年下幼馴染を押し倒してしまった
リクトマロン
第一話
「あ、おかえりー、先輩」
大学での講義が終わり
何の変哲も無いワンルーム。
この春、大学生になって始めた一人暮らし。
本来であれば誰も居ないはずの空間で制服を着崩した少女が一人ベッドに寝転がりながらスマホを眺めていた。
「お前、また来てたのかよ……」
康太が現れてもお構いなしにだらけているその少女──
ブレザーを脱ぎ捨て、緩められたブラウスの胸元。スカートを気にする事なく、大胆に晒された細くて白い足。
一人暮らしの男の部屋で、あまりにも無防備なその姿は、康太にとって目の毒だ。
「えー、別にいいじゃないですか」
もっとも莉緒はそんな事気にする様子も無い。
「私と先輩の仲でしょ?」
莉緒は、今更何言ってるんですかと言わんばかりの態度だ。
というのも、莉緒は幼馴染である康太に昔から懐いていたからだろう。
少しだけ年上のお兄さんである康太の後ろを年下の莉緒がいつも着いて回るような、二人はそんな関係だった。
中学、高校と学年が上がっても、どういうわけか莉緒は康太に懐いたままであった。男女の幼馴染という関係上、段々と疎遠になってもおかしくは無かったのだが、そんな事は一切なく、莉緒はよく康太の部屋に入り浸っては今みたいにベッドを占領してダラダラと放課後を過ごしていた。
一応は異性の前だというのに、無防備な姿を晒して。
「……だからって毎日のように来るやつがあるか」
それは康太が大学生になっても変わらない。
合鍵が欲しいと散々せがまれ、折れた康太が仕方なく渡したその翌日から、彼が帰宅すると莉緒はほぼ毎日のように居るのだ。
「だって家帰っても暇ですから」
「それはうちに来ても同じだろ」
康太の部屋に来ても莉緒は基本ダラダラしているだけ。だから暇なのは変わらないだろうと康太は思う。
「それはそうなんですけどねー」
「だったら真っ直ぐ家に帰れよ……」
康太はチラリとベッドの傍らに置かれた通学カバンを見やる。それは莉緒が自宅へ直帰していない何よりの証拠だった。
「そもそも年頃の女の子が、男の……それも一人暮らししてる奴の部屋に入り浸るのは良く無いだろ?」
部屋に遊びに来てくれるくらいに、莉緒が今でも懐いてくれている。その事を康太は嬉しく思っているが、彼も年頃の男だ。
ただでさえ女性慣れしていない康太は、同じ空間に年頃の女子が居れば否応無しに意識してしまう。
それが莉緒のような美少女であれば尚更である。
ぱっちりと長いまつ毛が飾られた大きな瞳。付け根から先まで一直線に通った鼻筋。血色が良くふっくらとした唇。それらの要素で構成された彼女の顔立ちは均整が取れている。
ここ数年で彼女は見違えるほど美人になった。いや正確には莉緒の容姿は幼い頃から整っていたのだから、見違えたというよりは更に磨きがかかったとでも表現するべきだろうか。
加えて、大きくなった胸部、ほっそりとした手足、くびれた腰つき。それらは莉緒が女の子から大人の女性になった事を康太に強く認識させる。
そんな風に美しく成長した彼女に対して、いくら幼少の頃からの知り合いである康太でも何も思わずにいるのは難しい。
更に言えば、そんな彼女が無防備な姿を晒し続けて居るのだから尚の事だ。
寧ろ今まで何もしていない事を褒めて欲しいくらいだと康太は思う。
もっともそれは彼が意気地なしなだけかもしれないのだが。
「んー……、嫌です」
莉緒は語尾を上げるように明るく言う。
残念ながら康太の話を彼女は聞き入れるつもりが無いようだ。
(こっちの気も知らないで……)
康太は内心でため息を吐く。
そんな康太を見て何か思ったのか、莉緒はゴロンッと身体を転がして康太の方を向くと、
「ていうか先輩……もしかしなくても、私の事意識してるんですか?」
彼女は悪戯っぽく笑う。
体勢を変えた拍子に、ここ数年で最も変わった部分、もとい育った二つの山が揺れた。
デカい──。
康太は一瞬目を奪われた。
「…………そんな事無いぞ」
しかし直ぐに目を逸らし、努めていつも通りに振る舞う。
