第22話 現る影

 昼休み、ソフィアはいつも通りフーヤオと図書室に向かった。静かな場所で本を読むのが、彼女の唯一の楽しみだった。フーヤオは、人間体のままソフィアの向かい側に座り、彼女の様子を静かに見守っている。

 その時、図書館の扉が開き、数人の男子生徒が入ってきた。彼らは、学園内で悪名高い不良グループだった。生徒たちは彼らを見て、そっと席を離れていく。彼らはそんな周囲の反応を気にも留めず、まっすぐにソフィアのもとへやってきた。

「よぉ、監督生サン。ちょっといいか?」

 リーダー格の男が、ソフィアの机に手を置いて尋ねた。その声には、親しみなど微塵もなく、ただ冷たい計算が潜んでいた。ソフィアは、表情を変えることなく、ただ男を見つめる。

「……何か、困り事ですか?」

 ソフィアの言葉に、男はニヤリと笑った。

「そうなんだよ。実は、俺たちの魔法が上手くいかなくてさ。お前の言う通りにしたら、すぐにできるようになるって聞いたんだけど、マジか?」

 男の言葉は、まるでソフィアの能力を試しているようだった。

「……試してみますか?」

 ソフィアは、そう答えた。彼女の口からは、何の感情もこもっていない。ただ、求められた「役目」を果たそうとする、それだけの言葉だった。

「へぇ、ずいぶん余裕じゃん。いいぜ。今度の授業、俺らのクラスに来てくれよ。それから、放課後もな」

 男はそう言って、ソフィアの返事を聞くことなく、そのまま立ち去った。その背中からは、彼女を利用しようとする明確な意図が見て取れた。

 ソフィアは、ただ静かに本を閉じた。彼女の心には、何の感情も湧き上がらない。ただ、これから始まる「仕事」を、淡々とこなすだけだ。

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