ボク、殺されたと思ったらまさかの人外転生
ツッキー
第1話 終わり、そして始まる
頭の中で、声が響く
『はははっ!お前めっちゃずぶ濡れじゃねえか!』
『ぷっ、ははっ!いやお前がバケツの水ぶっ掛けたから濡れてんだろっ!はははっ!』
『良いじゃん、もっとやっちゃいなよ。結構映り良いんだから。』
今日も、虐められた。今となってはいつもの事だから、そんなに苦しくはない。果たしてこれがいい事なのか、悪い事なのかは分からない。
まぁでも、苦しくないってことは、既にボクの心はどこかに消えて無くなってしまったのかもしれない。
まぁ仕方ないよね。こうやって毎日のように虐められて、帰路について、唯一の安息の場所とも思える家でも虐待を受ける。心が無くならない方がおかしいよね。
でも、そんなボクでも唯一、まだ自分に心があるかもしれないと思える瞬間がある
それが
「.........フフッ」
自分の妄想のキャラクターをつくって、眺めている時だ。
今現在ボクは、帰路につきながらキャラクターの絵や設定に関する文字が書かれている紙を眺めている。
紙には、カボチャの頭で、黒のかなり大きなパーカーと黒色の長ズボンを着て、黒のロングブーツを履いているキャラクターが描かれている
頭であるカボチャには、目の位置に三日月の形が、口の位置には太いギザギザの線が彫られている。
ボク自身がデザインしたのだが、中々に良いデザインだと思っている。もしボクの家族と友達に問題がなければ、この絵を見せていたと思う。
まぁ今の状況で見せても、絶対に暴言と暴力が飛んでくるだけだろうけど。
そうこう考えている内に、いつの間にか家の前まで来ていた。ボクは手に持っていた絵を折り曲げ、ポケットへ入れた。
「......」
最初の頃は学校が終わり、家の前まで来ると身体が震え、涙が出て、酷い時には嗚咽までしていた。今となってはもう涙は枯れ、軽い震えで済んでいる。
もう家に入るのに抵抗は無い。今日もどうせいつも通り暴言を吐かれ、殴られ、蹴られるだけだから。
そうしてボクは扉の前に来た、はずだった。が、なぜか家の扉が開いていた。
「なんで...扉が?」
ボクが疑問に思っていると、あることに気が付く。
「あれは.....血液?」
そう、床に数滴の血痕が付いていたのだ。そしてその血痕は、玄関扉の右斜め上方向にある二階への階段から、玄関扉の一直線先にあるリビングへの扉へと続いている。
「......」
黙って、耳を澄ましていると、誰かの声がリビング扉の先から聞こえてくる。
「会いたかった...会いたかったよ。ずっと、ずっとずっとね.......でもさ、酷いよ。私以外の誰かと結ばれるなんて...あれだけ私に優しくしてくれて、温もりをくれたのにさ...」
ボクは聞こえてくる女性の声を聞いて、納得した
ボク一人で勝手に納得したが、おそらくこの考えは正解だろう。
父さん絡みだ。父さんは昔、お金のために多くの女性と関係を持ったと言っていた。その時、数多の女性を誑かし、捨てて来た
そしてある日、間違って一人の女性を妊娠させてしまったらしい。それがボクの母さん
結果、流れでそのまま家族になり、ボクが産まれた
まぁでも、こんなことになるなら産んでほしくなかったな。母さんは日頃の仕事のストレスと、出産時の痛みの仕返しと言ってボクに暴力を振るう
し、父さんはたまにいるお金を払ってくれない女性に対する鬱憤を、なぜかボクにぶつけるし
はぁ、なんか余計なことまで考えちゃった
ボクが気分を落とし、俯いていると、ガチャッと扉が開く音が聞こえて来た。音のした方を見てみるとそこには、確実に死ぬ量の血を流している父さんを引き摺っている女性の姿があった
よく見ると、片手には血の付いた包丁を握っている
ボクが固まっていると、女性が口を開く
「アナタ、誰?」
ボクは女性から投げかけられた質問に震えが少し強くなりながらも、返答する
「貴女が今引き摺っている男性の、子供ですよ」
「へー...じゃあ、あの女の子供ってことじゃない。だったら........死んで!!!」
「ッ!?」
次の瞬間、女性は勢いよくボクの方目掛けて走り出した
そして、手に持った包丁でボクの胸を、突き刺した
「ッ!?」
刺されたことにより、物凄い激痛がボクを襲う。そして女性が勢いよく走って来たことによって、ボクは押し倒されてしまった。女性はボクの上に馬乗りになると、そのままのボクの胸辺りを滅多刺しにした。
何度も何度も何度も何度も、包丁でボクを刺した
やがて女性は止まると、包丁を手放し、ボクの左肩にもたれかかってきた
痛い、痛い痛い痛い。殴られるよりも、蹴られるよりも、何倍も痛い
身体から体温が消えていくのを感じる。あぁ、これは死んじゃうな
