[Thread Story]13階シリーズ:守衛の昔話(前日譚)

風光

Thread 01|気づいたら、そこにいた

夜勤明けの朝は、決まってぼんやりする。

社員が出社する前の静かな時間が、いちばん落ち着くんだ。

まるで、世界に自分しかいないようでね。


ビルの清掃員の婆さんが言ってたよ。

「ここ、昔は13階まであったらしいね」って。

「でもほら、不吉だからって途中で階数ズラしたらしいよ」

まるで怪談みたいに、と笑いながらな。


……だけどな。

俺は知ってるんだ。13階は、ある。


いや、正しく言えば、あの日から俺は13階に“いた”。


意識が飛んだとか、夢だったとか、そういうんじゃない。

いつも通りの勤務中、ふと気づいたら、エレベーターのドアが開いてたんだよ。

13の表示とともに。


入った記憶も、降りた記憶もない。

ただ、そこに立っていた。


照明のちらつく無人のフロア。

誰もいないのに、人の気配だけはある。

呼ばれた気がした。

いや、呼ばれたんだろうな、俺も。


そこから先の記憶がどうも曖昧だ。


俺が何者だったのか、どこから来たのか、何の仕事をしてたのか。

全部、まるで人ごとのように霞んでいる。

ただ、守衛としての制服を着て、玄関に立ち、

「入るなよ」と、誰かに声をかけている自分がいる。

気を確かに持てよ、ってな。


──これは、誰に向かって言ってるんだろうな。

もしかしたら、ずっと、自分自身に言ってるのかもしれない。

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