レンさんは狡猾

第12話

🎸









6ヶ月もの間、待ちに待ったこの日がやってきた。


決戦の日。

vegetablooseのLIVE TOUR初日、東京公演。








「まさか自らファンクラブに入るとは……」


「なによにゃーあ?文句でも!?」


「いえ。如何にも貴女らしいです。」





べじるーのべしたりあんとして登録し本日開催予定とあったライブ抽選に挑戦し、見事合格?となった私は。


含みある言い方をしてくるにゃあーを横目にも、内心はエベレスト登頂(したことないけど)よりもはるかに突き抜けた有頂天だった。





レンさんに会える。

例え、一方的なものでも。


レンさんがきっと、人生の全てをかけ積み重ねてきたバンドを、生で見れる。





そう思うと、半年間溜まりに溜まった下衆な思考(なにかは敢えて明記しない)なんて、塵になって灰になって。飛んでいった。



ああ。

どこまで私は単純なのかしら。

どこまでもかしら。








関係者席でもなんでもない場所へ(しっかりと2枚分申し込んでいた)チケットを手に、にゃーあと並び座る。


TwitterやらFacebookやらInstagramやらネットニュースやら2ちゃんねるやら、未確認適当情報を主食とする奴らの対策として、変装はバッチリだ。








いやはや。

しかし、しかし。


こんなにも大勢の人混みに、ただの女として紛れ込むのは何時ぶりだろう。





まだ私、ぴっちぴちの20歳なのに。

枯れそうでやだな。








なんて、緊張のどきどきと歓喜のそわそわで不安に染まる心。





「ああ、そう言えば。」


「どうしたにゃーあ?」


「楽屋パス。事務所権限で奪い取ってきましたから。終わったら挨拶に向いましょうね。」





そんなものは、安定のにゃーあが見事に取り払ってみせた。



なんて素敵な女性なのにゃーあ。

どこまで気を遣えれば気が済むのにゃーあ。








「私、男だったら速攻でにゃーあをモノにしてたよ。」


「それは…………反応に困りますね。」


「なんじゃいそれ。」





真顔でされた素っ頓狂な発言に、ざわめきたつ会場で、思いっきり爆笑した。








でもこれは、ちゃんとした本音なんだよ。

にゃーあ。





にゃーあはとっても、素敵な女性だよ。

恥ずかしくてとてもじゃないけど言えないけど。


れっきとした、事実だから。









「あ、そろそろですね。」





高身長なにゃーあを隠れ見ていた視界が真っ暗闇に包まれたと同時、彼女の落ち着いた声を合図に。


vegetablooseの。

レンさんの。


彼らのステージが、光に包まれる。




そうして本番は、始まった。

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