第40話 覚悟の決断
絶望と歓喜が入り混じった長い夜が明けた。窓から差し込む朝の光が、僕たちの犯した過ちの全てを白日の下に晒していく。僕の腕の中で眠る陽菜は、青白い顔色をしていたが、その寝顔はどこか穏やかだった。しかし、彼女の身体に宿った新しい命の重さが、僕の胸を締め付ける。大学受験、将来、そして親への裏切り。その全てが崩れ落ちる予感に、僕は数日間、絶望の淵に立たされていた。僕が犯した罪は、あまりにも重く、その責任から逃れることはできない。
しかし、逃げてはいけない。
僕は絶望の淵から、ゆっくりと顔を上げた。このまま僕が逃げ出せば、陽菜と、そして生まれてくる子の未来を破壊してしまう。僕が守らなければならないのは、僕自身の平穏な日常ではない。僕が愛する陽菜と、彼女のお腹の中にいる僕たちの子供。その存在こそが、僕の未来そのものなのだ。その確信が、僕の心を支配した。恐怖は消え、代わりに愛する人を守るための強い意志が湧き上がってくる。
僕は震える陽菜の手を、強く、しかし優しく握りしめた。彼女の目がゆっくりと開く。その瞳には、僕の決意を汲み取ろうとする真剣な光が宿っていた。僕は彼女の瞳をまっすぐ見つめ、ゆっくりと口を開く。
「大学は、諦めない。必ず合格する」
僕の声は低く、しかし力強く、未来への意志を感じさせる声だった。陽菜は僕の言葉に驚き、そして安堵の表情を浮かべた。彼女は僕の決意が本物だと確信したのだろう。
「そして、大学に入ったらすぐにアルバイトを始めて、陽菜と、生まれてくる子のために、俺が全部背負う」
僕の言葉に、陽菜の瞳から大粒の涙が溢れ出した。彼女は何も言わずに、ただその涙を流し続ける。それは恐怖の涙ではなく、僕の決意を受け止めたことへの、そして僕の愛を受け止めたことへの喜びの涙だった。僕の瞳には、もう迷いの色はなかった。僕は陽菜の未来を、生まれてくる子供の未来を、この手で守り抜く。その覚悟が、僕の心を強く満たしていた。
「だから…結婚しよう」
僕のプロポーズに、陽菜は言葉を失った。その顔は涙でぐしゃぐしゃだったが、その唇は僕の言葉に応えるように、ゆっくりと動く。
「……うん…うん!うんっ!」
陽菜は僕の腕の中で、何度も何度も頷いた。その頷きは、僕のプロポーズを承諾する言葉であり、同時に、僕と共に困難な未来を歩むという、彼女自身の固い決意の表明でもあった。僕たちは強く抱きしめ合い、互いの体温と鼓動を確かめ合った。僕たちの歪んだ恋は、今、愛する人を守るための強い覚悟という、純粋な愛へと昇華した。僕たちはもう一人ではない。二人の未来のために、僕たちは共に戦うことを誓い合ったのだった。
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