第11話 おっさん、モテる

ふとガルドが目を覚ますと、彼は木の温もりと懐かしい匂いに包まれた部屋のベッドにいた。かつての自分の部屋だ。



「ここは……俺の部屋?今までの冒険は、全部、夢だったのか?」

ガルドが戸惑っていると、ドアを勢いよく開けてミナが飛び込んできた。「ガルド、遅刻しちゃうよ!」彼女はベッドに飛び乗るとガルドの上にまたがり、輝く瞳で彼を見つめた。「今日の主役が、こんなとこで寝てる場合じゃないよ!」



「ミナ、いきなり何だよ!」ガルドが慌てて叫ぶ。

「もう、今日、冒険者学園の入学式だよ!学園始まって以来の天才、ガルドの事をみんな待ってるんだから!」ミナが頬を膨らませ、ガルドの胸をポンと叩く。「ガルド」と呼び捨てにする彼女に違和感が走るが、なぜか昔からそうだった気もする。



「さ、学校行こう! 君と一緒に、最高の学園生活始めるんだから!」ミナに手を引かれ、ガルドは家を出る。石畳の道には、商人や革鎧の冒険者が行き交い、屋台から肉の香りが漂う。懐かしい故郷。だが、ガルドには全てのものが何か薄っぺらく感じられた。と、突然、ガルドの背中に柔らかい感触が押し付けられる。

「な、なんだ?」

「ガルド! 私の愛する人、朝から会えて心が燃えるわ!」リリスが赤毛をなびかせ、情熱的に抱きしめる。

「り、リリス! 離せって!」ガルドが赤面し、もがく。

「ふふ、朝からあなたの心、しっかり焦がしてあげる!」リリスが艶やかに笑う。

「リリス、お前……」



何かを思い出そうとした瞬間、その「何か」が煙のように消え去った。

「リリス、ずるい! ガルドは私の運命のヒーローだよ!」ミナが唇を尖らせ、リリスが「ふん、ガルドの魂は私の炎でしか燃えないわ!」と返す。

両側でガルドを取り合う二人を見ながら、彼は胸の奥で何かが消えていく感覚に襲われた。

「俺は何か……何かをしなくちゃならなかったはず……」



冒険者学園は、城下町にそびえる石造りの校舎だ。桜が咲き乱れる中庭に新入生が集まり、教員が魔法の杖を振って式を進める。

「さぁ、まずは生徒たちの『魔法力判定』だよ。一列に並んで並んで!」

前の机に置かれた水晶球に手をかざすと、魔力属性が測定される仕組みらしい。ガルド、ミナ、リリスは他の生徒たちに混じって列に並んだ。



ミナが手を置くと、水晶が青く輝き、「魔力融合適性!レアスキルです!」と教員が叫び、生徒たちが喝采を送る。

リリスが手を翳すと、炎が爆ぜ、「炎の特級! 伝説の術師だ!」と宣言され、生徒たちがどよめく。



「俺には魔法力はないはず……」

ガルドの番になり、彼が水晶に触れると、球が眩い光を放ち、ガリッとひびが入る。「おお!測定不能! 神の領域の魔力!」水晶が粉々に砕け、場が騒然となる。

「そんな、そんな馬鹿な」

「ガルド、最高だよ!」

ミナが跳ね、リリスが「さすが私の運命の男!」と笑う。



次は剣技試験。

ガルドは銀髪の少年ゼクスと模擬戦を行うことになった。

「こいつ、どこかで見たような……」

朝から頭にかかっている霧が、どんどん濃くなっているのを感じる。

「お前が噂の新入生か! 俺が叩き潰してくれる!」ゼクスが木剣を振り上げるが、ガルドは【鉄壁】を発動。

「その程度か!」

一閃でゼクスの剣を弾き飛ばし、彼を膝をつかせる。

「くそ…何だ、この怪物!」

ゼクスが呻く中、女生徒たちが

「ガルド様、素敵!」

「ガルド様、愛してる!」 と叫ぶ。

ガルドは黄色い声援に応えながら、「さぁ、次だ!」と剣を構えた。



「次は魔法の射撃試験です!」

教員が叫び、準備を促す。

射撃場に並んだ的を、ミナが【爆発瓶】で粉砕し、「ガルド、私の力、見てた?」と笑う。ついでリリスは【烈焰弾】で焼き尽くし、「私の炎、あなたに捧げるわ!」とウィンクした。



