第24話 メティズヒリ、徹底制覇(2)

「とりあえず、ツルギたちを探さないと、ですよね……?」


「もちろんです」


 ぼくの質問にうなずく垣崎先生マリリンは、こんなときでもやわらかなオーラを発している。


「ぼくはすぐにツルギたちを探しに行きたいんですけど…… ダンダンジョン掃討部の到着を待つべきですかね?」


「待たないほうが、いいんじゃないでしょうか?」


 垣崎先生がなんでそれを知っているのか、それとも当てずっぽうで言ってるのか…… どっちなのか、ぼくにはわかりようがない。

 けど、たしかにそれは真実だ。

 このダンジョンメティズヒリは、…… 

 メティズヒリでは、魔族は生還できる場合もあるが、人間はほぼ全員が、姿を消してしまい戻ってこれないからだ。

 街に充満する人間に対する怨念のせいで、対人間用のトラップが発動するとか。

 ダンジョンに足を踏み入れた人間は、過去の世界に閉じ込められてしまうとか。

 前世、そんな噂もあったんだけど…… 

 ツルギ、ミウ、サエリの3人とケーブルの車掌が急に姿を消したところをみると、ただの噂ではなさそうだ。

 ―― ぼくが免れたのは、前世、魔王だからか。

 垣崎先生がトラップにかからなかったのは、もしかしたら 『もと凄腕ダン掃員っぽい人』 という経歴が盾になったのかもしれないな。昔にダンジョン掃討しまくったおかげで、魔族のニオイがしみついてるとか。

 ともかく ――

 垣崎先生がその認識なら、ぼくに異存はない。


「ぼくと垣崎先生だけのほうが、まだ徹底制覇クリアには有利…… かもしれませんね」


 >> ノブちんどうした!?

 >> おっとヒヨコが大胆発言

 >> なんとか言ったれマリリンママ

 >> ほんとダン掃待ったほうがいい


 コメント欄を見てないのか、垣崎先生マリリンは優しい笑みを浮かべて、ケーブルカーの非常時用ドア開閉スイッチを押した。


「じゃあ、行きましょうか、ノブナガさん」


 >> スルーかよ

 >> ダメだこりゃ

 >> 誰かこのふたり止めて!


 コメント欄、心配してくれてるな…… けど、みなさんを安心させるために前世魔王の知識解説をぶちかますわけにはいかない。

 ぼくはまだ、この素敵な日本でモブキャラとしてダンジョンを守りつつ平和な日常を送る夢を捨ててはいないのだから。

 前世がバレるのもダメなら、妄想を堂々と語るイタイ厨2と思われるのも困る。


「行きましょう垣崎先生…… と、そのまえに」


 ぼくは革の本専用D E Wのページをくった。

 ―― ツルギたちが急に消えたことまでは、記録済み。ついでだから、保険をかけておこう。

 

『ツルギたちは、ケガひとつなく無事でいるはずだ ――

 なお、ぼくと垣崎先生が消えなかったのは、このダンジョンに対するなんらかの耐性を持っているためだろう。

 したがって、ぼくや垣崎先生が、ダンジョンが原因の状態異常を受けることは、


 ぼくが書き終えると、革の本専用D E Wが一瞬、ぼんやりと光を放った ―― 発動、成功。

 これでダンジョンの 『のろい』 避けはばっちりだ。ツルギたちの無事のほうは…… 残念ながら、おそらく革の本専用D E Wではカバーできてない。けど。

 なにも書かないよりはマシかもしれないよね。そう信じておこう。


「これで、大丈夫です。行きましょう、垣崎先生」


「そうですね。なるべく早めに、を見つけましょう」


 垣崎先生マリリンがまずワンボックスカーの入口からとびおりた…… ついで、ぼく。

 外に出たとたん、ずん、と沈むような空気が身にまとわりついてくる ―― これが、過去の住民たちの怨嗟えんさの重みなのかな。

 先に革の本専用D E Wで状態異常ブロックしておいて、本当によかった ―― あ。


「また 【序破急新技】 忘れてた……」


 ぼくは、その場にしゃがみこんで頭をかかえる。

 ―― とにかく少しでも練習して、使えるようになろうと思ったのに…… とくにこの難易度高いダンジョンでは、パワーアップ、絶対に要るし。


「いまので 【序】 は完了かな…… えーと、それとも、みんなが姿を消したところが 【破】? とすると…… いまから 【急】 なわけ? 【急】 って言っても…… 『これから道を探します』 なのに、もうファイナルでいいの……? いや 『道を探す』 とか些末さまつなことは書いちゃダメ……」 


 >> ノブちん、落ち着けw

 >> 『道を探す』 は重要やろ


「あ、ですよね……」


 >> この際だからもうそんなもん気にするな


「いや、でもパワーアップしないと……」


 >> そんで何もできなくなるなら、意味ないやろ!

 >> それなww

 >> 禿同


「たしかに、それはそうなんですけど…… でも、できるようにもなりたいんです」


 >> ノブちん欲ばりww

 >> これが若さか


 ―― と、ここで。

 垣崎先生マリリンが口を開いた。


「練習なら、なにも今回のダンジョン掃討に重ねなくても、いいんじゃないでしょうか?」


「? どういうことですか?」


「予測もコントロールもしにくい現実は、その 【序破急】 でしたっけ? の練習には向かないでしょう?」


「あ。言われてみれば」


「だから、もっと 【序破急】 の形に整えていけそうな事柄を使ったら、なんとかなったり、しません?」


「あー…… それなら、いけるかも」


 >> さすがマリリン

 >> いいこと言う!

