【1】

第2話

この世に生を受けたその日から10年。

あたしは、とある≪田舎町≫に住んでいた。



『しずか、ごめん…別れよう…』


『え…どうして…そんな、いきなり…』


『だって…お前、ぜんぜん“しずか”じゃねえじゃん?』


『うぃい?』



そして、父さんの転勤が決まってからこれまた10年──つい昨日までは、日本の大都市、東京に住んでいた。




ああ、そういえば、憧れの“東京”に住めると決まった当時は嬉しかったなあ。


『ほら俺もうやだ!吃驚したときの反応がくっそ可愛くねえ『うぃい?』とか…!しかも馬鹿でかい声で叫ばれるとか!』


『おい。』


『大体さあ?お前いくつよ!?』


『……はたちでーす。』


『いい加減、真面目に生きようぜ?』



母方の祖母と祖父の昔ながらの大きな家で、妹と飛び跳ねて喜んだっけなあ。



3分後、飛びすぎで前方後方の感覚なくなって思いっきり横にジャンピングして壁に激突して、おでこ割れたけど。



『何言ってんの真面目に生きてるじゃん!』


『真面目……?真面目に生きてる人間がなんでいきなり頭どピンクに染めてんだよ!おまっ……そりゃないってさすがに!』


『ちょっと待ちな。ピンクを馬鹿にすんなよ……?』


『しず、か……?』



焦った妹(当時5歳)が『おかあさああああん!おねえちゃんの頭が切れたあああ!いつもキれてないのに切れたあああああああ!!』って上手いこと言いながら泣き叫んでたけど。



『ピンクはねえ!恋愛成就の色なんだよ!』


『………。』


『そんなことも知らずにピンクを馬鹿にする野朗は、』


『うん。ごめん。ちょっとでも≪しずかなりの信念があったのか…?≫って期待した俺が馬鹿だった。』


『でしょう?馬鹿だよ!』


『……あーうん。もう、俺が馬鹿でいいや。ってことで、じゃあな、しずか。周りを疲れさすぐらいの元気さを控えて、暗く生きていけよ?体調、崩し気味でな?』


『え。そこは嘘でも『元気でな』って言えよ──って、え!?まじで!?ちょっと……!』



すぐに救急車で病院に運ばれた後の手術中ずっと、


『頼むから傷跡だけは……!10円はげにだけはやめて……いやあああああああああああ!!おねがいしまあああす!!』


おでこ縫うだけだから髪の毛剃ったりしないのに、何かのテレビで付け焼刃の知識を無駄に仕入れてたらしく、血眼に叫び続けていたらしいけれど。




そうしてまで喜んだ(勝手に)東京進出も、あたしには、意味のないものだったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る