王宮暮らしが始まるみたいです

9.歓迎された私

 王妃様と馬車に乗り、王宮に向かう。

 青と花を基調にした王妃様の専用馬車の内装は王妃様によく似合っている。


 普通なら侍女も乗り込むのだけれど、王妃様はあえてふたりきりにするよう命じた。なので侍女は別の馬車で、今は私と王妃様のふたりきりだ。


 馬車が走り出して私はまず王妃様に礼をした。


「ありがとうございました。これも全部、王妃様のおかげです」

「……顔を上げて頂戴。頭を下げるのは私のほうよ。

 本当に辛い思いをさせて、ごめんなさい」


 王妃様が頭を下げるのを慌てて制する。


「そ、そんな! 王妃様には感謝してもしきれないくらいで……!

 顔を上げてください。私たちは――親子になるんですから」


 私の言葉に王妃様が顔を上げる。

 今の王妃様にさっきまでのラスボスの風格はない。


 考えてみれば王妃様も20代半ばなのだ。

 こんな状況に遭遇することが頻繁にあるとも思えないし、私なら胃液を吐いてる。


「そうね。リリアちゃんの言う通りだわ。

 これからは親子になるんですもの」


 王妃様がきゅっと笑った。

 鋭い目元が和らぐと、猫のような可愛らしさがある。


「リリアちゃんには申し訳ないけど、王宮に帰っても色々とやることがあるの。

 本当はすぐに休ませてあげたいけれど――」

「大丈夫です。養子の件を進めないとですもんね」


 王妃様が公爵家へお見舞いに行ったと思ったら、そこの長女を連れ帰ってきた。

 しかも養子にする。


 話だけ聞くと王宮がひっくり返ってもおかしくない大ニュースだ。

 私がその当人なんだけどね!


「ええ、そうよ。それに宮廷医にも診てもらわないと」

「えっ……?」


 私、病気じゃないんだけれど……。

 しかし、そんな考えは杞憂だった。


「リリアちゃんは自分で分からないと思うけれど、身体がかなり細いわ。

 骨もちょっと心配になるくらい。

 お医者様に相談して、今後の食事を考えないと」

「あっ……そ、そうですね」

「食事にはバランスが大事なの。

 私も詳しくないけれど、骨を育てるなら牛乳とか小魚とか……」


 王妃様の中では私の育成計画が進んでいた。

 すっごく頼もしい。

 

 


 王宮へと到着した私は、まず陛下に謁見した。

 原作の中だとあまりというか、ほとんど出番のなかった王様だ。

 あまり身体が強くないとか……でも書類仕事の鬼だったはず。


 実際に謁見したローダイン陛下は杖をついていた。

 黒の髪の毛に優しそうな目元。でも顔色はよろしくない。


 王妃様が外を飛び回り、陛下がうちを固める。

 それが今のエンバリー王国だった。


 王族に対する礼を取ろうとすると、陛下はほがらかに手を振った。

 

「そんなに構えなくてよい。王妃ヒルベルトから仔細は聞いている。そなたには苦労を掛けた」

「もったいない御言葉です」


 陛下が玉座から降りてきて、そのまま屈んで私の顔を見つめる。

 その眼差しは本当に優しい。胸が温かくなる。


「……顔立ちは本当に母君のシャーレによく似ている」

「私の母をご存じで?」

「うむ、余のほうが年齢が上だったが。まさに才媛。

 学院時代、その魔法には何度も舌を巻いた」


 小説の中でもリリアの実母の記述は少ない。

 人づてにこうして聞くのがなんとなく不思議な感じがする。


 同時に母の偉大さもわかる。

 私も王家に入るからには、しっかりしないと。


「今日からリリアは我がエンバリー王家の一員だ。

 まぁ、あまり堅苦しく考える必要はない。

 ゆっくりと慣れていって欲しい」

「はいっ……!」


 そこからいくつか話をして、宮廷医の準備ができたとのことで。

 謁見は終わった。


 年配の女医が丹念に私の身体中を検査する。

 魔法を刻んだ服を着せられ、ひたすら指示に従う。

 魔力式レントゲン、MRI……そんな感じだ。


 最後はぐるぐる回る台に私を張りつけて、内臓を見るらしい。

 おおう、バリウム検査……?

 こちとら前世で経験済みです(好きだとは言っていない)


 で、機材の入れ替えだとかで午後の遅めに私は解放された。

 続きは1時間後。


 さすがにこの検診で王妃様は一緒ではない。

 王妃様はついてこようとしたのだけど、健康診断みたいなものにまで一緒はべったり過ぎるので断ったのだ。

 王妃様付き侍女が横にいるので大丈夫だし。


 空き時間ができたので、私は侍女に案内されて王宮の中庭に向かう。

 気分転換というやつだ。


 初夏にふさわしい花の香りに癒される。

 そこで、ふいに鈴のように軽やかで気持ち良い声に呼びかけられた。


「――君が僕の新しい家族?」


 振り向くと中庭の端に、黒髪のとても端正な顔立ちの少年がいた。


 目元はぱっちりとして長めの前髪がよく似合う。

 天使でさえも嫉妬するほどの造形美で、全体的に顔も身体も整っていた。

 そしてどことなく王妃様に似た、輝く金色の瞳。


 彼が、彼こそが。原作では私の婚約者で。

 そして十年後に他ならない私が婚約破棄で捨ててしまった王子様。


 第一王子のフェルト・エンバリー殿下だった。

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