ガルドが手を構えると、教員が「撃て!」と叫ぶ。ガルドが力を放つと、衝撃波が射撃場全体を吹き飛ばし、的も壁も木っ端微塵になった。

「こ、こんな力、見たことねえ!」教員達が震える中、ガルドも「こんな、こんな…、」と唖然とする。



昼休みになった。ガルドがミナ、リリスと桜の下で弁当を広げると、そこへ有翼人キャノが空から降りてきた。「ガルド殿、私の心は永遠にあなたのものであります!」

彼女はガルドを巨乳の谷間に埋め、「私の命、ガルド殿に捧げる、であります!」と熱く叫ぶ。「むぐっ! キャノ、離せ!」ガルドがもがくが、彼女は「愛してます、永遠に!」と笑う。



そこへメロがパレオを揺らしながらやってきて、「テラハ、ガルド! 海より深い私の愛、全部あなたに捧げるよ!」と抱きつく。ナスタが「ガルド、てめえは俺の唯一の相棒だ!」と肩を叩き、ディララが「ガルド、ねぇちゃんの次に愛してるで! 」と腕を絡ませる。

サイエンが「ドゥフフ! ガルド殿、私を愛の実験台に使ってくださいですぞ!」と眼鏡を光らせる。ソノラまで「ガルド様……私の機械の心に、恋愛がインプットされてしまいました」とテレ顔をディスプレイに表示させる。すべてのガーディアンがガルドを取り囲み、燃えるような視線を注ぐ。


「ガルド」「ガルド」「ガルド様」「ガルド殿」

「ガルド、私のそばにいて! 永遠に!」ミナが手を握り、「ガルド、私の恋の炎はあなたのために」リリスが耳元囁く。

ガルドは心が溶けそうになるのを感じた。

「こんな毎日、最高じゃねえか……!」



夕暮れ、校舎の屋上で、桜の花びらが舞う。

ガルドはガーディアン達に囲まれ、夕日を見つめていた。

ミナがガルドの手を握り、夕陽に輝く瞳で囁いた。

「ガルド、ずっとここにいよう。この幸せ、永遠に守るよ。私の心、全部ガルドのもの!」

リリスが肩に頭をもたれかけさせて、熱い息で囁く。「ガルド、ずっとこの生活を続けよう」

キャノが翼を広げ、「ガルド殿、どこにも行かないで! 私の風、永遠にあなたを包む、であります!」と叫び、メロが「テラハ、ガルド! この楽園で、永遠にあなたと!」と笑う。ナスタが「ガルド、俺とお前、永遠の相棒だ! 離れねえ!」と拳を突き上げ、ディララが「ガルド、ウチの心、全部お前のや! 永遠に!」と抱きつく。サイエンが「ドゥフフ! ガルド殿、永遠に私はあなたの愛の実験台ですぞ!」と笑う。



「ミナ……」ガルドがふと呟く。

「もう、冒険はいいのか?」

「冒険?そんなものもうどうでもいいじゃない。ずっとこんな毎日を過ごそうよ」


「そんなもの……だと……?」

その瞬間、剣の柄が燃えるように熱くなり、胸の奥で鼓動が響く。

「冒険なんてくだらないよ。それよりガルド、今日の夜、一緒にふたりきりで……」



ガルドの声が震える。

「ミナは……ミナは絶対にそんなこと言わねえ。絶対に」

「ガルド?怖いよ」

ガルトの頭の中の霧が、一気にスッと晴れていく。

「ミナはなぁ……冒険心とか好奇心が服着て歩いてるような女だ。絶対、絶対に冒険やワクワクを軽んじるようなことは言わない奴なんだよ!ミナの姿で、適当な事抜かしてんじゃねぇ!」

