カラスと白い部屋

閒中

カラスと白い部屋

ある日、星のない夜のように真っ黒なカラスは、いつものように真っ暗な夜空を飛んでいました。


そこでふと街を見下ろすと、開け放たれた窓から真っ白な部屋が見えました。


白なんて、穢らわしい。

なんて嘘くさい色だろう。

黒が世界で一番美しいのに。

カラスは腹を立ててその部屋に降り立ちました。


真っ白な部屋には真っ白なベッド、真っ白な花瓶、真っ白な花、真っ白な床と壁…。

白以外の色が何も無い完璧なまでの白い部屋でした。


カラスは許せませんでした。

カラスは自分の羽根を闇のように真っ黒に滲ませて、真っ白な部屋を自分の羽根で絵の具のように真っ黒に塗りたくりました。


みるみるうちに黒くなる部屋。

カラスは自分の身体をどんどん黒く滲ませたので、気付かないうちに羽根が段々短くなっていきました。


そして真っ白だった部屋は、カラスによって真っ黒な部屋に変わりました。

カラスは満足しました。

ですが、部屋があまりに暗く、自分の身体が見えません。


自分は何処にいる?羽根は?身体は?

羽ばたこうとしても羽根の重さを感じない。

声を上げても返って来るのは沈黙だけ。

何も見えない、何も聴こえない。


嗚呼沈んでいく。黒に全てが沈んでいく。

何も無くなる。自分が無くなってしまう。


動けなくなったカラスはとうとう真っ黒な部屋に溶けていってしまいました。



ある日、一羽の白い鳥が黒い部屋に降り立ちました。

何て恐ろしい黒だろう。

この世で一番美しい色は白なのに。

白い鳥は、羽根を光のように白く滲ませました。




〈終〉

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カラスと白い部屋 閒中 @_manaka_

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