深夜バス、追い抜く隣のバスに見えた影

物書きモトタキ

池袋‐梅田間 2025年6月22日 午前3時26分

深夜バスに揺られ、関東から関西へ。なんとなく寝付けず、ぼくはカーテンの隙間から外を眺めていた。メガネを外したぼくの視界は、街灯を万華鏡のように映す。


(ここは山道かな)、(トンネルの中だ)なんて、おおいにピントがボヤけて乏しい視覚情報を頼りに風景を楽しんでいた。


しかし、単調ではある。ぼくは次第にまどろみ、外を覗きみながら眠りに落ちていった。


こつりと額をぶつけて、目を覚ます。痛いというほどではないが、覚醒するには十分な刺激だった。


窓の向こうには、深夜バスが並走していた。(そんなこともあるか)と、ぼんやりと眺める。すると、窓からこちらを覗く顔があった。ばちりと目が合う。それだけのことだが、ぼくは背中に水をかぶせられたような気分になった。


その顔は、ぼくの顔だった。しかも、手招きまでしはじめている。だめだ。これは、よくない。いいはずがない。


無理矢理に振り切って、ぼくはカーテンの隙間をそっと閉じた。バクバクと弾む心臓がうるさい。しかし、好奇心に負けて、ふたたびカーテンの隙間を覗き込んで、外を眺める。もう、並走するバスはいなかった。だが、そこで、気づいた。


(今のは何が見えてたんだ……)


そう、見える視界はボヤけたままだったから。

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