第16話

「………………」


「………………」


「「………………………………」」





無言の我慢大会でも行われているのかと、普段ならツッコんでいるレベルの沈黙が流れ続けていた。


周りのガヤガヤが余計に私たちの静を引き立てていて、悲しくなるほどに。








けれど。





「…………スマホ。」


「え?」


「電話かけるとこ出して、貸して。」





相も変わらず、飄々とした様で話を紡ぐレンさんがやっと喋ってくれた。ところで、言われた要望にマッハのスピードで応える。





するとレンさんは。

私のアドレス帳に数字を並べて。

登録して。

発信して。








「今度は本当。」


「………………」


「嘘じゃないよ。ラインも、入ってるはずだから。」





着替え済みだったのか、私服(鼻血ものにカッコよかった)らしきカーゴパンツのポケットから自身のスマホを出して。


着信中の画面を、さっきの私みたいに突き出してきて。








「俺、根性ある奴は好きだよ。多方面に。」


「………………。」


「それに、いっつも自信満々な態度全面押しなくせに。そんな耳真っ赤にして伝えられても、ウソっぽくも安っぽくも聞こえない。」


「………………」


「ちゃんと本心で言ってくれてるの、分かるよ。」


「っ、」


「ありがとう。なこちゃん。」





少し照れくさそうに、優しく微笑んだりなんてしてくるから。


私の視界は、バカみたいに滲んでしまった。





レンさんは、狡猾な男だ。


無意識かなんだか知らないけれど。飴と鞭戦法を容赦無く振り翳してこられても、こっちは腰砕けになるだけだよ。





こんな風にされたら、もうお手上げだ。

後戻りなんか、できやしない。



そんな気持、さらさらないけれど。








「この前、意地悪してごめんね。」


「……レン、さん…………」


「これから、よかったら。改めてよろしく。」





屈託のない笑顔で、腕を伸ばして。

時に切なく時に激しく、時に暖かく。


レンさんが奏でるギターの要、美しい手のひらを、差し出してくれる。





初めて受けたオーディションでも、厳しくて怖いと評判な実力ある有名監督主催のオーディションでも。


緊張しない毛だらけな心臓は、私の武器だと思っていたのに。





レンさんは。

レンさんだけが。


私を心臓を不規則に動かすことに、長けている。

いとも簡単に、今までの私を覆す。








「……ぜひ。これから、よろしく、です。」


「うん。」


「連絡、します。お誘い、かけます。」


「…………一応、ほどほどにしてね。」


「っ分かってますよ!」





レンさんの厚意に応える私の両手は、微かに震えていた。

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