「ガ…ルド……」ミナの姿が揺らいでいく。

「ミナの、リリスの、そして俺の冒険は、こんな偽物じゃ終わらねえ! ぶっ壊してやる!」

ガルドは剣を抜き、地面に突き立てた。

バキン! その瞬間、空間が歪み、ひび割れ、桜も校舎もガラスのように砕け散る。視界が白く染まり、ガルドの意識が現実に引き戻される。



目の前には、クリスタルの玉座。床には光の粒が舞う。光のガーディアン、カクタスが立つ。白いローブに金の髪、瞳は星のように瞬いている。「見事だ、ガルド! よくぞ私の【光の夢】を打ち破った!」

ガルドは全てを思い出した。

「試練」が始まった瞬間、光のガーディアンに波動を浴びせられて倒れたことを。

ガルドが剣を握り、叫ぶ。「てめえの技か! よくも俺の心をこんな甘い罠で縛ろうとしたな!」

カクタスが静かに笑う。「ふふ、勝負はついた。そなたの勝ちだ。その心、試されてもらった。そなたは偽りの楽園を捨て、真実を選んだ。その心、称賛に値する!」



その言葉に応じるように、光の大精霊サンデリアーナが現れる。白いドレスに光の冠、声は優しく響く。「ガルド、そなたの魂は偽りを砕く光そのもの。光の珠を授けよう」彼女は輝く珠をガルドに渡す。



ミナが駆け寄り、「ガルドさん!良かった!」とポーチを握り、涙を浮かべる。リリスがニヤリと笑い、「ねえ、どんな夢見てたの、おっさん? 顔、めっちゃ赤いけど? よっぽど熱い夢だったんでしょ!」



「……ミナ、リリス、今、俺のことを『ガルドさん』『おっさん』」って」

「変なの、いつもそう呼んでたじゃん」

「現実だ!これ、現実だっ!」

ガルドはミナとリリスを両腕で抱きしめる。

「うわあ?どうしたの?」

「この、突然抱きつくなヘンタイ!」

リリスが杖でガルドの頭を殴る。

「いてて……す、すまん」

「もう、それでどんな夢見てたのさ、おっさん」

ガルドが真っ赤になり、「う、うるせえ! なんでもねえって!」と首をぶるぶる振る。

ミナが「えー、絶対なんかあったよね! 教えて、ガルドさん!」と跳ね、リリスが「ほら、正直に言いなさい! どんな甘い夢でうっとりしてたのよ!」と杖で小突く。

ガルドが咳払いし、「次だ! 次の試練に行くぞ! お前らとなら、どんな闇もぶち抜ける!」と叫ぶ。



「次が最後の試練、闇の荒野『アグへイロ』です」

サンデリアーナが静かに告げる。

「次の試練を超えれば、願いが何でも叶うんだな」

「そうです。私たち大精霊が試験官のように、あなた方を見極める『精霊の試練』……ですが」

「ですが?」

「……ごめんなさい。ただの憶測で軽々しくものを言うことは出来ません。出来ませんが……」

光の大精霊は言葉を切った。

「その、気を付けてください」



ガルドはしばし呆然としていたが、すぐにニッと笑った。

「なんだかよく分からねぇが、任せときな!俺たちは絶対に負けねぇ!」

ガルドが光の珠を握り、仲間を見やった。「ガルド、ミナ、お前らの笑顔が、俺の真実だ。行くぜ、クリスタリオンを越えて!」



「では次の試練への道筋を示します」

サンデリアーナが手をかざすと、空間に穴が空き、暗闇が顔をのぞかせた。

「ご武運を」

三人は時空の闇に足を踏み入れ、次の試練へ向けて歩き出した。光の珠がガルドの手で輝き、最後の試練への道を示しているようだった。

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