第6話
昼休みが始まれば、私たちは何時もの場所に自然と集う。
「かよ、遅ーい!」
「やっときたな。異様なのんびり具合はかよの特性だけど」
「まあ、そうだよね」
「自分で言わないのー!」
校舎内、一階の片隅にある階段。滅多に人が通らないここを入学してすぐに見つけた巧は、どうやら鼻が利くらしい。無論、物理的な意味ではなくて。
教室からここへと足を運ぶまでに疲労した体を労いつつ、不満そうに口を曲げるさなと巧に頷いた。
「かよ、今日は何パン?」
「苺ジャム。甘いよ。元気でる。」
「うげぇ…」
「もぉ…巧くん品がない!」
2限目を終えてすぐ、パン専用の自販機で購入していた昼食を、手摺に持たれ一口囓る。
3学期に突入し月曜日から金曜日までのこの時間、転校してきた当日に巧の悪友と化し昼食を共にするようになった榊(さかき)に必ず問われるそれ。
口に広がるベタついた甘さをごくりと呑み込み答えた。
甘味アレルギーと自称する巧の、食事中には相応しくないリアクションにさなが注意を飛ばす。
この姉と弟のようなやり取りは、少し好きだ。
調子に乗る2人を安易に予測できるため、本音であるその感想を伝えたことはないけれど。
「あ、そう言えばみんな、ニュース見た?」
「ニュース?何の?」
紙パックのピーチジュースを幸せそうに喉へと運ぶさなが首を傾げる。ガッツリボリュームの焼きそばパンを貪る巧も同様に。
「この近くにある、あの有名?というか話題?だった児童養護施設の職員、殺されたらしい。昨日の朝、見つかったって。」
そして、爽やかなベージュで染まる缶コーヒー、カフェオレを片手に持つ榊の淡々とした説明口調に、この場にいた誰もが息を止めた。
ほんの、一瞬だけ。
2月の午後。人の気配がない廊下この場所は、上映中の映画館、観客席のような静けさだ。すぐ上では誰かの足音、遠くからは燥ぐ生徒の名残が届いてくるにも関わらず。
「…知らなかった、俺」
「私も…今朝、ニュースとか見なかったから」
「私は、それ、見たよ。」
「さすが、かよ。校内一の才女。えーっと…確か…あ、あった。これだこれだ。ほら。」
同じ段差に並び座るさなと巧の正面に屈み、スマホを提示する榊。
それを食い入るように見つめる2人の後頭部を見下ろしていれば、榊が“お前も見ろ”とでも訴えるような視線を伸ばしてきたため、さなの隣に座る。
そして、榊の手のひらの上に寝かせたスマホ画面に出ているあるニュース記事を、一文字も残さないよう読み取っていった。
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