第4話 青春とは、心の若さ

 マンションの部屋の借主は、男性ではない。

 株式会社・正義アエキウィタスが借主である。

 同社は日本全国に展開する大手警備会社で、主な依頼人は、


・大手企業

・駐日大使館

・省庁


 等である。

 もっとも、その正体は《渡り鳥のガン》日本支局である。

 ベトナム戦争で国民の厭戦えんせん気分によって敗北を喫したアメリカ政府は、この経験を機に極力、直接は戦闘に頼らないように努めるようになった。


 1982~1984年 レバノン内戦

 1983年    グレナダ侵攻

 1987~1988年 イラン・イラク戦争

 1989年    パナマ侵攻

 1991年    湾岸戦争

 1992~1994年 ソマリア内戦

 1995年    ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争

 2001年    アフガニスタン攻撃

 2003年    イラク戦争

 2011年    リビア内戦

 等


 戦争以外には、駐留にも関与している。


 2001~2021年 アフガニスタン

 2003~2011年 イラク

 等


 アメリカ政府が後ろ盾に居る為、米軍が関与した多くの軍事作戦にも関わっている。

 

 1987~1988年 アーネスト・ウィル作戦

 場所    :ペルシャ湾

 任務    :クウェートのタンカーの船団護衛


 1988年    プレイング・マンティス作戦(祈る蟷螂カマキリ作戦)

 場所    :ペルシャ湾

 任務    :イラン軍の機雷によって、米軍が損害を受けたことへの報復

 

 1989~1990年 粋な小包作戦オペレーション・ニフティ・パッケージ

 場所    :パナマ

 任務    :パナマの将軍、マヌエル・ノリエガ(1934~2017)捕捉


 1991年    砂漠の嵐作戦

 場所    :クウェート等

 任務    :クウェート占領中のイラク軍への攻撃


 1991~1996年 プロバイド・コンフォート作戦

 場所    :イラク

 任務    :クルド人支援


 1992~2003年 サザン・ウォッチ作戦

 場所    :ペルシャ湾等

 任務    :イラク南部の飛行禁止空域監視


 1997~2003年 ノーザン・ウォッチ作戦

 場所    :イラク

 任務    :イラク上空北緯36度以北の飛行禁止空域監視作戦


 2001~2014年 不朽の自由作戦

 場所    :アフガニスタン等

 任務    :対テロ戦争


 2007年    オルジャ作戦

 場所    :イラク

 任務    :多国籍軍がファルージャ周辺を確保


 2007年以降 トランス・サハラにおける不朽の自由作戦

 場所    :サハラ砂漠

 任務    :対テロ戦争


 2011年    オデッセイの夜明け作戦

 場所    :リビア

 任務    :リビア上空の飛行禁止区域設定を実行する為


 2015~2021年 自由の番人作戦

 場所    :アフガニスタン

 任務    :北大西洋条約機構NATOの軍事作戦支援


 2023年以降 繁栄の守護者作戦

 場所    :紅海

 任務    :船舶攻撃抑制


 2025年以降 荒馬乗り達作戦オペレーション・ラフ・ライダーズ

 場所    :親イラン反政府武装集団占領地域

 任務    :親イラン反政府武装集団への攻撃

 等


 米兵の死傷者が増える度に米国民の間に厭戦気分が漂いやすい分、政府は非公式に《渡り鳥のガン》を投入し、米軍代わりにしていた。

 そういうこともあって、一部の部屋には、

 

 陸軍

『This we’ll defend』

 訳:我等これを護る


 陸軍第82空挺師団

『ALL THE WAY!』

 訳:どこまでも!


 陸軍第160特殊作戦航空連隊 《|闇夜に忍び寄る者》ナイト・ストーカーズ》》

『Death Waits in the Dark』

 訳:死は闇で待つ


 陸軍第18空挺軍団

『Sky Dragons』

 訳:天空の竜


 海兵隊武装偵察部隊

『Swift, Silent, Deadly』

 訳:素早く、静かに、徹底的に


 陸軍特殊部隊グリーンベレー

『Oppresso Liber』

 訳:抑圧からの解放


 Navyネイビー SEALsシールズ

『The only easyday was yesterday』

 訳:唯一安らかなる日は、過ぎ去った昨日のみ


 陸軍第101空挺師団 《叫ぶ鷲スクリーミング・イーグル

『Rendezvous With Destiny』

 訳:運命との待ち合わせランデブー


 陸軍第1騎兵師団

『Live the Legend』

 訳:生きる伝説


 陸軍第7騎兵連隊

『The Seventh First』

 訳:第7連隊は先頭にあり


 陸軍第10山岳師団

『Climb to Glory』

 訳:栄光に登る


 欧州陸軍

『Born at sea, baptized in Blood, Crowned in Glory』

 訳:海で生まれ、血の洗礼を受け、栄光の冠を授かる


 等、米軍関係の標語スローガンと現大統領の写真が飾られている。

 この他、星条旗は勿論のこと、武器庫には、


・ベレッタ

・グロック

・AK-47


 等が多数、存在している。

「……」

 電子煙草を片手に男性は、星条旗が掲揚されたその部屋で、自分の旅券を開いていた。


『種類   :個人

 コード  :USA

 姓    :東郷

 名    :大和

 国籍   :アメリカ

 出生地  :ハワイ州 U.S.A.

 性別   :男性

 ……』


(15歳……か)

 長年生きている為、15歳という意識は更々さらさら無い。

 しかし、会社からの命令だ。

 逆らうことは、出来ない。

 もっとも、名前も偽名で、出生地も違う為、この旅券で合っているのは、性別の欄のみだ。

 続いて卓袱台にノートパソコンを載せて開く。

 案の定、会社からメールが届いていた。


『少佐。

 未経験の青春を楽しめ。

 精神的休養が終了済み次第、前線に再び配置転換を行う。

            

               統合参謀本部』


 最終学歴が義務教育なので、統合参謀本部なりの親心なのだろう。

 しかし、教育を受ける気持ちは無かった男性―――東郷としては、あまり乗り気ではない。

(これが休養、か)

 不満ではあるが、命令は命令。

 逆らった場合、軍法会議送りの末、反逆罪に問われる可能性もある。

 軍法会議で運よく無罪になったとしても、後は定年まで窓際部署になるだろう。

 組織としては、歯向かう者より従順な方が管理する上で好ましい。

 東郷も昨日今日そこらの新人ではない為、そこら辺は重々承知だ。

「……」

 メールには、送り先の学校のHPと自分の学生証のデータが添付されていた。

(二等兵、もか)

 学生証は2人分。

 自分と同居中の部下の物まである。

 要は「2人で通え」という意味だ。

 2人1組ツー・マンセルである以上、仕方ないのかもしれない。

 しかし、自分の都合で部下を巻き込むのは申し訳ない気持ちが大きい。

(……びるしかないわな)

 統合参謀本部の命令を自分が代わりにつぐなうのは、理不尽な気もするが、そこは割り切らなければ組織の中では生きていけない。

「……」

 東郷は深いため息を吐くと、部下を呼ぶ。

「二等兵、ちょっと良いかな?」

「!」

 洗濯物を畳んでいた二等兵は、一瞬驚いた顔になるも、呼ばれたことが嬉しいようで瞬時に笑顔に変わる。

 そして、喜び勇んでこちらに駆けて来るのであった。

 

[参考文献・出典]

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