もう幼馴染のままじゃいられない!

荒谷宗治

第1話 多いよ!

 幼馴染に、好きな人が居るらしい――。


(……え、誰?)


 晴天の霹靂を受け私、新島陽加にいじまはるかは夜寝る前のベッドで考えを巡らせる。


(え、誰誰? 誰なの? 好きな人って一体誰? そんな素振り全然無かったじゃん! わかんないわかんない!)


 今日唐突に聞かされた、高校生になった今は違うけど幼稚園から中学までずっと同じクラスだった幼馴染の白雲蒼太しらぐもそうたに好きな人がいるという話。私の頭は一日そのことで一杯だった。


(……駄目だ。考えてても仕方ない。明日ちょっと確認してみよう! 大丈夫。あいつ私以外に仲良い異性なんていないし、すぐにわかるでしょ!)


 そう高を括って私は眠りについた。



 翌日。私が遠目に黒髪で短髪、少し三白眼気味の男子、白雲蒼太を追いかけていると、1人目の女子がエンカウントする。


「やっほー白雲くん! 見たよこの前の試合!」


 そう言って教室の前で蒼太に肩を組んでくる人は桜川さくらがわさん。金髪で長めのツインテールの私と違い、ピンクの髪で短めのサイドテール。つり目気味の私と違って少し垂れた目。私と違ってピアスにネイル、アイシャドウもバッチリ決めてるいかにもギャルっぽい人。そして私と違って胸も大きい。


「ちょ……。いきなり肩組まないでくれよ……びっくりするだろ……」

「えーいいじゃん! あたしと白雲君の仲でしょー! それより! 前の試合! 最後のなんとかシュートでの逆転! 普段はなーんかナヨナヨした陰キャっぽい雰囲気なのにやるじゃん! いざという時はやれんだね!」

「スリーポイントシュートな……」


 テンション高めにくっついてくる桜川さんに少し困惑気味の蒼太。何タジタジになってん! ねえてかちょっと顔赤くない? てか、桜川さん胸蒼太に当たってない? ねえ、それで顔赤くしてんの? おい、コラ。


「白雲! 見たぞこの前の試合! 見事だったな!」

「あ、先輩! どうも!」


 2人目は体育館裏、3年生の女子剣道部の主将、松本まつもと先輩。制服をキッチリ着こなした、艶やかな黒髪をポニーテールにした切れ長の目をしている人。そのキリッとした立ち振る舞いと見た目で女子人気も高いらしい。部活も学年も違うのにいつ接点作ったの?


「最後のスリーポイントは見事だったぞ。普段の練習の成果が出たな」

「いやぁ……運が良かっただけですよ……」

「それでもだ。例え偶然だったとはいえ、あの時君が決めた事実は変わらない。これがピークとならないようこれからも真摯に向き合うんだぞ」

「……はい! 頑張ります!」


 先輩の言葉に感動したように目を潤ませて返事をする蒼太。……え、ちょっと待って。なんでこんな師匠と弟子みたいな雰囲気出してんの? 蒼太バスケ部で先輩は剣道部でしょ!? 全然部活違うじゃん! おかしいおかしい! 乱れてる宇宙の法則が! 書き変わってる因果律が! なんなの!? なんで部活違うのにあんな感じになってんの!? あれなの? 部活は違えど競技に取り組むものの精神を教えてもらった的な!? そんな感じ!? ちょっと! どうなってんの!?


「あの……白雲くん……。こないだの試合……見たよ……」

「内田さん! 来てくれてありがとな!」


 3人目は廊下、蒼太のクラスの委員長でもあるらしい内田うちださん。眼鏡をかけて茶髪気味の髪を三つ編みにしてる人だ。恥ずかしそうに顔を若干俯かせながらも蒼太に話しかけている。


「うん……その……最後のシュート……凄かった……」

「ありがとう。やっぱりみんなあれは凄いって思ってくれてんだ」

「う……うん……。かっこよかった……」


 そう言って少し上がった内田さんの顔は耳まで赤くなっている。ねえこれって……違うよ……ね? 内田さん緊張しやすいからそれで顔赤くしてるとかだよね? 決して蒼太のことをその……異性として気になってるとかそんなんじゃないよね!? ねえ! 内田さん!


「その……白雲くん……良かったらまた図書館に来て……私……待ってるから……」

「わかった。また勉強とかおすすめの本とかよろしくな!」

「うん……」


 その場を後にする蒼太へ内田さんが小さく手を振る。あいついつの間に勉強とか本を教えて貰える仲になってたの? 私聞いてないって内田さん……内田さん? 何、その熱のある視線は? 蒼太もうかなり小さくなってるけど? ほら、もう居なくなったし内田さん? 何でまだ立ってるの? 何でまだ顔が赤いの? 内田さん!?