 >> さすもとダン掃!

 >> マリリンて、なんでダン掃やめたの?


「妊活のために…… 結局ダメで、夫さんとも離婚したんですけどね」


 >> う……

 >> ごめんなさい!

 >> もう聞きません……


「別に? いいんですよ?」


 >> すみませんでした!!!


 視聴者と垣崎先生マリリンとの危ういやりとり。

 垣崎先生は相変わらず柔和な表情だけど、もしかしたら嘘をついているのかもしれない ―― 

 なんとなくそんなことを思いつつも、ぼくは 【序破急】 として書きやすそうなことを頭のなかに並べてみる。

 ―― ここからボス部屋までの 『道のり』 は、どうだろう?

 あとは、ひとつひとつの戦闘も…… ありかな。

 でもできれば、そういう細かいとこじゃなくて、このダンジョンでの記録をひとつの物語ストーリーとしてまとめあげれらるような一本線がほしい ―― そうだ。

 ぼく自身のことなら、書きやすいかもしれない。

 たとえば…… うん、そうしよう。


「決めました」


 ぼくは深くうなずき、宣言した。同時に、革の本専用D E Wのぺーじをめくる。

 ぼくの新しいストーリーは、ここからが 【序】 だ ――


 >> お!?

 >> なになに?


「今回は、ぼくの革の本専用D E Wで 『ぼくが 【序破急新技】 を修得する過程』 を序破急の構成にのっとって、表していきたいと思います」


「それ、よさそうですね」


 垣崎先生マリリンの両方のほおに、くっきりとが刻まれる。なんというか、拝みたくなるような笑顔。


 >> ママ!

 >> ワイがマリリンママの子になる!

 >> いやわいや

 >> お母ちゃんに仕送り ☆1000エネ注入しました☆


 突如、マリリンの養子立候補者があふれ出したコメント欄はまあ、置いといて……


「【序】 はいま。そのうちぼくが 【序破急】 を悟る瞬間、それが 【破】。そしてぼくが 【序破急】 を活用してこのダンジョンから抜ける、それが 【急】 になる……」


 >> ママ、あげる! ☆1500エネ注入しました☆

 >> 母ちゃん!少なくてごめんな ☆500エネ注入しました☆


 ―― そうなるだろうとは思ったけど。

 視聴者のみなさん、当然みたいに誰も、ぼくの話なんて聞いてない……

 垣崎先生マリリンだけが、小さく拍手してくれた。


「いい考えですね」


「ありがとうございます、垣崎先生」


 この、遭遇するのはもっと先だと思っていた、推定難易度B++のダンジョンを攻略するためには…… 少しでも技を修得して、とにかくパワーアップしなきゃならない。

 だからぼくは、とにかくやってみる ―― 

 まずは、できることとできないことを自覚して、できることは磨き、できないことは伸ばす…… いや、そんな簡単じゃないのは、わかるけど。

 いまは視聴者の誰にも興味もってもらえないほど下手ヘタクソで、みっともないのも、わかるけど。

 それでもこれは、わかっていないのに形だけをそれらしく整えてごまかすより、ずっと重要なこと…… であって、ほしいな……

 

 ぼくは革の本専用D E Wに書きこんだ。


『いまはまだ全然ダメだけれど、ぼくはもうすぐ 【序破急】 とはなにかを会得する――!』


 ―― よし。

 まずは、ここからだ。

 ぼくは岩山のてっぺんまで続く、白みがかった紫色の階段に向かって一歩を踏み出した。


「垣崎先生、まずは神殿を探しませんか? こういう街では、だいたいのボスは、そこですし」


「妥当ですね…… ! ノブナガさん、ふせてっ」


 ふいに、ぼくの背中を、垣崎先生マリリンの手がぐいっと押した。

 よろけたぼくの頭上を、巨大な薄紫の腕が横切る ――

 このダンジョンの厄介な敵、アメジスト・ゴーレムだ……!


「垣崎先生、ぼくは革の本専用D E Wの性質上、援護メインです!」


「上等です!」


 垣崎先生が、ぼくとゴーレムのあいだに立ちふさがると、三角巾をとった。


 >> おっ!

 >> ママが闘う!

 >> 母ちゃんがんばれ!

 >> 母ちゃん! ☆1000エネ注入しました☆


 はらり。

 きれいに結っていた髪が、ほどかれる……

 ツヤツヤのキューティクルが入った、腰までも届きそうな長さの薄茶の髪は、風もないのにサラサラと揺れている。


 ―― 垣崎先生マリリン、どんなスキルを見せてくれるんだろう…… 先に言ってくれるとやりやすいんだけど、この状況では聞くこともできない。

 けど、どんなスキルであれ。

 発現したら、すかさず、補助する……!


 ぼくは革の本専用D E Wを持つ手に力を込め、息を詰めるようにして、垣崎先生の後ろ姿を見守った。

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