっか。」


あーあ。好きだったのにな。

こんな形で失恋するなんて、誰が想像できるだろうか。

だけど、折角付き合えるのなら恋人らしいことはしてみたい。


「、、、マジで?」


ほら、やっぱり罰ゲームじゃん。

少しでも期待した俺が馬鹿だったのかな、、


「、、連絡先交換して!」


少し強引に連絡先を聞く。

(いつまで罰ゲーム続くんだろう、、)


「それじゃあ、また明日ね。」


泣きたい気持ちを押し殺して、足早に家へと帰った。



「おはよう、葵。」

朝、教室に入る。すると声を掛けられた。

俺にこんな話しかけてくるのはあいつだけだ。

(俺のこと、、好きでもなんでもないくせに)


「お、おはよう、、」


気まずい。非常に気まずい。

毎時間話しかけてくるけど、昨日の今日。気まずいに決まってる。

お前が俺のことなんて好きじゃないってわかってるのに。

(どうしても期待してしまう俺って、、やっぱ、馬鹿だな。)

だけど、、罰ゲームだとしても付き合ってるんだ。

別れるその日まで、好きな人と一緒にいることくらい、許されるだろ?


────────────────────────



「今日、弁当作ってきたんだ。一緒に食べよ?」


断られると頭ではわかっている。

好きでもない相手の作った弁当なんか食べたくないってことくらい。

わかってるのに。

(食べてくれるんじゃないかって、、、思っちゃうんだよなぁ。)


「あー、、「おいおい、そいつが東雲の恋人?ww」


告白の時、携帯で撮影してた奴らだ。

付き合うことになった俺らを揶揄いにきたんだろう。

(、、、屋上に行こう。)

屋上は唯一俺が落ち着ける場所だ。

誰も来ないし、見上げれば広大な空が見える。自分の悩みなんか、ちっぽけに見えるから。


「、、、じゃあまた、後でね。」


俺は振り向くことなく屋上へ足を進める。

すぐ後ろで笑い声が聞こえたような気がした。


「、、ぅ、え、!ひ、ぐ、、、っ、なんで、!」


(なんで、俺が、、!)

屋上に哀哭の悲痛な叫びが響く。

その様子を一対の目が、じっと、見つめていた。


「ねぇ、、どーしたの?」


葵ははっとする。

まさか見られていたなんて思いもしなかったのだ。

(み、見られた!どうしよう、、)


「ぁ、、だ、だれ、、?」


泣き腫らした目を向ける。

そこにはイケメン、と言うより、綺麗な顔立ちをした生徒が立っていた。


「何かあったのー?話聞くよ?」


軽そうな態度に身を構えるが、誰かに話したかったのだろう。

実際、名前も知らない人に話すことで、気が楽になると思った。


「実は、、、」


全て話した。途中で泣き始めてしまうと、背中を摩ってくれる。

今はその優しさに溺れたかった。

昼休みの終了のチャイムが鳴る。


「ぁ、、どうしよう、、」


今から教室に行くには間に合うが、彼方がいる。

その考えを見透かしたかのように、


「サボっちゃうかー!」


と言ってくれる。

(名前、、、)

名前が知りたい。友達になりたい。

、、、相談に乗ってほしい。そんな思いが込み上げてくる。


「ぁ、あの、名前、、教えて、ください」

「ん?あ、言ってなかったっけ、俺は五十嵐蒼真、6組!」


6組、、違うクラスか、会えるかな?

(蒼真といると、心地いい、、)

けど、流石に教室に帰らないといけない。


「じゃあ、そろそろ帰るね。ありがとう!また今度。」


お礼をして教室に帰る。ちょうど休み時間だった。


「っ、か、彼方、、」


彼方が駆け寄ってくる。

とても心配そうな目をして。


「何処に行ってたの?急にいなくなるから、」


(なんでそんな目をするの、、?)

罰ゲームだとわかっていながら、別れられない。

それが恋、なんだと思う。

たとえ別れた方が楽になったとしても、

(もう少しだけ、、、側にいさせて、、)



付き合って1ヶ月が過ぎた。

休日は映画を見に行ったし、手も繋いだ。

だけど、、最近は目を合わせてくれない。

別れを告げられるまでは付き合おう、と思ってた。

(けどもう、潮時かな、?)


自分では諦めがついたと思う。

恋心は消せてないけど。

1ヶ月間彼方はとても優しかった。

好き、と言う気持ちは大きくなるばかりだった。


「、、、葵。放課後、話あるから。」


────────────────────────


「ねぇ、蒼真。俺、どうすればいい?」


昼休み、俺は蒼真に会いに行く。

何も言わずに聞いてくれるし、アドバイスもくれる。

だから話しやすい。


「葵はさ。聞きたくないの?」

「、、、うん。でも、聞かなきゃいけないと思ってる。」

「俺は葵がどっちにしようと、応援するから、ね?

