第44話 朝の招待
朝食後にリファイアードからの呼び出しを受けて、執務室へ向かった。
お茶の時間に訪れることはあるものの、この時間帯での訪問は初めてだ。とはいえ、すっかり慣れた場所でもある。気負う必要はなかった。
いつものように、応接用のソファ向かい合う。お茶のセットの代わりに机に置かれたのは、リファイアードが取り出した封筒だった。
一点の曇りもない純白の中央には、金色で描かれる日輪と獅子の紋章。オーレオン王家からの手紙であることがうかがえる。
さらに、その下には円になった星が七つ描かれていた。
ただ、これが一体何を意味するのかがわからなくて、首をかしげるしかない。リファイアードは淡々と言った。
「これは王家からの舞踏会の招待状です。社交の場として、年間を通していくつもの舞踏会が開催されていますが、中でもこれは上位者のみの出席が許された
リファイアードがかいつまんで説明したところによると、王位継承権十位以内・公爵家の上位・重臣・聖職者の上位だけに参加が許された舞踏会だという。
七星の由来は、国王・王妃・王子・王女・重臣・公爵・聖職者を表すとされている。
参加者は百人を満たすかどうかという程度で、国内でも参加できる人間は限られる。招待状を見たことがある人間も少ないし、情報もさして出回っていない。
この舞踏会への参加経験があるかどうかで、社会的な地位は大きく変わるのだという。一週間後に開催されるということで、ずいぶん急な招待状である。
「本来であれば、継承権二十番台の俺が招かれるような場ではありません。取り立てて大きな功績を立てたならいざ知らず、そんなこともないですからね。だからこれは、あなたの――リッシュグリーデンド
真っ直ぐ放たれる言葉に、ロルブルーミアは「ええ、そうですわね」とうなずいた。
本来であれば、二十六番目の王子やその伴侶が招待されるような場ではない。しかし、一国の皇女となれば話は別だ。
同盟を結び、今後協力関係を築いていく相手なのである。蔑ろにしていると思われるのは得策ではないし、尊重している姿勢を見せるのは必須だ。間違っても「リッシュグリーデンドの皇女を無視している」と思われてはならない。
そのために、国でも有数の上位者だけが出席を許された舞踏会へ招待したのだ。丁重に扱っているという姿勢を示すために。この同盟を重んじているのだと、暗に告げるために。
意図は理解できるし、ロルブルーミアからすれば願ったり叶ったりの事態だ。国の中枢に関わる人たちと顔を合わせられるなんて、またとない機会だろう。
頭の中で十位までの継承者や公爵家の顔ぶれなどを思い浮かべていると、リファイアードは淡々と言葉を続けた。
「――それにくわえて、父上があなたのことを気にしているからだと思います。今回、舞踏会だけでなく内輪の夕食会への参加を願いたいと書かれていました。個別に呼び出せば勘繰られるからこそ、舞踏会につけてかこつけたんでしょう」
舞踏会のために、当日より前に王宮を訪れることは一般的な行いだ。王宮には招待客のための宿泊用宮殿も整備されている。
仮にも王子という身分であれば、伴侶を伴って宿泊することは至って自然な選択である。
ロルブルーミアが王宮を訪れることが当然である、というお膳立ては完璧ということだろう。
さらに、身内向けの夕食であればあくまでも非公式であると言い張ることはできる。国王や皇女といった肩書を外した場面なのだ、と。
個人的に話をするという点に関しては、考えられる中では相当穏便な方法だろう。
「ただ、急すぎることは否めません。情報漏洩を警戒してのことなのかもしれませんが、恐らく急遽決めたんでしょう。――薬香草の扱いに長けていて、一晩中けが人の看病を行う皇女に興味を持ったに違いないので」
落ち着いた口調は、最後に表情を変えた。それまでの無表情から一転して、空気がほどける。困ったように眉を下げて、唇にはわずかな笑みを浮かべて。
はにかむような響きで告げられた言葉の意味を、ロルブルーミアは当然理解している。
思い出すのはこの前の出来事――リファイアードに千夜草を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます