総理大臣は人間のクズ
しまかぜゆきね
1. 知塔スイは人間のクズ
自分さえ良ければ良い。
私がそう言えば、周囲は私のことをクズと呼ぶだろう。
だが、私は本当にクズなのだろうか。
賢い人間が他人のために行動するときとは、必ず自己の利益が見込めるときだ。
無償の奉仕とか、献身とか、自己犠牲とか、そういうことをする奴らはただ頭が悪いだけだ。それで「オレ、良い事したなぁ」と一時の快楽を得たいだけのバカである。
私はそうはならない。賢い人間は、自己の利益を最大化する。
だから私は例えクズと呼ばれようと、他人を蹴落とし自分だけの勝利を追求するのだ。
そのために、努力もしてきた。
日本の一般家庭の長女として生まれた私は、友人も作らず勉強し、東大法学部に入り、財務省主計局に入り、与党・自由国民党に入り、そして25歳で国会議員になった。
そう、私は総理大臣になり、日本の頂点、最高権力者となるつもりだ。
そんで、側近に靴を舐めさせる。
私の名前は
私は今年、1年目にして総理大臣補佐官に抜擢された。
それが地獄の始まりだとは、知りもしなかった。
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私、知塔スイは新人議員にして総理大臣補佐官に抜擢された。
今の総理大臣は
名家出身で、親・祖父・曽祖父が有力国会議員の世襲4世。旧皇族の流れも汲んでいる。
周囲の長老議員に持ち上げられ、あれよあれよという間に総理大臣へ。
議員の間では操り人形だの軽い
若く美しい外見、歯切れの良い発言、意外に手堅い政策が評判だ。
ともかく、私はその人の側近に任命されたのだ。
しかしピュアなチトセ総理には悪いが、正直、私に忠誠心などない。
だまし、取り入り、そして寝首をかいて私が総理になるための道筋を築くつもりだ。
なんなら、総理をそのまま私の操り人形にしてまっても良い。
いずれにしても、私は最高の権力を手に入れるのだ。
そんで、部下に靴を舐めさせる。
そんなことを考えながらデスクワークをしていると、部屋の外から呼ぶ声がした。
「知塔さん」
この声は、前任の
「はい、今出ます……っどうも穂萎さん」
扉を開け、挨拶をする。
「あ、知塔さん。よろしくお願いします、穂萎です」
「知塔です。こちらこそよろしくお願いします。それで……ご用件は?」
「はい。まずは、就任おめでとうございます。それでなんですが、総理が会いたいと言っているそうなので、その伝言に」
「なるほど。あるがとうございます」
話を聞くと、どうやら初仕事……総理と初めての打ち合わせが行われるようだ。
もちろん面識はあるものの、しっかりと話すのはこれが初めて。
私は穂萎さんに案内してもらいながら、総理執務室に向かうことになった。
廊下を歩きながら雑談をする。
「そういえば、穂萎さん。今回は補佐官が私だけなんですね」
「…………そうですね」
なんだ、その間は。
穂萎さんは目を逸らしながら続ける
「まあ、色々大変だと思いますが……本当、大変だとは思いますが……まあ、もし思い詰めるようなことがあったら無理せずに……」
よほど激務らしい。
「大丈夫です。私はこれまでどんなに辛くても努力してきたんです。忍耐力には自信があります」
私はそう言って穂萎さんを安心させる。
そんなことを話している間に、執務室前に着いた。
「わざわざありがとうございます、穂萎さん」
「いえ、お礼は……それよりも、私を恨まないで……私はただ言われた仕事をやっただけなんです……」
執務室に近づいた途端、穂萎さんは様子がおかしくなりブルブル震え出す。
「ど、どうしました」
「いや……いや……総理ぃ!! そんなことしたらだめええええ!!」
どんどん顔面蒼白&目が虚になった穂萎さんは、最終的に「ぎゃあああああ!」と発狂してどこかへ走って行った。
……なんだ? 総理にえっちなことでもされたのか?
だが、私はどんなことをされようと屈しない。
むしろ総理を私の操り人形にしてやる。
私は頭をフル回転させながら、執務室の扉をノックする。
「入れ」
総理の声がした。子供みたいな声だ。
「失礼します」
私が中に入ると、総理はフカフカの椅子に座ってこちらを見ていた。
実際目の前にすると、小柄な体型・ショートカットの髪型・童顔で、本当に中学生のようだ。
私から挨拶をする
「内閣総理大臣補佐官を拝命しました。知塔スイです」
「総理大臣の憂世チトセだ。ま、座りたまえ」
促されるまま、私は総理の前に設置されたソファに座る。
それを見て総理が、首を横にふる。
「違う。ここに座れ」
そう言って指さしたのは、総理の席の前の地べただった。
私はますます脳内をフル回転させる。意味がわからないからだ。
「それはどういう……」
「いいから」
言われるがまま地べたに座る。
「総理……それで……」
「よし」
私が座るのを確認し、総理は言う。
「靴を舐めろ」
私の脳内回転に、
そう思った。
しかしこれが序章に過ぎないことを、私はまだ知らなかった。
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