EPISODE10「疾走」
この日、八雲家に新たな報告が届いた。
「アタシ、ここ住みます!」
キャリーケースと大きなリュックを背負った琥珀が八雲邸の玄関で堂々と宣言した。
ヒカルと雷牙は衝撃のあまり真顔になった。
「おぉ来たか。」
洗濯を済ました風雅がバスルームから顔を出した。そこでヒカルと雷牙は説明を求めるよう風雅に詰め寄った。
「先生どういうことですか!?なんで彼女がココに?」
「説明求む。」
「わあったよ。今説明しようとしてたの!」「子供か。」
ー7月4日 PM22時 04分ー
昨晩のことである。水上による事件が片付き。風雅は東と話す機会があった。
「ねぇ東さん。あの琥珀ってウチで預かってもいいかい?」
「お前また妖を増やすのか!?妖怪アパートじゃないんだぞ…」
「あの子、両親が死んでから地獄みたいな日々にずっと我慢して耐えてたんだ。もう報われても良いんじゃないか?頼むよ東さん。もう身近な人の絶望を見るのはこりごりなんだ!」
風雅の唐突な宣言に一度呆れたが、その熱意により折れることにした。
「分かった。上に掛け合ってみるよ。」「ありがとう!」
そして今日に至るというわけだ。
「てことで、よろしくね♡」
琥珀はセクシーポーズでピースした。
これはまた日常が騒がしく彩られる予感がしたヒカルたちなのであった。
ー7月5日 AM9時30分ー
この時刻の時点で連続して交通事故が発生していた。人が轢かれた?玉突き事故?そんなレベルではない。
車はプレス機で圧縮されたかのように凹み、路上には人間だったものであろう肉塊があちらこちらに見られ、血痕は走ったかのような跡を遺していた。
捜査に来ていた東刑事はこの惨劇を目の当たりにし、絶望した。
そんな中隣から他の刑事が声を掛けた。
「東さん、こんな光景…路上で新幹線が走らないと出来上がりませんよ…これはもう“超次元怪死事件”です。」
「確定だな…」
東は被害にあった一般人を偲び合掌した。続け様に他の刑事や鑑識たちも合掌をした。
「東さん、妖狩(エージェント)たちは呼ばないんですか…」
「敵の素性が掴めてない以上、下手に呼ぶわけにも行かない。」
この惨劇を生み出した姿無き敵は未確認第38号と呼称され捜査が開始された。
ー同刻・八雲邸ー
雷牙が部屋から出て冷蔵庫へと向かっていた時、リビングで琥珀が床に座って踏ん張って顔で両手の人差し指を側頭部に当てて何かをしていた。
「何してんの?」
「へ、見て分からない?」
「うん、見て分からないから聞いてるの。」
「修行よ修行。アタシは今まで自分が取り乱した時に術式が使えた。それを通常時でも使えるように修行してるの。」
琥珀は床にボールを置き、それを浮かせようと踏ん張っていた。
「コツを教えてやろうか?空気中の霊子を利用すれば簡単に行くぜ。」
琥珀も妖のはしくれ、霊子は見えていた。だが使い道が分からなかった。雷牙に言われた通りに呼吸をする要領で霊子を使いながら集中すると、
「あっ、浮いた!浮いた浮いた!」
見事ボールを浮かせることに成功した。しかし嬉しさのあまり集中力が切れ、ボールは床に落ちてはねていった。一方の雷牙は冷蔵庫からプリンをとってササッと部屋に戻っていった。
「よーし、もっと修行だー!」
ーAM10時 00分 首都高速道路ー
風雅は現在未確認第38号によって引き起こされている事件のことなどつゆ知らず、愛車である“マシン・STORM(ストーム)”を走らせていた。
「やはりバイクは良い…孤独を楽しめる。そして自分を見つめ直す…これが俺の修行。」
しみじみとさぞ良い事言ったかのように独り言をヘルメットの中で呟いていた。もっと風を感じたい。
そう思い速度を上げて、高速道路を疾走していた時、
「俺と勝負だ!」
そんな声が聞こえた。風雅はヘルメットをしていて、頭を横に向けないと声の主は分からないが、変なバイカーかと思いそのまま走り続けた。
「おい、聞いてるのか?オ・レ・と・勝・負・し・ろ!」
「ったく、うっせぇなぁ!バイカーなら独りで走りやがr…」
カッとなって横を向いた。だが並走していたのは人1人、バイクなどどこにもなかった。
「ようやくこっち向きやがったな!」「……は?」
一瞬理解が追いつかなかった。何故並走できる?何故平然と話せる?IQ600(自称)の風雅は0.5秒で答えにたどり着いた。
「お前、妖か!」
「おう、そうだぜ!なぁなぁお前のバイク速そうだな!オレと勝負だぜい!」(だぜい…?)
