第35話

HAPPY NEW YEAR~!!!



























テレビの中で、風格あるベテランタレントが思い切り叫ぶ。同調するように、残りの出演者たちも「あけましておめでとーう!!」「おめでとうございます!!」十人十色な挨拶を重ねた。





炬燵に上半身まで突っ込み寝落ちした湊と翼、ソファーでフカフカの毛布に包まれぐっすりの柊は他所にして。とりあえず無言のまま、起きている誉と乾杯する。


葛まんじゅうと、栗まんじゅうで。









翼が大量に持って&誉が大量に買ってきた和菓子たちは、まだまだ机の上に散らばっていた。高校生活最後(翼は別だけど)の年明けパーティは、誉の要望が通った結果だ。








もう何個目か分からないまんじゅう、栗の形をしたそれを食べきりため息。これもう年越しそばなんて入んないよね。おせちとか論外だよね。





ちひろんは美味しいモノ食べてるかなあ。でもきっと、皐月さんが張り切って姉弟のためにせっせこらせと拵えたりしているんだろう。





『毎年恒例で、新年は家族参りなんだ』と、今回の参加を断った彼女をふと思い出す。何だか身体の奥という奥、その全てが寂しくなって、みかんに手を伸ばした。


ピラミッドのよう、芸術的に積み重なっているのは湊の仕業だろう。性格不器用な相手は案外、手先器用だったりする。人間はつくづく不思議な生き物だ。








「誉って女運ないよねえ……なんていうかこう、両想い的な面で見たら」





べろんべろん、皮を向いていく。ずっと想っていた〝こっそり〟を伝えれば、誉は笑った。


新しい和菓子、どら焼きに手を伸ばしながら、笑った。








「こうやって時間差で、慰めパーティしてもらうくらいには、そうかもな」


「あ、やっぱバレてた?」


「聞き分けよすぎだ」


「もうちょっと渋る予定だったんだよ?柊がフライングしただけで」





今回の年明けパーティという名目。隠されていた〝誉の失恋慰めパーティ〟を、ご本人さんは存じ上げていたらしい。でも……まあ、ね。そうだよね。


なんてたって、誉だもん。

無理もない。








僕たちはこうして集まって何かを食べまくるとき、テーマを出し合いのそのそと希望を出し合い、なんとなくで決める。


ちひろんが混じってからは、みんな意気揚々と楽しさが増したけれど。ちひろんの力は偉大だ。





けれど、そんな彼女不在の今回、いつもの僕たちでダラダラと何にする?と適当な雰囲気を醸し出す予定だった。のに。








『和菓子』

『それでいこう』

『たまにはありだな』





いつもなら秒で却下される誉に同意した柊に湊もすぐさま頷いてしまった。下手くそにも程がある。


翼とこっそり視線を交わし苦笑したのは言うまでもないかも知れない。けれど一応、言っとくね。はい。苦笑しました。


だって分かりやすいんだもん。柊も湊も。























街のどこからか、除夜の鐘が届いてくる。








「でも、ちひろが幸せなら、それで。」


「うん。分かるよ。誉らしい。」








優しい優しい我らが誉の未来には、どうか誰よりも愛しい相手が寄り添っていますように。


勝手ながら、本気で祈った。

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