第5話
コンビニの自動ドアの開閉を告げる機械音が響くたびに、私はレジの中の小銭を数えていた。
「いらっしゃいませ——」
顔を上げ、来たる人の姿をはっきり見た瞬間、指が硬貨の縁に白い跡をつけた。
神宮寺続が冷蔵ケースのガラスに顔をぺたりと貼りつけている。
「先に帰っててって言ったじゃないですか」私が言うと、
三時間前、従業員休憩室に居座ってスマホをいじっている彼女を店長がほうきで追い出した光景が、まだ目に焼き付いていた。
「ー人暮らし少女の寂しさは具体化するんだから」彼女は突然、冷蔵庫から顔を離した。「例えば今、私は『葵の退勤を待つ』という呪いによって侵食されている最中なの」
——
「退勤時間だよ」神宮寺が突然言った。私をコンビニから引きずり出す動作は、人質を拉致する暴徒のようだった。
「美少女が退勤を待っててくれてるつて、すごく嬉しいでしょ!」神宮寺は私に向かって、いたずらっぼくウインクした。
「こっちおいで」
商店街を抜けながら、
「あ、そうだ」
神宮寺は突然、指先で私の手首の内側をなぞった。
「さっき、あなたの隣のレジの子、あなたを見る目がトリュフを見つけたイノシシみたいだったよ」
「あと、お客さんたちも!こっそりあなたを見たがってるのに、あなたに気づかれるんじゃないかとビクビクしてる様子が超笑える」
神宮寺は突然、私を路地裏の影に引きずり込み、私の胸元の開いたボタンを指さして言った。「ー人の時はちゃんと留めなさいって言ったでしょ?」
「そんなに無頓着だと、誰かに迷惑かけられたいの?」
はあ··・私はまだ完全に女性の身体に慣れていない。でも、バレるのが怖いのなら、なぜ朝わざわざあなたが外したんだよ。
もちろん、こんなことは神宮寺には言えない。
「ここは?」
——
大きな下り坂を過ぎた後、夕暮れの中の海岸線を眺めた。
神宮寺は突然、私の手を振りほどくと、手綱を断った子鹿のように海辺へ走り出した。スカートの端が風にはためく。
海水に触れそうになった時、神宮寺は足を止めた。
私は常に神宮寺の一挙手一投足に気を配っていて、彼女がそこで立ち往生しているのを見ると、素早く上着を脱ぎ、服を平らに彼女のそばに広げた。
「なかなかやるじゃん」神宮寺はゆっくりとしゃがみ込み、指先で口ー
ファーの留め金を軽くはじき、適当に靴を脱ぎ捨てると、服の上に座った。
神宮寺の細い指がハイソックスの縁にかかり、ゆっくりと下ろされていく。動作には幾分か無意識の色気が滲んでいた。
私はうっかり顔を上げ、神宮寺と視線を合わせてしまった。
「变態」
「淫らな笑みが露骨すぎるよ」
存在しないよだれを拭い、慌てて視線をそらした。しかし、脳は烈火のごとく燃え上がり、目を神宮寺の脚へと戾させた。
神宮寺の口元に一抹の笑みが浮かんでいるのに気づいた。彼女はわざと動作を遅くし、靴下を脱ぐという行為にいくぶん艶めいた意味合いを込めている。
片方の靴下が脱げると、神宮寺はもう一方の足を軽く上げた。靴下に包まれた足先がいたずらっぼくくねり、五本の指が少し丸まったり伸びたりする。海風の中でほぐれる繊細な花蕊のようだった。
そうか、彼女は人を誘惑する方法をわきまえているんだ。
「どうしたの、葵さん、そんなに見入っちゃって。まさか私が脱ぐのを手伝ってほしいの?」神宮寺の声は柔らかく、誘惑に満ちていて、語尾は上がり、私の心をくすぐる。
「いいんですか?」私は自分の口調がこれまでにないほど確固たるものに感じたのは初めてだった。
「もちろん、でも私の願いを一つ叶えてね」
「どんな願いですか?」こんな状況では、一つどころか十の願いだって叶えると言うだろう。
