厨二病を拗らせていた黒歴史を隠すために高校デビューした私、一軍ギャルに秒バレしたけどなぜか溺愛され始めました!?

Laura

プロローグ

 あ、終わった。

 放課後。私は教室の壁際に追いやられ、クラスの一軍ギャルグループ三人に囲まれていた。


「これ、宮坂?」「中学ん時のやつ〜?」「…………」


 な、なぜその写真を……!

 見せられたスマホの画面には、中学時代の私がばっちり映っていた。


 当時、私はとあるゲームに登場するシスターキャラにどハマりしていた。

 それからというもの、仕草や言葉づかいを真似し、休日は衣装まで寄せてSNSに投稿——まさに、黒歴史全開モード。


 私はスカートの裾をぎゅっと握りしめ、あちこちに視線を泳がせながら必死に言い訳を探した。


「あ、あはは……だ、誰だろうね、それ。私、全然分かんな〜い」


 脳内会議の結果、出てきたのはテンプレの中のテンプレ。

 完璧な言い訳なんて浮かぶはずもなかった。


「えー? でもこれ、言い訳できないくらい似てるよ?」


 ひぇっ……。完全に確信してる声だ。

 終わった。絶対バレてる。


 ——よし、こうなったら!


 私はギャルたちの間をスルリと抜け、全力疾走で逃げた。

 『廊下を走ってはいけません』? そんな標語、今は風のようにすり抜けるしかない!

 とにかく、遠くへ。彼女たちの視界の外へ!


 ……が、数分後。私は盛大に迷子になっていた。

 なんせ、うちの高校はとんでもなく広い。いわゆるマンモス校ってやつで、教室も階段も無限にある。入学したての私にとっては、まるで立体迷路。


 とにかく上へ上へと逃げたのは、完全に悪手だった。運動苦手なのに、どうしてわざわざ登る方向を選んだんだろう。焦りって人をバカにする。


「……はぁ、はぁ……ここまで来れば……大丈夫、でしょ……」


 辿り着いたのは、校舎の上階にある広めの休憩スペース。

 放課後だからか人影もなく、ぽつんと置かれたベンチが寂しげに見える。


 乳酸でパンパンの足を引きずりながら、私はそのベンチに腰を下ろした。


「ふぅ……ちょっとだけ、横になっても……バチ当たらないよね……」


 ——あぁ、楽すぎる。

 背中が木の冷たさを受け止めた瞬間、緊張も疲労も一気に抜け落ちた。

 遠くから聞こえる吹奏楽部の音、グラウンドの掛け声。放課後の音は、どこか心を落ち着かせる。


「はぁ……高校デビューして秒でバレるとか聞いてないんですけど。しかも相手が一軍ギャルって……」


 そう、私——宮坂やよいは、高校デビュー真っ最中の一年生。

 デビューの理由はただひとつ。中学時代の黒歴史、すなわち“厨二病時代”を完全に封印するため。


 あの頃の私は本当に救いようがなかった。

 【シスターやよいのお悩み相談室】なんて、思い出すだけで背筋がムズムズするような活動をやっていたのだ。


 しかもそれが、なぜかウケていた。

 面白がってただけだとは分かってる。けれど当時の私は、その「ウケ」に調子づいた。


 教室の隅で始めた“相談室”はいつしか出張形式になり、他クラスからも呼ばれるように。

 そして——あの日。いつも私の言動を笑って見守ってくれていた親友・矢島彩夏が、真剣な顔で言った。


『やよいちゃん、本当に……取り返しのつかないことになるかもしれないよ』


 その時、初めて背筋が凍った。

 彩夏の表情の裏に、怖さすら感じた。

 家に帰って私はすぐに『厨二病 やばい?』『厨二病 いつまで』で検索した。


 出てきたのは、私の魂を真っ二つにするような現実。

 あ、これ……マジでやばいやつだ。


 羞恥と後悔で壊れそうになりながら、私はお姉ちゃん——宮坂夕に相談した。

 お姉ちゃんは『やっと……やっとかぁ』と、涙ぐんでいた。


 うぅ、ごめんねお姉ちゃん。

 でも安心して。宮坂やよいは高校入学と同時に——生まれ変わります!


 お姉ちゃん指導のもと、私は髪を肩口まで切り、話し方を直し、ゲームとグッズを封印した。封印式ではめっちゃ泣いた。お姉ちゃんもめっちゃ泣いた。泣き祭りだった。


 入学式の朝。

 お姉ちゃんはグッと親指を立てて言った。「完璧」


 ——よし。生まれ変わった宮坂やよい、真・宮坂やよい、いざ参ります!


 ……って、危ない危ない。今のも厨二ワード。封印、封印。


 改めまして——宮坂やよい、元気に高校生活スタートです!

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