「やめろ俺の愛車はそんな不毛な争いするために走らせてんじゃないんだよ。よそでやってくれ。」
「よそでやったけど、全員遅くて飽きちまった。じゃ勝負開始ーー!!」
その妖は非常に早口で風雅の話も聞かず勝手にレースを始めてしまった。妖はすでに見えなくなるほどの距離まで進んでいた。
風雅は呆れてバイクを降りた。そこで違和感を覚えた。
「あれ、そういえば…なんか車少なくね?」
ピーピーとバイクに東刑事から無線が入った。
「もすもす。どうしました?」
『現在未確認第38号による被害が拡大している!能力は不明だが、強大なパワーを持っている!』
「東さん…その妖ってもしかして…めっちゃ速かったりします?何か俺んとこにやたらレースを仕掛けてくる妖がいたんですよ。」
『関連は不明だが、その妖に話を聞いてくれないか?』
「わっかりましt」
ドゴォォォォン
その妖が走っていった先から爆発音が聞こえた。そしてこの距離から煙が見えた。
『風雅、首都高で事件だ!』
「今現地にいますよ!すぐ対処します!」
再びバイクに跨り、エンジンを掛けて現場に向かう。
「うーんやっぱ遅いなぁ…オレより速えやつはいないのかぁぁ!」
妖は燃え盛る車や肉塊となった人間の中に立ち、のんきに背伸びをしていた。
風雅は妖が止まっていたおかげで現行で到着できた。そこで風雅が見たのはまさに地獄絵図。
「お前が…お前がやったのか!」「そーだけど。だって皆遅いんだよなぁ…だからすぐ壊れちまう。」
「だからって…、お前のその道楽のせいで大勢の人間が死んだ…!覚悟しろ『猟豹(チーター)』!」
風雅は初手から式神・『神狼』を召喚し、「“変身”!」した。
一方の『猟豹』も両足をチーターを模した“武装”をしていた。
「やったー!遊んでくれんのか!」「遊んでやるよ…地獄に行くまでな!」
風雅は『猟豹』に飛びかかるが超スピードで横に避けられ、攻撃は当たらなかった。
「速すぎる…攻撃が当たる瞬間に見えたのは残像か。」
「にっひひーすごいだろー!」
この男、人を殺したことに何の責任も感じてない。ただ走りたいだけという理由で生きているため何も見えてないのだろう。自分のスピードさえも把握できていない。前述の刑事が言っていた通り『猟豹』のスピードは新幹線並みだ。
風雅は今までバイクで走った分の風を霊力に変えて術式を発動しようとした瞬間
「!!」
突如身体から青いスパークがほとばしり、その痛みで身動きが取れなくなってしまった。
「何だ…これ!術式が出ない…身体が動かない!」
「お、チャンスだっぜい!!」
ー「“瞬足(The Run)”」ー
チーターのような足から繰り出される連続キックは速く、そして重い。まともに食らった風雅は吹き飛ばされて炎上したトラックに激突。さらなる大爆発を引き起こした。
EPISODE 10「疾走」完
妖狩 定春 @Chankawa
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