『俺達のグレートなキャンプ130 キャンプ場のトイレをゴージャスに改造するぞ』

海山純平

第130話 キャンプ場のトイレをゴージャスに改造するぞ

俺達のグレートなキャンプ130 キャンプ場のトイレをゴージャスに改造するぞ


朝の陽射しが眩しく照りつける中、石川は両手を腰に当て、キャンプ場の簡素なトイレ棟を見上げていた。その表情は、まるで未開の地を発見した探検家のように目をキラキラと輝かせている。

「よっしゃあああああ!今日もグレートなキャンプの始まりだぜええええ!」

石川の雄叫びが山間のキャンプ場に響き渡る。近くでコーヒーを飲んでいた他のキャンパーたちが、驚いて振り返る。石川は全く気にする様子もなく、両腕を大きく振り回しながら仲間たちの元へ駆け寄ってきた。

「石川さん、今日は何をするんですか?」

千葉が目を輝かせながら尋ねる。彼の表情は子犬のように無邪気で、石川の次の発案を心待ちにしているのが手に取るように分かる。

一方、富山は小さなため息をつきながら、折りたたみ椅子に深く腰掛けている。彼女の顔には既に諦めにも似た表情が浮かんでいた。

「あのね石川、まさかまた変なこと考えてないでしょうね?昨日だってキャンプ場の池でボート競争って言って、結局管理人さんに怒られたじゃない」

富山の心配そうな声に、石川はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「富山ちゃん、心配ご無用!今日のプランは今までで一番グレートだ!」

石川が指差したのは、キャンプ場の奥にある古びたトイレ棟だった。コンクリート製の無機質な建物で、いかにも昭和の匂いが漂っている。

「あのトイレをな、俺達でゴージャスに改造するんだよ!」

「え?」千葉が首をかしげる。「トイレを改造って...」

「そう!キャンプ場史上最高にラグジュアリーなトイレに大変身させるのだ!考えてもみろよ、キャンプで一番憂鬱なのってトイレタイムだろ?それをゴージャスに変えれば、キャンプがもっと楽しくなるじゃないか!」

石川の熱弁に、千葉の目がさらにキラキラと輝く。

「うわあ、それは面白そうですね!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなりますもんね!」

千葉が手をパンパンと叩いて喜ぶ一方、富山の顔色はみるみる青ざめていく。

「ちょっと待ちなさいよ!勝手に施設を改造したら大変なことになるわよ!管理人さんに許可取ったの?」

富山の必死の制止に、石川は胸を張って答える。

「もちろん取ったさ!『トイレを美しく飾り付けしたい』って言ったら、『迷惑をかけなければいいですよ』って言ってくれたんだ!」

「美しく飾り付けって...まさか嘘ついてないでしょうね?」

富山の疑いの眼差しに、石川は慌てたように手をひらひらと振る。

「嘘じゃないぞ!本当にゴージャスに美しくするんだから!ほら、千葉も楽しみにしてるし!」

千葉が勢いよく頷く。その純真無垢な笑顔を見て、富山はさらに頭を抱える。

「はあ...で、具体的に何をするつもりなの?」

石川がニンマリと笑いながら、大きなリュックサックを背負ってきた。中から次々と謎のアイテムを取り出していく。

「まずは入り口から!この金ピカのカーテンで豪華にお出迎え!」

取り出されたのは、パーティーグッズ店で売っているような安っぽいゴールドのスパンコールカーテンだった。

「それから壁には、この美しいタペストリーを!」

今度は極彩色の派手なタペストリーを広げる。そこには謎の東南アジア風の模様が描かれていた。

「床にはこの高級カーペット!」

ビニール製の赤いじゅうたんを広げる石川。どう見ても100円ショップで買ったような代物だった。

「そして極めつけは、この照明!」

最後に取り出されたのは、ディスコボールだった。ミラーボールがキラキラと太陽光を反射している。

富山が両手で顔を覆う。

「やだ...本当に派手派手にするつもりなのね...」

「富山ちゃん、これでもまだ序の口だぞ!千葉、一緒に運んでくれ!」

「はい!」

千葉が元気よく返事をして、石川と一緒に荷物を運び始める。富山はため息をつきながら、渋々後を追った。

トイレ棟の前に到着すると、石川は軍隊の指揮官のように仁王立ちする。

「よし!作戦開始だ!千葉は入り口のカーテン設置、富山ちゃんはタペストリーを壁に貼ってくれ!俺は床と照明を担当する!」

「了解しました!」千葉が敬礼する。

「はいはい...」富山が諦めたように呟く。

作業が始まると、キャンプ場に奇妙な光景が広がった。石川は鼻歌を歌いながらビニールカーペットを敷き、千葉は脚立に乗ってカーテンを取り付けようと悪戦苦闘し、富山はタペストリーと格闘していた。

