第3話 絡みつく不思議な影
夕方、俺は光が丘のバイト先――駅前のファミレスに入った。
制服に着替え、バックヤードを出ると、すでにフロアに立っていたのは和光美園だった。強気で頼れる同僚であり、唯一気楽に話せるバイト仲間でもある。
「おつかれ、唯二。今日、夜ラストまでだっけ?」
「ああ。……また長丁場だな。」
俺たちは手分けして席に客を案内したり、オーダーを取ったりしていった。週末の夜にしては客足は落ち着いていて、ピークを越えたころ、少しだけ厨房前で話す余裕ができた。
「ねえ唯二、昨日の推し配信、観た?」
「……観たけど。あの映画の話だろ?」
「そうそう! “ドッペルゲンガー・ルーム”とかいうホラー映画。もうタイトルからして無理。めっちゃ怖そうでさ。」
美園は顔をしかめて身震いする。彼女はホラーやオカルトがとにかく苦手だ。
だが俺の耳は、その単語に敏感に反応した。
「……ドッペルゲンガー。」
思わず声に出してしまう。美園が怪訝そうに俺を見た。
「え、なに? 唯二、そういうの好きだったっけ?」
「いや……別に。……ただ、もし本当に自分と同じ存在が目の前に現れたら、どうするんだろうなって。」
言いながら、昨夜の出来事が蘇る。公園の闇に浮かび上がった自分の姿。あの瞳、あの声。
胸がざわつくのを抑えきれなかった。
「え、なにそれ。想像しただけで鳥肌立つんだけど。」
「でも……会ってみたいと思うやつもいるかもな。“本当の自分”に出会えるなら。」
俺が真剣にそう言うと、美園はポカンとした表情になり、次の瞬間、笑い飛ばした。
「なにそれ、唯二っぽくない。あんたいつも“めんどくせー”とか“興味ねー”とかしか言わないじゃん。どうしたの? キャラ変?」
「……そうかもな。」
自嘲気味に笑いながら答える俺を、美園はしばらくじっと見つめた。
その視線に気づき、俺は慌てて伝票を持ち、テーブルへ向かった。
――俺は、変わり始めているのかもしれない。
昨日までと同じはずの日常が、もう同じには思えなかった。
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