不安と私

芸術前線集団

実存の欠如

 どうしようない夜がくる。不安。自己の欠落にニオイであり、何かと退廃とそれによる心地よさとで、私にマゾヒズムを想起させる。闇夜の中をネオンが彷徨くただ中に、私は生の不在を感じるのである。生とはこんなものなのだろうか?私にはわからない。ただ生きて、ただ死んでゆくのが生なのか。鐘の音が遠くからボオンとなる。深夜。二時。まだ街にネオンが鳴り響く。薄寒い風が私を打ちつけ、人間の腐った臭いが、わんさか、わんさかするのである。女と男が混在し、道徳は失われる。失われるべきだったのか、それはわからない。ただ言えるのは今がクソだってことだけだ。何も見えない、人も、いのちも、芸術も、そんなもの本当にあったのかと思うほど、長く、見ていない。

 私は歩んだ。どこに行くのか?わからない。光り輝く産業都市、小売店がピンクやら赤やら青色で飾られてその背後には現代式交響曲第最終楽曲たる腐った広告、が流れている。不安の風が私を煽り、その感覚が忘れられない。我が心臓までたどり着きたるこの風は、自己を喪失させるのには相応しい。女が喋る、男が応じる。女が金をもらう。男が金を渡す。ここにはおそらく労働者は女だけだ。女よ!目を覚ませ!革命するのだ!男というブルジョアを打開し、真の自由を手に入れるのだ!

 ……しかし、真の自由とは?


 

 歩まねばならない。歩き続けなければならない。死ぬまで、生きなくてはならない。生まれぬものは幸いだ。生きられぬものは不幸である。背後から死神が追う、けれどそれがなんだ。あいつは友だ。生であるにはともが必要なんだ。彼はずっと近くにいてくれて、私を不安にさせてくれる。ありがとう。友よ。これほど嬉しいことはないさ。誰もいないよりはお前がずっといてくれた方が何よりも嬉しいじゃないか。だから、ね、これからもずっといよう。ずっと。

 風が唸る。人が死ぬ臭いを漂わせながら、そこには湿気と処女の匂いも混じっていた、我が眼中にそれをば捕える。少女がこの場を通り過ぎた。月の裏、そこを、歩くが如く。色はオレンジと黄色、ムンクである。それをば携えて、彼女は白のワンピースに包まれて風に乗ってやって来たのだ。

 彼女の顔は、どこか、キリスト像に似ていた。

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不安と私 芸術前線集団 @03603

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