ボクがそう思ったとき、あることに気が付く
ん?あれ、まだ身体が動く
それに気が付いたボクは、右手を開いたり閉めたりを繰り返ししてみる。そのとき、もう一つあることに気が付いた
ボクの右手のすぐそばに、女性が持っていて、手放した包丁が転がっていた
ボクは気付けばその包丁を握り、そして、その包丁で女性の頭を、刺した
「あっ......」
女性は最期のその一言を発すると、ピクリとも動かなくなった
ボクは女性が動かなくなったのを確認すると、女性の頭から包丁を抜き、立ち上がった
そして包丁を持ったまま、ボクは父さんの死体の前まで進む
父さんは左胸を刺され、死んでいた
父さんの死体を見ていると、あることを思い出す。
床に付いていた血痕のことだ。血痕は二階への階段からリビングへと繋がっていた。二階には母さんと父さんの自室がある
もしかして、と思いボクは傷の痛みに耐えながら二階への階段へ歩みを進めた
二階に着き、母さんの自室の扉を開ける。扉を開けると、ボクはソレを目の当たりにした。
そこには、血に染った床に、見るも無残な姿で死んでいる母さんの姿があった。
「母さん......」
母さんは、明らかに父さんよりも酷い殺され方をしていた。
「ハハッ、ハハハッ...アハハハハッ!」
なぜか母さんの死体を見ていると、笑いが込み上げてくる。
「アハハハハッ!、ハハッ、ハハッ、アハハハハハハハッ!」
止まらない、止められない。でも、ボクはもうそれでいいことにした。
この際、溜め込んでいたものを全て吐き出すことにした。
「ハハハハハッ!ホンット、無様で惨めで滑稽だよねぇ!アイツと関係を持って結ばれて、結果アイツ繋がりでこうやって酷い殺られ方してるんだから!でも仕方ないよねぇ!?だってこの結末が訪れたのは、お前が選んだ選択の結果なんだから!ハハハッ!死んでも死にきれない地獄の底で、一生後悔してな!バァ〜〜カッ!ハハッ、ハハハッ...はぁ......」
ボクは久しぶりに笑ったことと、こんなにも沢山大きな声で喋ったことで、身体に一気に疲労感が襲ってきた
はぁ、はぁ、疲れた。ホンットに久々にこんな沢山喋ったし、笑った。とりあえず、一旦降りよ。
ボクは母さんの自室を後にし、階段を一段ずつ、ゆっくり降りて行く。
その途中、急にボクの頭がグラッと揺れた気がした。いや、気のせいじゃない。それに、それだけじゃない。視界も段々と歪んでいっていた。
いきなりなんだと思ったが、ボクは自分の身体を見て、納得がいった。血を流し過ぎたのだ。
それに気が付いた次の瞬間、ボクの身体から力が抜け、ボクは階段から転げ落ちた。
痛い。これは多分、身体に限界が来たな。まぁ階段登って、沢山笑って喋ってってできたから、十分かな。それに人間はこの状態でもこんなに行動ができるほど丈夫だって分かったし。
もう後悔は
瞬間、頭をよぎるアイツらの声。
『はははっ!お前めっちゃずぶ濡れじゃねえか!』
後悔は...
『ぷっ、ははっ!いやお前がバケツの水ぶっ掛けたから濡れてんだろっ!はははっ!』
後、悔は...
『良いじゃん。もっとやっちゃいなよ、結構映り良いんだから。』
ないわけないっ!父さんが死んで、母さんも死んだ上にバカにできたけど、アイツらがまだ生きてるんだから!それじゃダメなんだ!
ボクは脳がグラグラと揺れる感覚と、視界が歪んでいる中で、包丁片手に何とか立ち上がり、玄関扉へと歩みを進めた。だが、三歩ほどでボクは耐えきれず、倒れてしまった。
「うぅ、イヤ、イヤだ。ボクは、殺す...殺すんだ。アイツらを...刺して、刺して刺して刺して...殺る、絶対殺ってやるんだ......アイツら、殺し、て...や、る...」
やがて声を出す力もなくなり、そのままボクの意識は途絶えた。
はずだったが、なぜかボクの意識はまだ残っている気がした。それと同時に、ボクの身体はなにか不思議な感覚に包まれている感じがした。まるで浮いているような、そんな感覚。
ボクがその感覚を不思議に思っていると、急に身体全体が暖かくなってきた。
いや、違う。段々と熱くなってきた。熱い熱い、あまりにも熱すぎて痛い。まるで炎に包まれているみたいだ。でもそんな中でも、段々とボクの意識は消えかかって来た。
熱い、痛い、まったく神様も酷いな。死ぬにしてもこんな死に方をさせるなんて。
でも、たとえどんな苦しみや苦痛を与えられても、ボクの中からアイツらに対する憎しみ、怒り、恨みは消えない。このまま死んでも、ボクは霊にでもなんでもなって、絶対にアイツらを殺す、殺してやる。
ボクは薄れゆく意識の中、ドス黒い感情を渦巻かせながら、その人生の終わりを迎えた。
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