第47話 一つ屋根の下の新しい日常
家族会議の後、蓮の生活は再び受験勉強一色に戻っていた。しかしその精神状態は、以前とは全く違っていた。誠司が突きつけた「現役で合格しろ」「大学に入ったらすぐにアルバイトを始めろ」という厳しい条件は、蓮にとって大きな重圧となっていた。彼は睡眠不足で目の下に隈を作りながらも、夜遅くまで机に向かいペンを走らせ続ける。だがそれは、受験の合否だけをかけた戦いではなかった。陽菜と生まれてくる子供、そして自分たちの未来をかけた、孤独な戦いだった。
一方、陽菜もまた、新しい日常を送っていた。朝、吐き気に耐えながらも、蓮が深夜まで勉強する隣で、彼女もまた静かに学びを続けていた。彼女の膝の上には、推薦を蹴って進むと決めた通信制大学の入学手続き書類と、社会福祉に関する入門書が置かれている。彼女は蓮への申し訳なさを感じながらも、彼と共に学び、成長できることへの喜びと充実感を覚えていた。蓮だけには苦労をさせない。自分も蓮と共に未来を築くのだという固い決意が、彼女を突き動かしていた。
深夜、静まり返った部屋に響き渡るのは、蓮が参考書のページをめくる音と、陽菜が入門書にマーカーを引く音だけだった。その音は、二人がそれぞれの場所で、互いのために戦っていることを物語っていた。二人の間に会話はなかったが、互いの存在を強く感じていた。陽菜の大きなお腹は、僕たちの秘密がもはや僕たち二人だけのものではないことを告げている。そしてそれは、僕たちの絆をさらに深く、そして歪なものにしていた。
親たちも、二人の戦いを陰ながら支援していた。和恵は、蓮の部屋の前にそっと夜食を置いていく。誠司は何も言わないが、蓮の疲労困憊した顔を見て、その孤独な戦いを静かに見守っていた。家族全員が、この試練を乗り越えようとしている。それは僕たちの過ちを罰するものではなく、僕たちなりの人生の選択を尊重し、未来への希望を信じるという、奇妙な連帯感だった。
蓮は勉強机から顔を上げ、陽菜のほうを見た。大きくなったお腹を優しく撫でながら、静かに本を読んでいる彼女の姿。その姿に蓮は、何よりも強い支えを感じた。孤独な戦いと思っていたが、自分は一人ではない。陽菜が隣で頑張っている。生まれてくる子供が僕たちを繋いでいる。その事実に、蓮の心は温かい光に包まれた。
僕たちの日常は、もはや受験と背徳という二つの顔を持っていた。しかしその中で、僕たちは互いの存在を深く理解し、支え合い、そして愛を育んでいた。僕たちはもう、この新しい日常から抜け出せない。いや、抜け出そうとは思わない。この歪んだ日常こそが、僕たちにとっての至上の幸福なのだから。
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