優雨と優絵
第6話
朝っぱらからひと悶着?あり、充分に休息した後の夕方。
「なによちょっと。知らない間にやたらと短期間で可愛い2匹に懐かれちゃって」
「2匹って…あながち否定できないけどさ…」
見馴れた部屋の中心で、うとうと眠るほっぺに膝小僧を枕にされながら、サディスト臭をたっぷり含ませた微笑みを向けられていた。
ついこの間で10年来ほどの付き合いとなった、相手から。
ここ数週間に起こった自らの近況を、報告したことにより。
「どんな男?」
「帰国子女でレディファースト。年下、ついでに高校生。夜間ビル清掃という仕事を勤めてきた女へのお土産に、ラッシュのバスボム選ぶできた輩。」
「なにそのチグハグな特徴。うける。」
「こら。そんな低く鼻で笑うのやめなさい優絵ちゃん。美人が台無し。」
「優雨に美人とか言われても嬉しくないわよ。むしろ嫌味だからそれ。」
「なんでよ」
どこも〝うける〟箇所なんてないけどね、優絵さんよ。
私からすれば、ね。
嫌味が混ざった本音を思い浮かべながら。用意した数種類のパスタ、ミートクリーム和風明太子……とにかく量が多いその内のひとつ、えんじ色に包まれたものをフォークに包む。
茄子とミンチ肉の相性最高!なんて、誰だよお前さんと自分でツッコミたくなるキャラが脳内を占めたりなんかしても。
持ち前の美貌と、コミュニケーション能力やら場の空気にそった立ち振る舞いやら臨機応変能力やらの優れ具合を駆使し。
地方局で放送されているお昼のローカル番組、そのアシスタントとして活躍する相手の〝素〟〝本性〟よく言えば〝ギャップ〟を目の当たりすれば、嫌でも現実と向き合う思考になってしまった。
「……まあ、ね。いいと思うよ。優雨。」
「いい?」
「つきあっちゃえば?その高校生と?」
「バカ言わないでよ。軽く犯罪だから」
「そうなの?」
「いや分かんないけどたぶん。未成年だし……って、そもそも!そんなつもりじゃないから!向こうも私も!」
「うーわっ。可哀想ソイツ。」
「……勘弁して。」
赤紫色で染まるアルコールを1口。仕事終わりの所為もあってかやたらと優雅に飲み込む相手へ、遠慮なく窄ませた瞳を向ける。
百円ショップで購入したワイングラスでも、華やかな容姿を惜しみもなく晒す優絵が手にすれば高級な代物に早変わりする理不尽さを覚えた。
「それに優雨だって、いい加減、幸せになっていいじゃん」
「…………優絵、」
「そもそも、優雨は何も悪くないでしょ」
「………………」
「……別に、私が口出すことじゃないけど。」
「………………」
「あ、これ残り食べていい?」
「……うん。」
反抗を目的に鋭く名前を呼ぶも、たった1度きりで諦めて。
口を閉ざすことしか、出来なくて。
そんな弱い醜態を表に出す情けない私を庇うよう、集中して減っていたミートパスタ、その残りを指差し微笑む相手にこくりと頷く。
「やった。やっぱりパスタのソースは、王道のミートよね。」
「…………うん。」
「優雨も手、止めてないで。早く食べないと無くなるわよ。私の胃袋なめてない?」
「……なめてないよ。てかいつも思ってたけどさ、優絵、細いのにどこにそんな収めてるの。いつ見てもスタイル完璧だし」
「だーかーらぁ!優雨にスタイル褒められても嬉しくないわよ。むしろ嫌味よそれ。あんたってほんと昔から自分のこと分かってないんだから」
「なにそれ」
広く浅いお皿を片手に、豪快に処理しながらミートパスタを褒める優絵は、きっと視聴者や共演者には想像もつかない程の勢いで顔を歪めた。
眉間に寄った皺も、
歪ませている口元も、
細まった瞳も、
低い声のトーンも、
整った爪も、
麗しい容姿も、
大衆から羨望を受けるスタイルも、
達者なボキャブラリーも。
本当の本当は、誰よりも面倒見がいい、優しい性格も。
私からしてみれば、それこそチグハグな特徴ばかりをもつその全てが、優絵らしいと感じるのだけれど。
「……優絵、ごめんね。」
「……なによいきなり。気持ち悪い。」
「あと、ありがと。」
「…………っもう、いいから。分かってる。」
「私、照れ屋で心配症な優絵、大好きだよ。」
「もういいってばこら!」
口元に手のひらを添え、小声で相手への気持ちを告げる。
正直に、そっと、伝える。
顔を真っ赤にして声を荒らげる可愛い彼女に、肩をすくめて頷いた。
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