「あの...石川さん、このカーテン重くて落ちそうです...」

千葉が脚立の上でふらつきながら言う。

「大丈夫だ!そこの釘に引っ掛けるだけだ!」

「釘が見つからないです...」

「えーっと、あ、そこのねじ穴に針金で固定すればいいや!」

石川が適当な指示を出す中、富山はタペストリーをまっすぐ貼ろうと必死だった。

「ちょっと右!あ、今度は左に寄りすぎ!もう少し上!」

富山が一人で呟きながら、何度も貼り直している。その額には汗がにじんでいた。

そんな騒ぎを聞きつけて、近くのテントから他のキャンパーたちが様子を見に来始めた。中年夫婦、大学生らしきグループ、家族連れなどが遠巻きに見守っている。

「あの人たち、何してるんだろう?」

「トイレを飾り付けしてるみたい...」

「変わってるわね...」

ひそひそ話が聞こえてくる中、石川は全く気にせずにディスコボールの設置作業に夢中になっていた。

「よし、これで照明も完璧だ!スイッチはこの懐中電灯を当てることで代用する!グレートなアイデアだろ?」

「すごいですね!キラキラして綺麗です!」千葉が手を叩いて喜ぶ。

富山がタペストリーの最後の角を留めながら、疲れ切った表情で振り返る。

「はあ...とりあえずこれで終わり?」

「まだまだ!最後の仕上げが残ってるぞ!」

石川がまたリュックに手を突っ込んで、何かを取り出そうとする。

「ちょっと待ちなさいよ!もう十分すぎるでしょ!」

富山が慌てて制止しようとしたその時、キャンプ場の管理人がやってきた。50代くらいの温厚そうな男性だが、トイレの変わり果てた姿を見て目を丸くしている。

「えーっと...石川さんでしたっけ?これは一体...」

管理人の困惑した表情に、石川は満面の笑みで答える。

「管理人さん!どうですか、この豪華絢爛なトイレは!これできっとお客さんも喜びますよ!」

管理人は苦笑いしながら頭をかく。

「いや...確かに綺麗にはしてくれましたけど...ちょっと派手すぎるような...」

その時、トイレから一人の利用者が出てきた。30代くらいのサラリーマン風の男性で、呆然とした表情を浮かべている。

「あの...トイレがすごいことになってるんですけど...」

男性の報告に、見物していたキャンパーたちがざわつき始める。

「え、本当にトイレの中まで飾ったの?」

「見に行ってみましょうよ」

好奇心に駆られた何人かが、恐る恐るトイレに近づいていく。

「あ、ちょっと待って!」富山が慌てて止めようとするが、時既に遅し。

トイレのドアが開かれると、中から光の乱反射が飛び出してきた。ディスコボールの光がタペストリーとゴールドカーテンに反射して、まさに異次元空間のような光景が広がっている。