葵のしたいように、自分の心に正直になって。」


(自分の心に、、正直に、、?)


本当は聞きたくないし、今でも好きだ。

(だけど、、、)


2週間前、俺は1人で街を歩いていた。

もうすぐで付き合い始めて1ヶ月、だったから。

(まぁ、罰ゲーム、だし。俺のこと、好きじゃないし、、)

そう思いながら、店を見ていた。


「──!!─ww」

「─?!─!」


聞き覚えのある声がする。

後ろを振り向くと、彼方と綺麗な女性が、笑いながら歩いていた。

(楽しそうだな、、あの人が本命、かな?俺は最後までお邪魔虫だったのか、、)

その場から逃げるように立ち去る。

道行く人に心配されるほど泣きながら。



(俺は、、別れた方がいいのかも、、)

そうこうしている間に放課後になる。

彼方から逃げるようにトイレに走り、

携帯を取り出して、文字を打つ。

(最後くらい、手を煩わせないように、、)


──今まで、俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。

罰ゲームなのに、付き合ってごめんなさい。

今更だけど、ずっと好きでした。

迷惑をかけてごめんなさい。

本命の方と幸せになって!


(、、送らないと)

送信を押そうとする手が震える。


「っ、ずっと、、ずっと、好きでした。」


ピコン


押すと同時に、両目から大粒の涙が溢れてくる。

(これで、、これでよかったんだ、、)

少しして、泣き止み、トイレから出ようとする。

俯いていたからか、人とぶつかってしまった。


「ぁっ、ご、ごめんなさ、、?!」


そこには、今メールを送ったはずの相手がいた。


「、、これ、どういうこと?」


問い掛けられるが、答えられない。


「、、俺は、別れるつもりなんて毛頭ないけど。」


驚いて、思わず顔を上げる。


「な、なんで、?罰ゲーム、なんでしょ、、?俺のこと、好きじゃないのに、、」

「確かに、最初は罰ゲームだった。」


やはり、面と言われると傷つく。

(俺のこと、好きでもなんでもないんじゃん、、!)


「けど、付き合ってるうちに、可愛く思えてきて、いつの間にか好きになってた。」

「ぅ、嘘だ、、!じゃ、じゃあなんで最近目を合わせてくれなかったの、?」

「最初は、、目を合わせても何とも思わなかった。

だけど、最近目を合わせると上手く話せなかったんだ。」

「違う、、だ、だって、、!あの女の人、、」


彼方は少し考えた素振りをして、閃いたように言った。


「っ、、ああ!それは俺の姉。、、葵と付き合って1ヶ月だったから、一緒にプレゼントを選んでたんだ。」

「ぇ、、ぅ、うそ、、」

「嘘じゃない。本当に葵が好きなんだ。」


(全部、、俺の勘違いだったってこと、、?)

葵は赤面すると、さっきまで枯れていた涙がまた溢れ出してきた。

すると、不意に身体が何かに包まれたような気がして、周りを見る。

抱きしめられているとわかるのに、数秒かかった。


「、、葵、好きです。付き合ってほしい。」


箱に入った右手の薬指にぴったりな指輪と共に、

1ヶ月前に言われた言葉。

だけどそれとは違う。


「ッ、、は、はい、、!よ、よろしくお願いします、、」


葵は1ヶ月ぶりに心からの笑顔を見せた。



────────────────────────


俺があいつ、葵を初めて見たのは屋上だった。


「ひ、ぐ、、!ぅ、え、、」


授業をサボって、そのまま屋上にいた。

眠りから覚めると、ふと泣き声が聞こえてきた。

(、、、何だ?)


そこにいたのは、2人分の弁当を抱えて号泣していた男だった。


「ねぇ、、どーしたの?」


無意識に話しかけていた。

理由を聞き出した。彼の名前は西条葵というらしい。

彼は笑わない。時々笑ったとしても、自嘲の笑みを浮かべるだけだった。

葵を助けたい、と思ってしまうのは何故だろうか。

話をしていく中で、俺は葵のことが好きになっていった。

(葵には、幸せになってほしい、、)

俺は葵の恋を応援する。

葵が幸せになるために。



放課後の廊下、重なり合うふたつの影が伸びる。


(なんだ。あいつ、ちゃんと笑えんじゃん。)




────その日、俺の初恋は終わりを告げた。

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