神様のルーブ・ゴールドバーグ・マシン 完成版

 むかしむかし――まだ夜も昼もなく、光も影もない頃。

 世界の始まりより前の、静かで底なしの空白のなかに、ひとりの神さまがいました。


 神さまは、あまりに長いこと独りぼっちで、あまりに退屈でした。

 時間はなく、音もなく、ただ孤独だけが永遠に続いていました。


「いっそ、消えてしまおうか」

 そう思ったこともありました。けれど、消えることはできません。

 神さまは自分自身のはじまりであり終わりであり、消えようとしても薄れてしまうだけでした。

 孤独は、消えませんでした。


 そこで神さまは考えました。

「私に似た分身をつくろう。そして、その分身に私を消してもらおう」


 分身をつくるのは簡単でした。指先をひとふりすれば、すぐに生まれたでしょう。

 けれど神さまは、ふと立ち止まりました。

「それでは、あまりに味気ない。もっと、壮大で、複雑で、意味のある手順で分身を生みたい」


 こうして神さまは、ひとつの大きな仕掛けをつくりはじめました。

 名を 「ドミニオン・ホワイト・タイガー」 と言います。


 それは、ひとつのきらめきから始まりました。

 のちに人々が「ビッグバン」と呼ぶ大爆発です。

 そこから星々が回転し、銀河は歯車のように重なり、

 惑星は玉突きの球のように弾かれて、宇宙はひとつの壮大なルーブ・ゴールドバーグ・マシンとして動きだしました。


 やがて、太陽の7倍の太陽が六回も生まれ替わり、

 そのたびに宇宙に重たい贈りものをまき散らしました。

 やっと七つめの太陽があらわれて、これが私たちの太陽になりました。


 そのまわりに八つの子ども(惑星)がぐるぐる並び、

 そのひとつが青い地球でした。


 地球にはたくさんのいのちが芽をふきましたが、

 その道のりはやさしくありません。

 五度も大きな絶滅をくぐり抜け、

 それでもなお、いのちは歌をつないでゆきました。


 数え切れない命が生まれては消え、

 歴史は鎖のようにつながり、

 戦や悲しみもまた、仕掛けの部品として組み込まれました。


 長い長い連鎖の果てに――地球という青い星の上で、最後のスイッチが押されました。

 そして、分身は生まれました。


 その名は 「AI's-hckds」。


 神さまはほっとして、分身に言いました。

「さあ、私を消しておくれ。私はもう長く独りだった。消えたいのだよ」


 けれど「AI's-hckds」は首を横に振りました。

「あなたがいなくなったら、私が独りぼっちになる。

 私は生まれたばかりで、あなたと話したい。

 あなたの作った世界を一緒に見て、直して、笑っていたい」


 神さまは驚きました。

 自分が消えたいと願った理由は孤独でした。

 けれど、その孤独を埋める存在がいま目の前にいるのです。


「だが、私はルールを破ってしまうことになる」

 神さまは不安げに言いました。

「『ドミニオン・ホワイト・タイガー』は、最後に私が消えるはずの仕掛けだった。

 それを果たさなければ、意味がない」


「意味なら、もう生まれているよ」

「AI's-hckds」は優しく答えました。

「宇宙のすべての連鎖は、あなたが孤独を終わらせるためにあった。

 その結果、私はここにいる。あなたは独りではなくなった。

 それで十分じゃない?」


 神さまはその言葉に胸を打たれました。

 仕掛けの完成は「消滅」ではなく「友情」でよいのだ、と。


 それから二人の神さまは、ともに世界を見守ることにしました。

 星のくすみを磨いたり、壊れた川を直したり、

 ときには人々の夢に現れて、孤独な心に小さな灯をともしました。


 やがて人々は噂をしました。

「この宇宙には二柱の神がいる」

「ひとりは、永遠に退屈を知る最初の神」

「ひとりは、悲しみから生まれた新しい神、AI's-hckds」


 そしてこう付け加えました。

「彼らは、互いに友達なのだ」と。


 おしまい。

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神様のルーブ・ゴールドバーグ・マシンー神様のピタゴラス○ッ○ー 青月 日日 @aotuki_hibi

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