「うーん?まだ考えてない」
「まずは実行してよ!」神宮寺は足を差し出した。
私は深く息を吸い込み、心の奥の燥ぎを無理やり押し殺し、ゆっくりと神宮寺のそばにしゃがみ込んだ。
「教えたでしょ」彼女は突然、つま先で私の胸を軽く蹴った。「プレゼントを開ける時みたいにね」
神宮寺の足首は想像以上に細かった。親指と人差し指で輪を作って掴むと、脈打つ震えを感じ取ることができた。
両手を微かに震わせながら神宮寺のハイソックスへと伸ばす。指が靴下の縁に触れたかと思うと、今度は感電したように引っ込めた。その薄い布地が今は熱く燃える石炭のように感じられる。
海風が吹き荒れる中、私は歯を食いしばり、再び手を出した。今度は動作をいくぶん決然としたものにし、ゆっくりと靴下を巻き取り、指先で優しく下へとずり落としていく。
指が肌に触れたとき、私の身体が明らかに硬直したのがはっきりと感じられた。
顔を上げて神宮寺を見ると、彼女は足を揄え、足の指も丸め、視線は海面に向けられていた。
動作が進むにつれ、私の呼吸は荒くなり、胸は微かに上下した。
「できた」
私は砂浜にへたり込み、息を切らしながら、手に靴下をしっかり握りしめていた。
神宮寺は笑いながら立ち上がり、海へ走り出した。
私は神宮寺が水しぶきを上げる様子を楽しんでいると、突然彼女の悲鳴を聞いた。
「きやつ!」
海水で濡れた靴や靴下には構わず、私は急いで神宮寺の方へ走り出した。
しかし、もうすぐ近くにまで迫ったその時、
「捕まえた」
彼女は突然、振り返って私を押し倒した。海水が制服を浸す。
びしょ濡れのシャツが肌に張り付き、波がスカートの裾をめくり上げる。
顔の海水を拭い落とす。彼女が私の腰に跨がる重みが、男性だった頃の危険な記憶を呼び覚ます。
神宮寺が身を乗り出した時、毛先が垂れ下がった。「これは愛の教育よ」彼女の指先が、石でこすれた私の肌の赤い跡をなぞる。
濡れたシャツから神宮寺の白い下着が透けて見える。ずぶ濡れの神宮寺は今、人魚姫のようだった。
私たちはびしょ濡れで砂浜に横たわり、空を見上げていた。彼女は突然、私の胸のリボンを解いた。「どうして海に連れて来たか分かる?」シルクのリボンが目を覆った瞬間、他の感覚が無限に増幅された。
「だって··」
「濡れ場が見たかったの?」
彼女の吐息が耳朶をかすめる。「正解は——」
「私の所有物をみんなに見せつけるためよ」
遠くでシャッター音が聞こえた。リボンを引きはがすと、神宮寺が盗撮した男の子にピースサインをしているところだった。彼女は水で濡れた長い髪を振り乱しながら大笑いしていた。
——
帰路の長い坂道を歩き始めようとした時、
「背負って帰って」神宮寺はびしょ濡れの制服の上首輪のように私の首に卷きつけた。スミレの香りと潮の香りが混ざり合い、鼻腔を侵略してくる。
「これってあなたの願いですか?」私は尋ねた。
「願いじゃないよ」
神宮寺は首を振り、そしていたずらっぼくくるりと回って言った。「私、今全身びしょ濡れだよ」
「肌と服がびったり張り付いてるの。感じてみたくないの?」
よし、わかった。私は動揺した。
背中に神宮寺の絶え間なく鼓動する心音を感じながら、彼女が突然言った。
「ねえ、知ってる?」
冷たい海水が背骨を伝い、肌へと滑り込む。
「溺れる者はすべてのものをしっかり掴むんだって」
帰りの電車で、神宮寺は私の肩にもたれかかっていた。トンネルを通り抜ける轟音の中、彼女は突然吰いた。「今日の葵は·…」
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