0100:出会い
ゼッドは地を蹴って舞い上がる。まるで身体に翼が生えたように空を駆け弧を描き、ウイルスの正確な位置を特定する。彼はウイルスと、攻撃されている人間の少女の間に落下しようとする。
『着地まで三秒。防衛ブロック構築開始。攻撃対象の次の衝撃が護衛対象に届くまでの時間を算出。一秒。防衛ブロック構築完了。ゼロ』
ゼッドの手前から、青く半透明な立方体が無数に集まって壁を生成した。彼が少女の前に着地する瞬間に、ウイルスの本体から伸びる触手の攻撃を吸収する。攻撃が止むと彼は少女の様子を窺いながら問う。
「無事だろうか?」
「え、ええ……」
「君には安全の場所に移ってほしい。……君も戦闘能力があるようだが、人間の身ではウイルスに敵わない。ここは私に任せた方がいいだろう」
「いいえ、私も残ります」
ゼッドは目尻で彼女の姿を捉える。彼女の顔に恐怖といった感情は見られず、極めて穏やかで敵を見据えている。先程、安全な場所にいても不安で泣き出してしまったローセとは、全く違うタイプの人間だ。
「少し熱くなるが気をつけよう。君はなるべく私の後ろにいなさい」
「はいっ」
彼女が下がっていくのを目で捉えると、ゼッドは再び敵に立ち向かう。
『未知ウイルス発見。攻撃実体化権利要請。受理。承認。実体化可能。既存データ検索。炎粒子を実体化……』
システムはゼッドのリクエストに応じて動き出すが、コマンドを完成させる前に中断されてしまう。
「くっ……」
攻撃を構築できる前に先手を取られてしまう。完成するまで次の
『……構築中。予定時間五秒』
ウイルスからの攻撃はどれも直撃コースだ。ただかわすだけでは背後の少女に当たってしまう。彼は彼女を抱えて攻撃をかわす。
『一秒、構築完了』
「む」
ゼッドが前に突き出す片手から矢のような赤い粒子が構成されていき、ウイルスへ飛んでいく。威力が足りないと、瞬間で気付いた。それが予想外のようで、ゼッドの無表情が険しくなった。
経験が足りないと、攻撃すらまともに出せない。
当然ながら飛び火だけではウイルスを消滅するどころか、動きを止めることすら不可能だ。鞭のような触手が伸びてきて、刃のようにゼッドを刻もうとする。
少女へ届くまでの時間計算の結果を待たず、咄嗟に彼は少女を投げ出して、攻撃に反応する前に身体が貫かれてしまう。切り口は広く、人間でいう胃のあたりをやられた。人形といえどすぐに立ち上がることは機能的に許されない。
『システム修復中。器官損傷による一時的機能停止。予定十八秒戦闘不可』
「くっ……」
ウイルスを一瞥する。知性がないのか、彼に興味を持たずに少女に迫っていく。
ゼッドはかろうじて飛び上がり、少女へ伸ばす攻撃を代わりに受け止める。
「な……っ、おやめください!」と少女は彼がまた傷付いたと見て思わず声を上げてしまう。
「問題ない……」
よく見れば彼の胸元に、先程使っていた防御ブロックが再生成された。前回よりも小さく、ちょうど一撃を受けられた範囲にしたのは、構築時間を短縮するためだろう。少しでもズレれば致命傷で再度戦うことが困難になる、ギャンブルだった。
「君は私の後ろから離れないでほしい」
『攻撃再申請スキップ可能。炎粒子再構築中』
彼は余計なことを言わないが、今度こそ成功すると、修復終了と同時に、攻撃を再構築する。
距離と時間を測り、ゼッドのシステムはこの戦いで初めて、攻撃の計算を完成させた。
赤い粒子は再び彼の手のひらから実体化していき、彼の前にいるウイルスへふわりと飛んでいく。
地面に落ちた種のような粒子が集まっていき、真紅の花となってウイルスを包み込む。ウイルスは花の中でしばらく抵抗していたが、やがて静かになる。
「はあ、美しい」と少女は感嘆する。
すう、と花が再び赤い粒子になって散っていく。その中にウイルスの黒い粒子も混ざっている。
粒子は、空気に溶けていった。
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