第6章 隠匿

 【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。

 ・一部[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。



 ・前日譚である「私立あかつき学園  旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。

https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761 

https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792


 ・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)


 以上よろしくお願いいたします。


 【本編】

夜のあかつき市――春日新町。


 ひなた、京子、亮。

 三人はあかつきバーガーを出て、北西を歩き続けた。

 

 閑静な住宅街の路地を抜けると、石垣と黒塀に囲まれた大きな日本家屋が現れた。

 門柱には「麻倉」と記された表札。

 ――茶道麻倉流。本家の邸宅だった。


「す、すご……」

 ひなたは息をのむ。

「麻倉さんって、茶道の人だったんだ……同い年とは思えないわ――」

 京子も眉をひそめ、思わず背筋を正す。

「……試合より緊張するかも――」

 亮でさえ、いつもの調子を忘れたように口を閉じた。


 ひなたの共感力がざわめく。

「けど――もう手がかりがないわ……行こう!」

 三人はうなづき合い、麻倉家の門をくぐった。

 

 ――麻倉邸内。

 

 三人は使用人に案内され、畳の香り漂う茶室へ通された。

 掛け軸に生け花。炭火の音。すべてが凛とした空気に満ちていた。

 三人は畳に座して、静かに時が流れるのを待った。



 そして――障子が静かに開いた。



「お待たせいたしました。こんな夜中にお越しいただいて――」

 草色の着物をまとった少女が静かに座した。

 白く細い身体に黒縁メガネ。

 黒髪の長髪に白のカチューシャを身につけていた。

 所作ひとつひとつが研ぎ澄まされ、年齢を超えた威厳を漂わせている。

「麻倉真緒です。急にお呼びして申し訳ありません」


 亮がまず口を開く。

「いや、明日でも良かったんですよ?なんならスマホでも……こんな夜中に――」

 真緒はうっすらとほほ笑むと、静かに応じる。

「最近のテクノロジーは、不便な事も多くて……この前もスマホがつながらなかったんです。大量通信によるサーバーダウンとか――」

 そして真緒が饒舌に語る。

「そのために、最近はサーバーを意図的に水没させる、水冷サーバーを取り入れる企業さんもあるみたいですね――そうなれば、便利なのですが……」


 ひなたが困惑の表情を浮かべる。

「なんか、アナログなのか賢いのか……良くわからないわ」

 真緒がにこやかに応じる。

「いえ――善は急げと昔から申します。そのためには直接お会いすることが一番かと……」

 そして、真緒の表情が引き締まった。

「それに何かお困りのご様子のようですが?」


 京子が冷静な表情でうなづく。

「そうなんです。実はご相談したいことがあって……」

 すると、ひなたが身を乗り出す。

「小河佑梨さんの事故――ご存じですか?」


 真緒は淡々と口を開いた。

「事故?校内放送で聞きましたわ――確か、急な飛び出しで……と聞き及んでおりますが?」


「……」

 ひなたたちは息をのむ。

 すると、真緒が何かを見透かしたような視線を向ける。

「何かあるようですね?では――」

 真緒は、部屋の隅に静かに歩く。

 そして、漆塗りの道具箱を手に取ると、そこから茶碗と茶筅――茶道具をゆっくり取り出す。

「お茶でも――ゆっくりお聞きしますわ」



 ――静かな時間が流れた。


 ――ひなたたち三人と真緒のやり取りは、静かに続いた。


 畳に座したまま向かい合う。

 真緒は茶筅を軽やかに動かしながら続けた。

「なるほど……ただの事故ではないと?」

 すると、蔓に右手を添え、眼鏡を軽くかけ直す。

「ですが……それなら警察へお聞きになればいいのではありませんか?」


 

「……あ、あ……」

「そりゃそうよね――」

「何してるんだろ――私たち……」

 三人は固まってしまう。


 すると、真緒はふわりと笑みを浮かべた。

「もっとも――親族でも無い方に情報を漏らすはずはありませんけどね」


 ――ズコーッ!


 三人は思わず畳の上で軽くずっこけた。

 茶室の静寂に、不釣り合いなコントのような音が響いた。


「フフフ……面白い方たちですわね」

 真緒が静かに笑う。

 そこにひなたの言葉が重なる。

「渡瀬先生の休職――明智さんの休学……あまりにも変なことが重なりすぎてるんです。おかしいと思いませんか?」


 真緒の表情が引き締まる。

「渡瀬先生は、小河さんに特別な思いを抱かれていたとお聞きしています」

 亮が眉をひそめる。

「なんなの?それ?」

「小河さんのバイオリンは――かなり天才的だったと――熱心に個人指導をされていたみたいですね。それくらいです」


 京子が冷静な顔でうなづく。

「そういえば――あの時も小河さんと渡瀬先生だけだったわ……」

 ひなたもうなづく。

「確かに――あの音は……」


 今度は真緒が言葉を返した。

「それに明智さん――テニス部のキャプテンですよね?それが何か?」

 亮が真緒に視線を向ける。

「小河さんを呼び出したんです。それに……」

 京子が言葉を続ける。

「それが、なぜか小河さんを追いかけていた――ものすごい形相で……」

 すると、ひなたの声が重なった。

「その後に――あの事故!不自然すぎませんか?」


 真緒の右目が少し吊り上がった。

 冷静な口調で問いかける。

「不自然かどうかは――それだけでは証拠にはならないと思います。ところで――」


 ひなたの視線が射抜くように真緒に注がれる。

「ところで――?」


 真緒が、少し身を乗り出して問いかける。

「明智さんが、小河さんを呼び出した理由に心当たりは?」

 亮の目が細くなった。

「優秀生徒表彰の話らしいけど――」

 京子が表情を崩さずに言う。

「表彰の件は、渡瀬先生の推測だけど――理事長先生に呼ばれたのは確かみたい」


 真緒が怪訝な顔をする。

「……天美妙子あまみ たえこ――理事長が?」


 今度はひなたが身を乗り出す。

「その後に、明智さんが小河さんを――それに、これを落としていった。けど、何もわからない――」

 彼女は、手に握っていたバッジを真緒に差し出す。


 ――Foundationファウンデーション……。


 真緒の驚きを帯びた声が、茶室に静かにこだました。

 表情が固まり、バッジを凝視する。

 眉間に皺をよせ、何かを見定めるようだった。

「……」


 ひなたが真緒に詰め寄る。

「知ってるんですか?一体何を?」

 真緒の顔に戸惑いが浮かぶ。

「……それは――」


 ――ガラッ!


 不意に障子が開いた。

 戸口には、着物を着ている白髪の老人が立っていた。

「真緒……もう遅いぞ?」

 低い声が響く。


 真緒は戸惑いの表情を隠し、老人に顔を向ける。

「おじい様――すみません、急な相談事で……」


 亮が少し腰を低くする。

「すみません。俺たちが急に頼んで――」

 京子も言葉を続ける。

「麻倉さんにどうしてもって……」


 すると、老人が鋭い目を真緒に向ける。

「いらぬことを――話してはおらんか?」

 真緒の表情が固まる。

「はい――おじい様」

「そうか……」

 老人は目を閉じ、静かにうなづく。


 ひなたの共感力がざわめく。

 真緒と老人のやり取りに、只ならぬものを感じていた。

 そして、真緒に視線を向け、問いかけた。

「麻倉さん……一体」


 しかし、その問いかけは無情にも中断された。

「――帰ってくれ、もう夜中だ」

 老人が低い声で告げる。

 表情こそ穏やかだが、明らかに目が血走っている。


 真緒は口に手を当て、戸惑いの表情を浮かべた。

「おじい様――」


「……」

 三人は老人の迫力に身を固くした。

 そこに更に老人の声が重なる。

「帰ってくれ!」


 ――約10分後。


 ひなたたちは、麻倉邸の外にいた。

 取り付く島もなく、三人は屋敷を追い出されたのだ。

 柄も言われぬ感覚に包まれる。

 

 亮が目を丸くしてつぶやく。

「なんなんだ?あのじいさん?」

 京子がうなづく。

「お爺さんみたいだけど――それにFoundationファウンデーションって言葉に――」


 ひなたは腕を組んで考え込んだ。

「麻倉さんも――何かを隠してるの?一体……」


 三人は遠い目で夜空を見上げた。

 月明かりに照らされた町。

 時折、風が木々を揺らす音が静かにこだましていた。

 だが、そこに答えが返ることはなかった――。


【後書き】

 お読みいただきありがとうございました。

 是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。

 次回もよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る