「うわあああああ!」

「すげー!」

「これは...アート?」

見物人たちの反応は様々だった。驚く人、笑い出す人、写真を撮り始める人。

千葉が興奮して石川の袖を引っ張る。

「石川さん、大成功ですね!みんな注目してます!」

「当然だ!これが俺達のグレートなキャンプスタイルだ!」

石川が勝ち誇ったような表情で胸を張る一方、富山は顔を真っ赤にして項垂れていた。

「恥ずかしい...もう穴があったら入りたい...」

そんな富山の様子を見て、管理人が苦笑いしながら声をかける。

「まあ、お客さんたちが楽しんでくれているようですし...しばらくはこのままにしておきましょうか。でも後片付けはちゃんとお願いしますよ」

「もちろんです!ありがとうございます!」石川が深々とお辞儀をする。

見物人の中から、一人の女の子が前に出てきた。小学生くらいの可愛らしい子で、目をキラキラさせている。

「お兄ちゃんたち、このトイレすごく綺麗!お姫様のお城みたい!」

女の子の無邪気な褒め言葉に、石川の顔がほころぶ。

「そうだろ?お嬢ちゃんにも喜んでもらえて良かった!」

女の子の両親も笑顔で近づいてきた。

「子供が喜んでいるので、記念写真を撮らせてもらってもいいですか?」

「もちろん!どんどん撮ってください!」

石川が快く承諾すると、他のキャンパーたちも次々と写真撮影を始めた。

「インスタ映えするー!」

「面白い思い出になりそう!」

予想外の好評に、千葉が小躍りしながら喜んでいる。

「やっぱり石川さんのアイデアは最高です!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなりますね!」

富山も少しずつ恥ずかしさが和らいできたのか、小さく微笑んでいる。

「まあ...結果オーライってやつかしら...でも次回からはもう少し常識的なことにしてよね」

「約束はできないな!」石川がニヤリと笑う。「次回はキャンプ場の湖にネッシーを作って...」

「だめーーーー!」

富山の絶叫が山間に響き渡った。

夕方になると、ゴージャストイレは完全にキャンプ場の名物になっていた。新しく到着したキャンパーたちも、まずトイレを見に行くのが恒例となっている。

「今度キャンプに来る時は、あのゴージャストイレが目印になりそうだな」

「子供たちが大喜びだよ」

「なんかこのキャンプ場、特別な場所みたいに感じるね」

そんな会話があちこちで聞こえてくる。

石川は焚き火の前で満足そうにコーヒーを飲んでいた。

「どうだ、今日もグレートなキャンプだっただろ?」

千葉が嬉しそうに頷く。

「はい!すごく楽しかったです!みんなに喜んでもらえて良かった!」

富山はため息をつきながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべている。

「まったく...でも確かに、普通のキャンプじゃ味わえない体験だったわね」

「それが俺達のグレートなキャンプスタイルさ!明日は撤収だから、みんなでちゃんと片付けようぜ」

「はーい」

「分かったわよ」

三人の笑い声が焚き火の炎と共に夜空に響いていく。

翌朝、片付けの時間になると、昨日トイレを見た子供たちが手伝いに来てくれた。

「お兄ちゃん、綺麗なトイレありがとう!」

「また作りに来てね!」

子供たちの純真な感謝の言葉に、石川の胸が熱くなる。

「ああ、また来るよ!次回はもっとグレートなものを作ってやる!」

「石川...」富山が呆れたような、でも愛情を込めたような表情で見つめる。

片付けが終わると、管理人がやってきた。

「石川さん、今回はありがとうございました。お客さんたちにとても好評でしたよ。実は他のキャンプ場からも話を聞きつけて、『うちでもやってくれないか』という問い合わせがあったんです」

「本当ですか!」千葉が目を輝かせる。

「ああ、でも今度は事前にちゃんと相談してくださいね」管理人が苦笑いしながら付け加える。

「もちろんです!次回はさらにグレートなプランを用意してきます!」

石川の宣言に、富山が頭を抱える。

「はあ...また振り回されるのね...」

でも彼女の表情には、どこか楽しみにしているような色が浮かんでいた。

車に荷物を積み込みながら、千葉が嬉しそうに呟く。

「今度はどんなキャンプになるんでしょうね」

「楽しみにしててくれ!俺達のグレートなキャンプは、これからももっともっと進化していくぜ!」

石川の力強い言葉と共に、三人を乗せた車はキャンプ場を後にした。バックミラーには、今も輝いているゴージャストイレの姿が小さく映っていた。

「次回、俺達のグレートなキャンプ131、乞うご期待!」

石川の声が車内に響き、三人の新しい冒険の始まりを告げていた。

その後、このキャンプ場の「伝説のゴージャストイレ」の話は、キャンパーたちの間で語り継がれることになる。そして石川、千葉、富山の名前も、「あの面白いトイレを作った人たち」として記憶に残り続けた。

真のグレートなキャンプとは、みんなで笑い合い、思い出を作ることなのかもしれない。石川達の奇想天外な冒険は、まだまだ続いていく...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『俺達のグレートなキャンプ130 キャンプ場のトイレをゴージャスに改造するぞ』 海山純平 @umiyama117

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