第39話
是澤家のリビング。
芽衣の二十歳の誕生日に、ソレは起こっていた。
ぼ~ん、ぼ~ん……と、相変わらず鈍い時計の音が鳴る。静かな部屋の余白を埋めるよう、響いた。
けれど。さっきから上昇を続ける私の鼓動は、鳴り止まない。それどころか、時間が立つに連れ酷くなっていく。
「ん、」
「(きつい暑い苦しい……皐月くんマジ処す)」
カーペットに寝転がった芽衣の腕の中に、囚われている所為で。
スヤスヤと眠っている癖に、抱き締める腕の力がまた強くなった。この要領で時が過ぎて行けばそのうち私パスタになり変われると思う。いや、冗談じゃなくて。
下のふくふく亭から、あはははは!となんとも楽しそうな笑い声が聞こえた。今のは涼ちゃんだなコンチクショー。諸悪の根源めっちゃハイテンションかよ。
珍しく、涼ちゃんにさえも悪態を吐いてしまう。理由は、順序立てて簡単に説明すればこうだ。
芽衣の成人お祝いパーティー決行
↓
久しぶりに集結したFVと紗莉と是澤家の住人
↓
解禁したお酒
↓
芽衣の酔っ払い姿が気になる、と涼ちゃん
↓
意地でも酔うかとセーブする偉い芽衣
↓
なんとなく煽る本気で有り得ない皐月くん
↓
そして完成した、見事な酔っ払い
↓
フラフラによろける寝落ち寸前の芽衣
↓
皐月くんに促され2階で介抱
↓
していた瞬間、寝惚けた芽衣に捕まる
↓
冒頭へ。
一向に起きる気配のない芽衣を見上げる。その頬はギャグみたいに赤く染まっていて、悔しいけど可愛い。
はあ、とひとつだけ零したため息。もう、動かないモノは仕方ない、と芽衣の腕に両手を添えてみた。ついでに、瞼も閉じる。
好きなだけ文句も浮かべたし並べたし。
たまには、ね。
誰にでもない言い訳を想いつつ、縋るよう芽衣の身体にくっつく。私からも、少しだけ。
暖かい体温に、今この瞬間、世界が終わるならそれはそれで幸せなんだと、本気で思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます