第24話
「どうした?しんどい?」
「(………………)」
ふるふるふる、と、否定の意として力なく首を横に振ってみた。
それでも、きちんと、伝えられそうにない。
それでも、きちんと、伝えたい。
伝えなければ、いけない。
「私、15歳のときからずっと、ひとりだったの。」
「うん?」
「仕事を始めたのは10歳。両親といっしょに上京して、ここに住み始めたのは、13歳。」
「うん」
「でも、たったの2年で、変わった。全部、変わった。」
ベットルームのエアコンはがんがんに起動していたのに、リビングルームはエアコンは疎かカーペットにさえ電源がついていない。
そんな、優しすぎるレンさん、ジェントルマンなレンさんに甘えて、正面に座る。
足の裏から伝わるラグの柔らかい毛糸が、少し私の正気を取り戻してくれた。
突然の身の上話にも、嫌な顔ひとつせず、不思議な顔ひとつせず、つきあってくれるレンさんは。
どうしてこんなにも、優しいのだろう。
こういうときに限って、優しいのだろう。
「大袈裟に話しちゃったけど、ただのよくある話なんです。“父親が娘の収入を派手に使った”から、“母親が怒って離婚して追い出した”けど、“結局その母親も、新しい男みつけて結婚して出て行った”」
「………………」
「それだけですよ。それだけで、私が引っ越すのも癪だし。このマンション気に入ってるし。住み続けてたの。」
「…………それで?」
「それで、そんなマンションに誰かが──しかもレンさんがいることが…………なんかもう、奇跡みたいで」
「………………」
「ごめんなさい急に。困るよね。」
ぽろぽろ。
ほろほろほろ。
涙のまま笑えば、レンさんが悲しい顔で瞳を細める。
そして、前かがみになって。
カーペットに座る私に顔を近付けて。
両手を取って。
視線を合わせて。
「なこ、俺のこと好きなの?」
真剣な声で、そう言った。
「…………はい。好きです。大好き。」
だから私も、真剣な声で、そう告げた。
だってね、レンさん。
本当に、レンさんだけなの。
苦しいときに。
悲しいときに。
寂しい、ときに。
いつもいつも、助けてくれるのは。
いつもいつも、助けてほしいのは。
この世界で、たったのひとり。
レンさんだけなの。
他にはもう、なんにも要らないの。
「そっか。」
「レン、さんは?」
「ん?」
「私のこと……、」
「…………可愛いって、思ってる。」
思い切って訊ねた、この想いの集大成。
伝えられた想いに。
レンさんだけが使える魔法で。時は止まる。
ゆっくりと唇に触れられたレンさんの唇は、とても冷たくて。
私が熱すぎるのか、なんなのか。
もう、よく分からない。
音もなく、焦れったく、ほんの少しの距離があく。
「なこ、」
「っは、い。」
「好きだよ。」
「……レンさ、っ」
今度はさっきよりも強く深く、重なった唇。
後頭部に回ったレンさんの手のひらは、とても大きくて暖かくて。
幸せすぎて、また泣けた。
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