第9話 友情か、それ以上か
「やっぱり、男女の友情って成り立たないのかな?」
ふと、美咲が呟いた。彼女はグラスを指でなぞりながら、考え込むように視線を落とした。静かな夜のリビング、ソファの上でくつろぐ二人の間に、どこか探るような空気が流れた。
「どういう意味だ?」
健二はソファに深く座り込みながら、美咲の横顔を見つめた。彼女の言葉が意外だった。
「こうやって一緒にいると、周りはすぐに『恋愛』か『家族』みたいに考えるでしょ? でも、私はただ『友達』としていたいだけなのに」
「俺も同じだよ」
健二は答えたが、その声には微かな迷いがあった。自分でも気づいている。美咲との時間が心地よいことも、一緒にいることで寂しさが和らぐことも。でも、それは純粋な友情なのか、それとも違う何かなのか。
「本当に?」
美咲が健二をじっと見つめた。彼の胸が少しざわついた。
「……わからない。俺は、男だからな」
「何よそれ」
「いや、こういうのは……やっぱり割り切るのが難しいんだよ」
健二は言葉を濁した。彼自身、はっきりとした答えが出せなかった。美咲は長年の親友で、気楽な相手だ。しかし、時折ふとした仕草に、何かを感じることがあった。それを恋愛感情と呼んでいいのか、それとも錯覚なのか。
美咲は少し悲しげに微笑んだ。
「まあ、いいわ。それでも、今の生活は悪くないでしょう?」
健二は少し考え込み、目を閉じて息をついた。
「……ああ、悪くないな」
だが、心の奥底では、まだ割り切れない感情がくすぶり続けていた。
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