「霧の中の告白」
@Stonemisaki29031952
「霧の中の告白」
前作の事件から数か月。雨の夜が多い街に、探偵・天城零は今日も一人、傘を片手に事務所の外に立っていた。
街に漂う湿った霧は、まるで誰かの秘密を覆い隠しているかのようだ。
その時、扉のベルが鳴る。
濃い青のコートを着た青年が立っていた。顔には緊張と恐怖の色が混ざる。
「天城探偵事務所ですか…?助けてほしいんです」
依頼人の名は佐倉悠真(さくら ゆうま)。
彼はこの街で小さな出版社を経営しているというが、最近、社内で不可解な出来事が続いているらしい。
• 校正ミスのような書類の改ざん
• 出版予定だった原稿が消える
• 社員の一人が突然失踪
悠真は怯えた声で続けた。
「誰かが…私たちを監視しているんです。社内の誰か…かもしれない…」
零は傘を閉じ、静かに頷く。
「わかりました。まずは現場を見せてもらいましょう」
⸻
出版社に到着すると、零は書類の散乱具合やデスクの位置、カメラの配置などを注意深く観察する。
すぐに違和感を覚える。
「消えた原稿は、物理的に盗まれた痕跡がない…つまり、内部から操作された可能性が高い」
その時、事務所の奥で微かな音がした。
零が静かに近づくと、薄暗い書庫の隅に、紙を手にした影があった。
「誰だ…」零が問いかけると、影は振り向いた。
そこにいたのは、出版部の新人社員、藤堂玲奈(とうどう れな)。
顔は青ざめ、手には未発表原稿が握られている。
玲奈は震えながら告白する。
「私…やってしまったんです…誰にも言えなくて…」
零は冷静に訊く。
「なぜ、こんなことを?」
玲奈は涙をこらえながら話す。
「上司に脅されて…原稿を消すように言われたんです。でも…失踪した社員のことも関係していて…」
零は書類と証拠を整理しながら、薄い霧に包まれた街を見つめた。
「この事件も、真実は見た目の裏にある――そして、恐ろしいのは、人の心に潜む闇だ」
零は心の中で決めた。
「必ず真相を突き止める――雨と霧の街に隠された秘密を、すべて洗い出す」
雨が再び降り始め、霧が街を包む。零は傘をさし、夜の街へと足を踏み出した。
「霧の中の告白」~解決編~
出版社の一室に、重苦しい沈黙が漂っていた。
零は机の上に並べられた証拠――消された原稿、改ざんされた書類、そして玲奈の告白メモを見つめていた。
藤堂玲奈は震える声で繰り返した。
「私は…命令されただけなんです。失踪したのは、あの人に逆らったから…」
零は静かに頷くと、悠真に視線を移した。
「佐倉さん、ひとつ伺います。失踪した社員・片桐真一は、どんな人物でしたか?」
悠真はためらいがちに答える。
「真一は…正義感が強すぎるところがあった。経理の不正を暴こうとしていて…でも、その直後に消えたんです」
零は目を細めた。
「なるほど。つまり――この事件の核心は“経理の不正”ですね」
部屋にざわめきが広がる。
零は机を叩き、推理を始めた。
「改ざんされた書類、消えた原稿、そして社員の失踪。すべては一つの目的に収束している。“出版社の資金を不正に流用していた人物”を隠すための工作です」
悠真は驚き、そして青ざめた。
「まさか…」
零の視線は、悠真に鋭く突き刺さる。
「そう、真犯人は――あなたです、佐倉悠真さん」
事務所に緊張が走る。
「あなたは経営難に陥った出版社を救うため、裏でスポンサー企業から不正に資金を受け取っていた。片桐真一はそれを突き止め、告発しようとした。だから彼を“失踪させた”」
悠真は必死に否定する。
「違う!私は会社を守ろうと…」
零は冷ややかに言い放った。
「守るために、社員を犠牲にしたのですか?――真実は、霧に隠れても、いずれ必ず姿を現す」
その瞬間、警察が部屋に踏み込んだ。玲奈の証言と証拠品を元に、悠真は不正と失踪事件の容疑で連行されていった。
⸻
事件後。
霧が薄れ始めた街を、零は一人歩いていた。
「人は皆、正義を口にする。しかし本当の姿は、欲望と恐怖の裏に隠れている」
探偵・天城零の耳に、また新しい依頼の電話が届く。
それは、さらなる闇の入り口を示していた。
霧はまだ、街を覆っていた。
「霧の中の告白」 @Stonemisaki29031952
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