味気ない日々に、彩りを
となみ。
第1話
進堂静佳。高校一年。学校ではぼっち。
私の夏休みは、虚無に覆われていた。
手帳を見る限り、夏休みの予定が、それはもうきれいに空白。
人間関係は、格付けだ。たとえ仲良くなりかけても、気に入られなかったら、飽きたらすぐに捨てられる。
近くの子に話しかけてみるなど、努力はしてきたのに友達ができなかった。努力に見合った評価がされないというかなしさ。無駄な努力はもうしたくない。
だが私は、自分が価値のない人間だとは微塵も思っていない。
友達はいないが学校での日々は充実していた。勉強があったからだ。
勉強だけが取り柄というのも悲しいから言いたくないが、成績はクラスで1番だ。友達がいない分学力で勝負するのだ。
入学してすぐに学力テストが行われてた。ぼっちで落ち込んでいた時、クラス最高得点を叩き出したことで自分の輝ける場所を見つけたのだった。ぼっちという低い身分でも、自分を誇れる武器を見出したのである。
私の見た目はとりわけコンプレックスがあることはないものの、眼鏡で地味な女子、という印象を与えているだろう。肩くらいまでの長さの髪をおろしていて、スカートの丈も他より長い。制服はボタンを全部閉めて、本来の着方をしている。校則も緩い学校なので、大体の生徒は制服を着崩し、各々のアレンジを加えている。
私のスタイルは昔からそうだ。高校デビューとかいうのもあるが、見た目が変わっても中身はそのまんまだ。意味がないと判断した。そもそもそんなことをする勇気などどこにもない。
周囲からの評価が低く理不尽な人間関係に比べ、成績というものは努力した分点数として還元される。それに気づいてしまったのだ。それからは友達作りという無駄な時間を費やすのを諦めた。もう勉強が友達のような存在。
授業の持ち物や、課題の提出期限などを細かく記していた手帳のマスも、終業式という大きな文字以降、始業式までの間は空白しかなかった。
夏休みの課題は,、休みに入る前に課されたその日中にもう終わらせた。アルバイトもせず、成績優秀者の称号を得るためにもただひたすら勉強をするということは決めている。しかしいざ夏休みとなると、何もないことから急な孤独感に包まれ、やる気が起きなくなった。
ふと、夏休みの注意事項などの書かれたプリントに目をやった。
「夏期講習……」
頭の良い私には関係ないと思っていたことだが、学校に登校できることに魅力を感じた。偶然にも今日開講している英語の講習があったものだから、私は行ってみることにした。
皆は友達と来る人ばかりの空間に行くのは勇気がいるだろうが、私は負けない。カバンにつけている好きなバンドのキーホルダーを握りしめ、エネルギーチャージ。
・・・・・
10人ちょっとしかいないのにざわざわとした教室。開いた窓から聞こえる蝉の鳴き声。ブーーンという大きな音を立てる扇風機。家に引きこもっているだけでは感じられない明らかに新鮮な感覚となつかしさ。
私は英語の授業を聞くよりも、この居心地の良い空気に浸っていた。
「進堂さん、それ好きなの?!」
休憩中のことだ。隣りにいた子が、突然話しかけてきた。それも同じクラスの、話したこともない子。なぜ私の名前を知っている…?
その子が指さしたのは、私の好きなバンドのキーホルダー。
「え、うん。私の唯一好きなバンドで…」
「えーっ!私も一番好きなんだよね~!」
「そうなの?」
同じ趣味の人が、いた。話しかけてくれた。
「進堂さん、話してみたいと思ってたんだ~めっちゃ頭良いじゃん?あとで分かんないとこあったら聞いてもいー?あ、私森田菜奈って言いまーすよろしくね!」
衝撃だった。私と話したいと思ってくれてた子がいたなんて!勉強してきて良かった…!!
森田さんは、とても感じの良い子だった。ポニーテールで、元気な感じ。そしてその性格からは、明るいオーラを発しているように見える。私とは対称的だ。制服は少し短くしたスカートにポロシャツというスタイル。パッと見て爽やかな子だという印象を受けた。
「そーいえば東京に公式のショップできたじゃん?行ったことある??」
「行ってみたいとは思ってるけど、なかなか…」
こんなに会話が続いた人は初めてだ。それだけで、心が躍る。
「じゃあ一緒に行こうよ!それ好きな人周りにいなくてさー!一人で行くのも勇気いるし」
今まではただ、孤独の寂しさを埋めるためだけの存在だった。曲を聴いたり、キーホルダーを握ったり。それでも心にぽっかりと空いた穴は埋まらなかった。
私は初めてこのバンドに感謝した。
・・・・・
私は帰ってすぐに、約束した予定を手帳に記した。蛍光ペンでしっかりと目立たせて。
私のモノクロで寂しかった手帳には、たった1日だけど、どこよりも目立つマスがページを彩った。
その時はまだ、空白な日々がこれからさらに彩られていくことを知らない。
味気ない日々に、彩りを となみ。 @mntkw
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