シンフォニー

かさまりお

プロローグ 追憶

あの日、人生で初めて朝まで酒を飲み交わしたあの日、柄にもなく大きな声で笑い叫んだあの日、世間は夜を迎えて久しいが、あの日々が永遠に続いて欲しいと願った。


それは幾年を越えて迎える冬の日、いつもよりずっと早く、凍てつく冬の風が山脈を越えてこの街に訪れた時のことだった。

彼らの音楽が、「偉大な作曲家の」というもっともらしい飾り言葉をくっ付けて、記号化された情感とともに、私の耳にもようやく届いた。


それでも、なんとも懐かしく、温かく、美しかった。

ああ、あの日々が続いていたら、私は真に純粋な幸せとともに、この音楽を愛しむことができただろうか。


何者にもなれない苦しみはあったが、十分幸せな日々だった。

けれど、あの不安定な世界での刹那的なあの頃が、彼らの音楽が熱を持ってぶつかり合うあの青春こそが、私にとっての人生だった。


あの枯れた草木のようにすでに年老いた身体、キンと張り詰めた風が、丁寧に仕立てられたマントをすり抜ける。心はあの青空のように、穏やかな感情に満ちている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る