第6話:インキとヨウキ
「⋯⋯⋯かお⋯⋯あらいたいわ⋯」
あ、やっと起きた。
「おはようマイニー、いまからピノが湖に水汲み行くって」
「お前も来るか?」
「⋯⋯⋯行く」
火の消えた焚き火の横から、ゆっくりと起き上がるマイニーの目は半分しか開いてない。
「⋯⋯んん、みんな早起きなのね。イグリの姿でよかったわ、私朝弱いから顔が⋯⋯」
「いまさら気にする?」「見飽きたわお前の寝ぼけ顔」
ヒョンの頭にブックの角が落ちたところで、イバラの隠れ家を出た。
「あっ! 昨日のイグリたちの抜け殻の山だ!」
「へえ、隠れ家は真下にあったわけだ」
「木を隠すなら森のなかってやつね」
昨夜使った入り口の反対側にあいた小さな穴を出ると、頭上に積まれた百はゆうに超えてるだろうイグリの抜け殻たち。
「インキとヨウキは大きいの! 亡骸の下を移動すれば、見つからないと思ったの!」
たしかに、この山の下のイグリは上空からじゃ見えないだろーけども、
「敵が大きいとゆうか、ぼくらが小さいというか」
「なっ? ヴィジョンで見た感じじゃ、普通に大人の人間サイズだったもんな」
「イグリからすれば大巨人じゃない」
ちっちゃい体って怖いな⋯と、イバラのジャングルを警戒しながら進むと、大きな水辺が見えた。
「ああー。これは海ですね〜」
「だからオレらがちっちぇの」
――ふたつの大きな影が日光を遮る雲のように、ぼくたちの頭上に浮かんだのはそのときだった。
『あら? ごらんなさいインキ、キラめく
『あら? あれは私たちじゃなくてヨウキ?』
柔らかそうな指のスキマからのぞく白い歯。深緑と黄色に分かれた長い髪。鏡合わせのようにそっくりな見た目をしたその女たちの耳元には、鳥籠のようなピアスがついている。
「――ッ、逃げるの!」
あれが敵、と身構えるぼくらのトゲをひいて、「【分身】!」ピノの体が六つに分身すると、ぼくたちそれぞれのトゲをつかんで五方向に分かれ駆け出した。
『【アヴィアル・ラ・カーゴ】」
それと同時、インキが手を伸ばすと、トゲをつかみあった一組を囲むように、鳥籠が出た。
「ピノー!」
あれはピノの本体なんだろうか、それともマイニー、ヒョン、そんな場合じゃない助けなきゃ――「シル!いまは逃げるの!」
『当たりかしらインキ?』『さあねヨウキ? こんな醜小生物見分けがつかないわ』
鳥籠がインキの手元に戻ると同時、ぼくはピノの分身体に引きづられてイバラの穴に身を潜めた。
*
「危なかったの! あれがインキとヨウキなの! 分身体、捕まったの!」
「――ピノ! あなたが本体なのねッ⁉︎」
「そうなの! いつも、こーやって逃げてきたの!」
よかった、みんな無事だったみたいだ。籠に捕らわれたのはピノの分身体同士だったらしい。イバラの内部で合流したぼくたちはほっと胸を撫で下ろす。
「見るの! インキとヨウキはああやって捕まえたイグリを飲むの!」
ピノが階段状になったイバラの繊維らしきものを三段、ジャンプして小穴をのぞいた。ぼくたちも続いた。
インキが鳥籠から分身体をつまみ出した。ピノが「⋯⋯ごめんなの」と言うと、分身体がポンと姿を消した。ぼくたちを連れてきてくれた分身体も同時に消えた。
『ハズレを引いたようねインキ? ストックはあるから問題ないわ』
ヨウキが『【
そのトゲは、ピノたちのそれより乾いて見える。
「生きてるイグリ!まだいたんだ!」
「そうなの、昨日は子供たちがいたから言わなかったの。亡骸じゃないイグリはいるの⋯⋯いるの」
これでぜーいんなの、とピノが言うと同時。
『さあ、今日はどの魔力にしましょうインキ?』
『
鳥籠のスキマから指先でイグリを弾くヨウキと、汚物を見たようにイグリから目をそむけるインキ。
『うふふ、私たちの美を保つ以外に醜小生物に価値はないもの』とヨウキは一体のイグリをつまんでワイングラスの上にかざすと、『【ジュスティス】』何かの魔法を唱えた。
イグリの体から、黒い液体が、絞り出された果汁がワイングラスをつたうかのようにして、そこを満たすと。
