一緒
旅路旅人
一緒
「あっ、起こした? ごめんね」
誰かが私の頬を撫でている気がする。そう思って目を覚ますと、なぜか〈あなた〉が私の顔を覗き込んでいた。
「ビッ……クリしたぁ」
本当にビックリして、私は大きく見開いた目で〈あなた〉を凝視するしかなかった。
まぬけ面の私を見て、〈あなた〉は心底おかしそうに笑う。
「どうやって入ったの?」
私は痛む体をゆっくり起こして、訊いた。
〈あなた〉は私の体を支えながら、
「僕、死んだんだ」
と、なんでもないように言った。
「……死んだ?」
意味が理解できず、私は〈あなた〉の顔をジッと見つめた。
「そう。――ふふっ、驚いた?」
なにがおかしいのか、〈あなた〉はケラケラ笑っている。しかも、作り笑いというわけでもなさそうだ。
――冗談、だよね? 私は力なく笑ったが、そのとき、気付いてしまった。
〈あなた〉の顔が、こんなにもハッキリと見えるのは、なぜだろう?
部屋は真っ暗だから、おそらくまだ夜中だろう。それなのに……。
「だから、こうして病院にも忍び込めちゃうんだよ」
そう言って〈あなた〉は病室内をグルリと見回し、
「君にフラれたせいで、僕がストーカーになったと思った?」
私を見た。「ま、同じようなもんだけどね」
「なんで……」私は、思わずベッドのシーツを握りしめた。
「なんで死んだりなんか! ――私、言ったよね? もう私のことは忘れて、自由に生きてほしいって」
「君は、相変わらず酷い女だね」
〈あなた〉は鼻で笑った。
「僕には君以上に大切なものなんてないって、知ってるくせにさ」
「あったかもしれない。生きていれば」
「そう思う? 僕は三十年間、ずっと君だけだったんだよ?」
私は言葉に詰まった。痛いほど知っていたからだ。
「ああ、泣かないで」
そう言われて初めて、自分が泣いていることに気付いた。
「自分を責めないで。僕は自分のために死んだんだ。君を一人にしたくないからじゃなくて、君と一緒にいたいから死んだんだ」
〈あなた〉は優しく私を抱きしめた。
「君だって、反対の立場なら同じことをしただろ?」
迷わず、私は頷いた。そう、私も同じだ。
「変な勘でさ、今日だと思って迎えに来たんだ」
「……私も自分で感じてた。たぶん今日で終わりなんだろうなって」
「そっか……ふふ、やっぱり僕らは一緒だね」
――一緒。私たちは幼い頃から、ずっと一緒だった。離れているほうが不自然なほどに。
「一緒だよ、ずっと」
そう言ったのは〈あなた〉か私か、もうわからなかった。
一緒 旅路旅人 @tabito0714
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