AICDS No.007139 -虚構の白-

虚数遺伝子

プロローグ

0000:はじまり

 少女は槍を持って佇んでいる。


『え、ナニコレ?』


 赤い光を放つ槍を見下ろし、いつ自分が手にしたのかと疑問を持ってしまう。

 そう思っていると、頭上から轟音が聞こえた。顔をあげてみれば、空へ伸びるビル群を越えたが、何本もの触手を伸ばし、黒い巨体を支えながら周囲を破壊して進んでいる。


『ウイルス……?』と少女は自分すら聞こえないほどの震え声で言う。


 彼女の迷いに応答するように、ある声が頭に響く。


「たたかえ」

『え?』

「戦え、■■■! お前が守りたいもののために!」


 そうだ、と彼女は思い出す。自分に守りたいものがあるんだ、と。

 声の正体を知らないまま、槍を握り締める。


『守りたいもののために……!』


 一本の触手が彼女に向けて攻撃する。慌てて槍で防御しようとするが、見た目に反して機敏な動きが直撃する寸前――。

 視界が暗転した。


 ハッとして目が覚めた。

 少女を白い天井が迎える。


「夢……だったんだ」


 彼女は冷や汗をかきながら身体を起こして、カーテンを開ける。するとビル群の間にある、空中道路を走る小型自動車の姿が見える。

 道路を支えるビル群が反射した日差しは柔らかく、殺伐とした夢を打ち消して、少女を落ち着かせた。


「……そうだよね、そんなわけないよね……、私がウイルスと戦うなんて。そんなことより学校の準備しなきゃ」


 彼女が呟きながらベッドを降りて着替える。制服の袖を通して、リボンを結ぶ。最後に机の上にある写真に挨拶する。


「パパ、ママ、いってきます」


 彼女が寝室からいなくなると静寂が訪れた。


 ジジ、ジジ……。暫くすると、電気の途切れ途切れの音が聞こえる。

 宙に緑色の光の粒子がふわふわと集まり、徐々に半透明な画面を形成していく。画面には一列の文字が書かれている。


 〝Rose Thurston, Admitted User (ローセ・サーストン、承認されたユーザー)〟――と。

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