「あれがイグリの魔力なの⋯ああやってインキとヨウキは少しずつ魔力を絞って、若返っていくの⋯⋯」
にぎったスポンジが湿りをなくすように、魔法をかけられたイグリのトゲが、さらに乾きをましていく。
「ひどい」マイニーがぽつり。
「外の⋯⋯山を見たとき、なんというか、ナニカが抜けて、殻だけが残ってるように見えたの」
「あれは、魔力を空っぽにされた、抜け殻だったから⋯⋯だ」
「――じっとしてらんねえぜおい、胸糞わりぃ」
そのときヒョンがいまにも弾けそうにカラダをふるわすが、「だめよヒョン⋯。 この世界でイグリたちを助けられるのは、わたしたちしかいないの」
「――まだだ、わかってる、まだだ、いまじゃねえ」ヒョンが、自分に言い聞かすように呟いた。
「あのね、⋯⋯前の隠れ家が見つかったとき、みんなはオトリになってくれたの。 あたしと長老に、生まれたばかりの子供たちだけでも逃して欲しいって、そういってたの」
「そう⋯⋯ごめんなさい。 あなたたちは、すでに戦っていたのね」
なにかを守るために逃げることだって、そうだものね――マイニーが自身の言葉を恥じたように下を見る。
「いいの! 昨日、あたし、気づいたの! 可能性はきっとあったの! 逃げるだけじゃなくて、奪われるだけじゃなくて、みっつめの道はあったはずなの!
こわくて、考えることもできなくなってただけなの!」
こわくて、みっつめの道⋯。
「――それだ! みんな見るのをやめていったん現実から逃避しよう!」
そうだよピノ!ぼくたち、いまのぼくだちがそれだ!――トゲで
「つらい、苦しい、ひどい、なら、まずは見なけりゃいいんだ!穴でもどこでもひっこもう!
それからぼくたちに出来ることはなにか、みっつめの道を探してみよう!」
ピノがぽかーんと口を開いたまま、ぼくを見る。でも、これがいまできる最善だと思うから。実際に目にしてわかった。ヤツらの魔法とイグリのカラダは相性が悪すぎる。
とはいえ、ぼくたちは子供の頃から、圧倒的に不利な体格差や魔力の差を、小細工使ってでも勝ち抜いて来たから。
「耐えて、逃げ続けてでも生きてるキミたちは間違ってないとぼくは思った!だからいまは生き延びる道を最優先にしよう!」
「⋯⋯シルの言う通りね」
「そしてその先に繋がるみっつめの道を考えようッ!
⋯⋯⋯⋯マイニーが!」
「おいおい結局他人任せかよシル」
「うん! ぼくにはムリだから! 強がってる場合じゃないし、使えるものは使えばいいと思う!」
「わたしは物あつかいかしら?」自信を取り戻したように鼻を鳴らしてるとこ悪いけどマイニー、
「ごめん!使えるひとは心底イヤそうな顔されても使っちゃおう!ピンチのときくらいさ! あとで恩返しできたらハッピー!」
おバカ――ぼくの頭にブックの角が落ちた。
「でもまっ、そうだな。 ここでイラついても胸を痛めてもどーしよもねえかっ。
オレらが考えるべきは、あの女どもから自分の身とピノたちを守るスベだ」
「あのクソ女らの魔法はなんとなくわかったわ。 遠距離からでもとらえる鳥籠と、鳥籠の拡大・縮小」
「あとあのクソといったらクソに土下座しないといけないクソ女たちは美と若さに尋常じゃなく狂ってる! そこにきっと、スキがあるはずだよ!」
「だからえっとあの、く、くそ」
「「「ピノ!!! キミの(お前の)(あなたの)きれいな心は汚さないで!(汚さなくていい)(汚れないでいて欲しいわ)」」」
「⋯⋯わかったの!」
あの女たちが若さを保ってるってことはそこに魔力はあるのよ――とコメカミをおさえたマイニーが言って、ピノとぼくら三人は隠れたみっつめの道を探すため、長老と子供たちの待つ隠れ家に帰った。
「⋯⋯何かしら、この惨状は?」
「子供の喧嘩にしてはグロすぎない!?」
「いやよく見ろシル。果実を食い荒らしてるだけだぜこりゃあ」
イバラの穴に戻ると、そこには色とりどりの果汁にまみれた子供イグリたちがいた。
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