第41話

人生には、大切にしたい人や言葉がたくさんあって、でもときどき、大切すぎて重たくて、えいって全部を捨て去りたくなる。




それは矛盾なのか道理なのか、どっちなんだろう。














「どっちでもいいけど、久しぶりの集まりでその話題はどうよ?」


「ねえねえ、いつか撮った湊の変顔インスタ載せてい?」


「やめろって!涼のフォロワー何百万人いんだよ!?」





なんとなく共感できる涼ちゃんの疑問。それはきっと、この世界で息をする人間なら、分かれる人が多いんじゃないかなと思う。





それを変わらず欠けたままのデリカシーを使って一刀両断した湊。座った瞳でスマホを弄る涼ちゃんとすぐさま焦った湊に、みんな揃って遠慮なく笑った。








いつかの春、2人と待ち合わせした公園は色褪せることなく存在している。老朽化したベンチは、色が変わっていたり新しくなっていたりしたけれど、吹く風も流れる空気も、大切なモノは何ひとつ変わっていない。





歪な出会いを繋げてから10年経った、私たちのように。








「涼ちゃん、私のクラスでも大人気だよ」


「ほんと?」


「みんなフォローしてるって言ってた」


「ちひろんが担任とか、羨ましいことこの上無しってその子たちに言っといて?」


「ふふ。うん。ありがと。」





涼ちゃんからの優しさに、心がほっと暖かくなる。やっぱり大人になっても何歳になっても、涼ちゃんの暖かさは変わらない。








涼ちゃんは高校を卒業と同時に、アパレル業界へと飛び込んでいった。そこで販売員として働いていたところ、スカウトされ読者モデルとして活躍。今ではバラエティ番組やCMなど、芸能界で引っ張りだこな人気タレントさんだ。








「ちひろが高校教師とかまだ信じらんねえよな」


「湊はそんなんでやっていけてるの?」


「対小学生相手だから大丈夫なんじゃない?」


「なるほど。さすが柊くん。」





相変わらず失礼なことを吐かしてくる湊は、恩人だという家族の仕事を引き継いで、とある街に存在している駄菓子屋の経営者に。


こちらも相変わらずしれっと毒舌な柊くんは、なんとサラリーマンに。








「はいはい、仲良くしようね?」


「あ、虹。」





いつまでもどこまでも面倒見のいい翼くんは、家業を継いで念願の和菓子職人さんに。


こちらもいつでもどこまでもマイペースな誉は、密かな努力が実を成して弁護士さんに。








……って、え?虹?








大人になったみんなの日常や職業を思い浮かべて、感慨深い気持ちになる。けれど、ひとりベンチに深く腰掛ける誉が示した指先を辿れば、ただただ熱い感動が広がっていった。








雨上がりの春空。

雫を乗せて光る緑の芝生。

残る雲と青空の狭間にかかる、7色の橋。








はしゃぐ涼ちゃんに同調して、パシャリ、写真に残す。





生まれ育った故郷の図書館、かつてお世話になった土地に場所に恩返しがしたいと、ひとり司書として頑張っている最愛の相手に後で送ろう。








そして、久しぶりの再会に。

変わらない、みんなに。








待ち侘びる皐月くんの近くで、乾杯をしよう。








思い浮かべて並べた幸せな未来に、心が踊った。

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