「白雲さん。聞いたよバスケの試合で最後逆転を決めたんでしょ? 凄いじゃん」


 4人目。恐らく蒼太のクラスメイトと思われる人物。


「私も聞いたよー。凄いじゃんそれで優勝したんでしょ?」


 5人目。同じくクラスメイトだろう人。


「ほんと凄いよね。打つ時緊張とかしなかったの?」


 6人目……。



 夜になり、ベッドで目を閉じながら私は今日のことを思い返す。


 (多くない!?)


 脳内の第一声はそれだった。あの後も蒼太に声をかける女子はいて、なんだかんだ10人近くになっていた。


(おかしいおかしいおかしいって! え、ちょ、あ〜……。だって蒼太中学まで女子の知り合いなんて確かに私くらいしか……! なのに高校になったら10人近くって……! ちょ待って、ちょっと待って! えぇ〜〜……)


 認識はできても腹落ちできないその事実に、まるでパニックのような落ち着きない言葉が私の頭の中を駆け回る。


 (大体みんな蒼太の試合見に行ってたの!? 嘘でしょ知らなかった! みんな見てたの!? てか同じ部活とかでもないのに試合見に行くってあれじゃない!? ねえ!? 大分仲良くないとやらなくない!? しかも異性! それともそんなことない? 私がおかしいだけ?)


 湧き出す疑問の数々。この場で答えを知ることはできないものばかりだけど、1つだけ声を大にして言いたいことがある。


(……いや私も見に行ってたけどね!?)


 そう声を張る。脳内で。


(私も見たけどね! 蒼太の試合! 動画にもバッチリ撮ってあるしね! スマホにも入れてるし、バックアップも万全よ! 特にラストの逆転ブザービータースリー! あれ本当に良かった! 凄かった! かっこよかった! かっこよかったよね!? かっこよかったでしょ!? 普通かっこいいよね!? 客観的事実として! 証明してあげようか!? ショート動画に上げてやろうか!? 100万再生貰ったよこれ!)


 誰に言っているのかわからない啖呵を切る。脳内で。


(いやそんなことより……そんなこと!? そんなことじゃないよ! 大事なことだよ!? いやそうじゃなくて……。問題は私もあの日試合見に行って蒼太とも話したのにみんな来てたことに全然気づかなかってこと! なんで!? あの時は私蒼太の試合のことしか考えてなかったし蒼太のことしか見てなかったから!? 何やってんのよ私! もっとちゃんと周りを見ろ! え〜……居るってわかったならもっとこう……色々やったのに!! )


 湧き上がる後悔を語る脳内。こんなことになってるなんて夢にも思わず何もせずに過ごしてしまった当時の自分に怒りを覚える。


(っていうか、結局蒼太の好きな人って誰なの!? 今日会った人達の中にいるの!? 嘘でしょ!? 候補多くない!? どうなってんのねえ! ……いや待って。よく思い出せ私……口ぶり的に内田さん以降の女子は「聞いた」って言ってたよね? でも内田さん以前は「見た」って言ってた……。つまり特に親しいのは桜川さんと先輩と内田さんの3人?)


 先程までの騒がしさから一転、比較的落ち着いて推理を頭の中で展開する私。


(実際、蒼太もその3人とは特に親しげ話してたけど、それ以外の女子とは3人と比べるとそんなに距離感近くなかった。会話も割と当たり障りない内容だったし……。よーし……! 一気に3人まで候補を絞れた……! でも結局蒼太が誰を好きなのかわかんない……。くっ……! 明日また見張らないと……!)


 今日得た情報の精査、候補の絞り込みを果たし、最低限の成果を得た私。しかし、核心にはたどり着けずもどかしさが消えない。


「本当に好きな人居たらどうしよう……」


 すると、ふと口からそんな言葉が漏れてしまう。自分て言っのに胸の奥が痛むような感覚になって、毛布をキュッと掴んで口を強く結ぶ。


(考えたってしょうがない! とりあえず明日洗い出しをしてその後対策を考えよう! 対策? 対策を考えるって何? 対策を考えるったら対策を考えるだよ! 言葉以上の意味は無い! その為にもちゃんと体力回復しないとお休み!)


 今日はそう結論付けて毛布を深く被って眠りにつこうとする。


「お姉ちゃん朝だよ起きな」

「えっ」


 妹が部屋のドアを開けて私を起こす。気がつくと、カーテン越しに朝日が差し込んでいた。

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