聖なる夜、当日。

第48話

🎅








数週間前と逆の立場(詳細は異なる)で、自宅に帰ってきたレンさんを見上げる。








「…………なにやってんの。」


「待ち伏せ、です。」


「合鍵。」


「棚に上げますね、レンさん。」


「………………」





ぱんぱんっ、とコートの裾を払いつつ立ち上がりにんまりと笑えば。あの日の行動を引き合いに出されるとどうしようもないのか、レンさんは不服そうに押し黙った。




へっへーん。

ざまあみろ、だ。


私にだってね、レンさん。

強行突破するくらいの度胸はあるんですよ。








鍵を開け、中へと誘ってくれるレンさんに従い室内へとお邪魔する。


仕事で使う専用の機材室や録音室、たくさんの“音楽関係”の部屋がある広いお家は、いつ来てもほんの少し、緊張した。





黒を基調にしたシンプルなリビングルームで、固く長いソファーに座るレンさんの前に立ちはだかってみる。





数週間ぶりに会うレンさんの顔には、いつになく苦しい疲労が乗っかっていた。


レンさんの抱える痛みを想像すれば、面白いくらい簡単に、熱がたまる目頭。








「……昨日、テツさんに会いました。」


「……知ってる。その後、合流したとき聞いた。」


「お墓参り、してきましたか?」


「うん。寒かった。」





素直に頷くレンさんはよっぽど寒かったのか、未だにほんのりと鼻先が赤く染まっている。


クリスマスソングにピッタリのお顔を晒しているレンさんを、とても愛おしくも思った。








マフラーを外しているレンさんの意表をつき、持っていた紙袋から“あるもの”を取り出す。


そして、私を見上げてきた瞬間に、いつかと同じよう。


レンさんの目の前に、差し出した。








驚きのあまりか点になっているレンさんの双方。

その、先にあるのは。


真っ赤に染まる、無数の薔薇の花束。








「……クリスマスにこうゆうの渡すのって男の役目なんじゃないの?」


「そんなの、誰が決めたんですか?」


「……変わんないな、なこは。」





自然に受け取って、呆れたように片眉を下げたレンさん。


大きく息を吸いこんで、吐き出していく。





そうして、どこかの王子様のよう。

私が、レンさんの前で、片膝をついた。





……けれど。思ったより恥ずかしかったから。

急遽、正座に変更してみた。





どっちにしろ、よめないらしい私の行動に?を浮かべるレンさんを、射抜くよう見つめる。





「レンさん、」


「なこ?」








そうして。

私は、はっきりと、告げた。








「私に、貴方を幸せにさせてください。」


「………………」


「私と、幸せな家族になってください。」


「………………。」





婚約指輪も。

婚約届けも。


具体的なものは何も用意していない。








それでも、真剣だと理解したレンさんの表情は、みるみるうちに固くなっていく。

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