「先輩、嘘は良くないですよー」
振る舞ったつもりだったが、残念ながら幼馴染である莉緒の目は誤魔化せない。
「今だって私のおっぱいガン見してたじゃないですか」
莉緒は身体を起こしてベッドに座ると、両腕で自身の胸を持ち上げるようにして見せる。
フルンと揺れる胸。
強調された大きさと、重力で莉緒自身の腕にのしかかるさまは、圧倒的な質量を感じさせた。
当然康太の視線は、その豊かな膨らみへと吸い寄せられたが、
「いや、ガン見なんかしてないだろっ!?」
反射的に視線を逸らして、強めに否定した。
「あはっ……そーですね、ムッツリな先輩はガン見は、してませんでしたよね」
「……っ」
康太は反論しようと思ったが、何も言わない。ただただ羞恥で顔を染めていた。
そんな康太を見て、ニヤニヤと莉緒は更に口角を上げていく。
「ねぇ先輩、そんなに気になるならコレ触ってみますか?」
コテンッと可愛らしく首を傾げた莉緒は、揶揄うように康太を見つめる。
ちょうど上目遣いの形だ。
その動作に連動する様に、胸に付いた二つの重りもまた揺れた。
彼女の言う、コレとは言うまでもなくこれの事だろう。
「は? お前、何言って……」
あまりにも唐突な発言に康太の脳は軽くパニックを起こす。
「ほら、先輩? どうぞ、好きなようにしていいですよ?」
そんな彼に莉緒はその二つの塊を揺らしてみせる。康太の視線は再びそこに吸い寄せられてしまった。
「ほらほら」
ゆさゆさと揺れる胸。
ニヤニヤと笑みを浮かべる彼女は何処か楽しげだ。
「いや……それは、駄目だろ……」
なんとか莉緒の凶悪な胸元から視線を逸らした康太。今までだって彼女にドキリとする事もあった。その度に康太の理性は鍛えられてきたのだ。今更屈したりしない。
とはいえ、それも限界が近いのかもしれない。
それでも康太は必死に耐えていた。そんな姿を見た莉緒は、目を細め、さらに口角を上げると、
「ヘタレですねぇ、先輩は」
何処か挑発する様に莉緒は言った。
「でも仕方ないですよね。だって先輩は童貞さんですもんね」
「な……っ」
「だからこうして女の子が好きにしていいって言ってても、先輩は緊張して何も出来なくなっちゃうんですよね?」
莉緒は立ち上がり、康太の劣情を煽る様に自身の胸を押し付ける。
彼を見つめる莉緒の目は、挑発的だった。
「ほら、こんな風にしても顔真っ赤に染めて頑張って我慢してる……紳士的ですね」
ニヤッと笑う莉緒の表情は『紳士(笑)』と、まるでそう言っている様に見えた。
「だけど先輩、そんな事じゃ彼女が出来た時に困るんじゃ無いですか?紳士的過ぎるといざって時に上手く出来ないかもしれませんよ……あーでも、自分から女の子に話しかけられない先輩じゃこの先彼女が出来る事も無いでしょうし、いらない心配でしたね」
柔らかな感触を伴った、圧倒的な質量の暴力。
莉緒の煽りに康太は身を震わせながらもなんとか耐える。
耐えるが、限界は近かった。
「そしたら先輩…………一生童貞ですねっ!」
瞬間。
康太の頭の中で何かが切れた音がした。
「──っ、このっ!!」
「へ……っ!?」
小馬鹿にした様な莉緒の言葉に、我慢の限界を迎えた康太は彼女を勢いよくベッドへと押し倒した。
「あ、あの……っ、せん、ぱい……?」
莉緒は自身に覆い被さるようにしている康太を恐る恐る見上げた。
真っ直ぐに自身を見つめてくる彼の目は莉緒が知らない目をしている。
彼女は反射的に身体を動かそうとした。
しかし、康太の腕でがっちりと肩を押さえつけられていて身動きは取れず、ただじっとしている事しか出来ない。
「黙って聞いてれば好き放題言いやがって……」
今康太は、散々煽られた事で頭に血が上っていた。
「確か、ヘタレだの、紳士(笑)だの……」
「あの……紳士(笑)とは言ってないです」
反論する莉緒だが、その声はあまりにも小さい。先程康太を散々煽った時とは大違いであった。
「あとは…………、一生童貞だったか?」
「あはは……」
莉緒は何とも曖昧に笑った。
そんな彼女を見て康太は一度息を吸うと、
「────上等だ。そこまで言うなら今この場で卒業してやろうじゃねーか!!」
そんな事を言い始めた。
「ちょ──っ、先輩、本気ですか……っ!?」
「ああ、本気だ。お前さっき好きにしていいって言ってたもんな?」
「え"──っ、それは……その…………どうせ何も出来ないと思って……」
「今更駄目って言ってももう遅いからな……覚悟しろよ!!」
「……………………………………うん」
コクリと小さく頷いた莉緒。先程までの様子が嘘みたいにしおらしい。
康太は彼女が頷いたのを見てそっと顔を近づけていく。
今まで莉緒に対しての色々な感情を抑圧していた康太は最早止まる事は無い。
ただ己の情動のままにそれを彼女にぶつけていった────────
────それから、数時間後。
「────それで先輩、何か申し開きはありますか?」
平坦なトーンの声。
ベッドの上に座っている莉緒は腕と足を組んで見下ろす様に康太へ、ジトッとした視線を向ける。
「…………ありません」
床に正座する様に座る康太。
足に感じる床の硬さと突き刺さる様な莉緒の視線、その両方が痛かった。
「全面的に俺が悪かったです…………」
彼はただでさえ小さくしていた肩を更に縮こまらせる。
年下の女の子に手を出してしまった罪悪感で胸がいっぱいだった。
先程までは冷静さを欠いていた康太。彼が正気に戻った時には既に手遅れだった。乱れたシーツとそこに広がる赤い染み、そして息を切らして浅い呼吸を繰り返す一糸纏わぬ莉緒の姿。
完全に何もかもが終わったあとだった。
弁解の余地など無い。
散々煽られたとはいえ、最終的に手を出したのは康太の方であったのだから。
「へー、結構素直に認めるんですね」
「あぁ、俺が悪いのは事実だからな……」
「ふーん……そうですか」
莉緒は変わらずジトッとした視線を康太に向ける。
「その……本当に悪かった。謝って済む様な事じゃ無いだろけど、それでも……本当にごめん」
その視線に耐えられ無かった康太はもう一度頭を下げた。
「………………じゃあ先輩、ちゃんと責任取ってください」
そんな彼に向けて、莉緒はポツリと呟いた。
「……え?」
良く聞き取れなかった康太は、顔を上げると思わず聞き返してしまう。
「だから……っ、責任取って私と付き合って下さい!」
莉緒は恥ずかしいのか、頬を紅く染める。
「は……? それは……」
「何ですか? 散々めちゃくちゃにしといて、私と付き合うのは嫌なんですか?」
莉緒は康太をジロリと睨みつける。
「いや、そんな事無いけど……お前、それでいいのか? こんな風になし崩し的に付き合うみたいな形になって」
「はぁ…………先輩ってずっとヘタレだとは思ってましたけど、童貞卒業してもなおまだヘタレなままなんですね」
煮え切らない康太に、莉緒は呆れてため息を吐く。
そもそも莉緒が毎日のように康太の部屋を訪れている理由。それを康太がきちんと察していればもっと違う形になったのだろう。
「まぁ、私も大概ですけどね……」
或いは、莉緒が自身の胸に秘めた想いをさっさと伝えていればまた状況は違った。だけど彼女は無防備な姿を晒し続けて、康太の方からアプローチしてくれるのを待っていたのだ。ただひたすら。
なんて事は無い。
彼女もただのヘタレだった。
「ん? 今なんて言ったんだ?」
「何でもありません。それよりも先輩に拒否権は無いですから。だからヘタレな先輩は黙って頷いていればいいんです」
莉緒は誤魔化す様に語尾を強めて言った。
「あ、あぁ……分かった」
その勢いに気圧される様に頷く康太。
莉緒は満足気に頷くと、
「はい。これからは恋人としてよろしくお願いしますね、先輩っ!」
満面の笑みを浮かべた。
その笑顔は先程までの康太を煽る為の表情とは違い、とても純粋なものだった。
年下幼馴染を押し倒してしまった リクトマロン @Rikuto-marron
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