昼休みの会合 後編
引き続き真鍋と秘密の会合中。
俺はあんパンの残りを一気に口の中に放り込み、2つ目のパンの封を開けた。2つ目はクリームパンだ。
「…私もお腹空いちゃった。お弁当食べよっと」
俺がパンを食べる姿を見て真鍋も腹が空いたのか、彼女は自分の膝の上に乗せていた巾着袋の封を開いた。そこから可愛らしい黄色のお弁当箱が現れる。
彼女は蓋上部についている箸を取り外してから弁当箱の蓋を開けた。
「うおっ、すげぇ…」
俺は彼女の弁当箱の中身を横から覗いて驚いた。まるで料理の本に載っているような、そのレベルのクオリティの高い弁当だったからである。
ふりかけのかかったおにぎり、唐揚げ、卵焼き、マカロニサラダ。そしてプチトマト。女の子らしくいろどりも鮮やかだ。
俺のそんな評価に対し、真鍋は謙遜して恥ずかしがった。
「ぜ、全然凄くないよ。これくらい誰だって作れるよ。おにぎりはお米を握ってふりかけをかけただけだし、卵焼きはお塩を混ぜて焼いただけだし、マカロニサラダは昨日の晩御飯の残り物だし、唐揚げは調味液に浸して揚げるだけだし…」
「…ん? その言い方だともしかして真鍋が自分で作ってるのか? 真鍋の母ちゃんじゃなくて?」
「え? あ、うん。私、お料理やお菓子作るの好きだから自分で作ってるんだ。だからマカロニサラダ以外は私のお手製」
「…むっちゃ凄いじゃん。いや、誰だって作れないよ。多分、真鍋と同じような弁当作れって言われても俺には無理だ。おにぎりだってそんな綺麗な三角に握れねぇし、卵焼きも多分焦がす」
「そ、そうかな…?」
「しかも弁当作るのには早起きとかしないといけないんだろ? 少なくとも俺にはできない。真鍋はもっと誇っていいと思うぜ?」
「う、うう…。こんなに褒められたの初めてかも」
その時、俺の腹の虫が大きな声で鳴いた。
おかしい。パンを2つ平らげたはずなのに。もしかすると真鍋の美味しそうなお弁当を見て反応したのかもしれない。
彼女にも俺の腹の虫の鳴く音が聞こえていたのか、とある提案をしてくる。
「…白石君、私のお弁当少しいる?」
「え? いや、いいよ。ってか午後も授業あるんだし、しっかり飯は食っておかないと」
「大丈夫。私、結構少食だから。えっと…男の子だし、お肉が良いかな? はい、手を出して。唐揚げあげる」
「本当にいいのか?」
「うん」
真鍋はそう言って俺の手に唐揚げを乗せてくれた。キツネ色に揚がった実に美味しそうな唐揚げだった。
「すまん。じゃあ頂きます!」
「召し上がれ。…お口に合えばいいけれど」
俺は唐揚げを口の中に放り込んだ。
唐揚げを噛んだ瞬間、衣がカリっと小気味のいい音を立てて崩れ、中の肉は冷めているにもかかわらず、柔らかくジューシーですぐに噛み切れた。
美味しい。遜色なしにそう思った。
冷めた唐揚げをここまで美味しく感じさせるのは見事なものだ。彼女の料理スキルの高さがうかがえる。
「美味い! 店で売っている唐揚げより美味いかも。真鍋って料理上手なんだな」
「う、うう…褒め過ぎだよぉ…」
真鍋は俺の賞賛に両手で顔を隠しながらうつむいてしまった。髪で顔が隠れているのでその表情はうかがい知れない。でも多分照れているのだと思う。
しばらくして精神が回復したのか、彼女は顔を上げて今度は俺の持っていたコンビニ袋に注視する。
「…白石君はいつもコンビニ飯?」
「んー…まぁそうかな? ウチは母ちゃんが忙がしくて弁当とか作ってくれないから。朝起きたらリビングのテーブルの上に500円乗ってる」
真鍋は俺の返答を聞いて少し考えこむようなしぐさをした。そして何かを思いついたように手をポンと叩いて再びこちらを向く。
「て、提案なんだけど…。わ、私が白石君の分のお弁当も作ってこようか? コンビニ飯だと栄養も偏るだろうし、量も少ないよね?」
「え? いやいや、流石にそれは悪いよ」
「あ、あのね。これは恋人の練習の一環として提案してるんだ」
「…どういうことだ?」
「そ、その…『男の人を落とすにはまず胃袋を掴め!』って言葉があるでしょ? 私の料理が実際に男の子の口に合うか確かめて欲しいの。唐揚げはOK貰ったみたいだけど、他の料理はそうじゃないし」
「う、うーん。でもな…」
確かにそのような言葉は聞いた覚えがある。だがいくら練習とは言え、真鍋の負担が大きすぎるのではないかと思った。
「わ、私のためだと思ってお願いできないかな? ね、ね?」
「えぇ…」
真鍋は顔の前で両手を合わせて俺に弁当の件を頼み込んだ。
結局、俺は彼女の熱意に負けて折れてしまった。しかし流石に毎日は彼女の負担が大きすぎるので、週に2回という事で話はまとまった。
「じゃあ腕によりをかけてお弁当作って来るからね」
「真鍋かなり本気なんだな。でもさ、そこまでして恋人を作る練習をしたいって事は…もしかしてすでに好きな人いたり?」
昨日、彼女からこの話を提案された時は漠然と恋人が欲しい程度のものだと勝手に解釈していた。
しかし今日、俺はその考えを改めた。
別に好きでもない男にわざわざ手料理を食べて貰い、その感想を参考に自らのスキルアップを図る。
漠然と彼氏が欲しい程度ではここまで本格的な事はやらないだろう。彼女の本気度がうかがえる。
その事から彼女にはすでに意中の人がおり、その人を絶対に落としたいと考えているのだと俺は予想した。
「ふぇ!? ふぇええええ!?」
彼女は俺の質問に対し、あまりにも分かりやすすぎる反応をした。
「え、えっと…そのぉ…それはぁ…」
「誰? もしかして同じクラスの奴?」
「あ、あわわわわ。そ、そそそ、それは…」
「それは?」
「も、黙秘権を行使します!!!」
真鍋は両手をクロスさせて大きな「×」を作り、返答を拒否する。
やはり好きな人の名前をいきなり白状するのは恥ずかしいらしい。付き合いの長い親友レベルの奴ならともかく、俺たちは昨日絡み始めたばかりなのだ。
「分かった。誰かは聞かないでおくよ」
あまりしつこく尋ねるのもウザがられるかと思い、俺はそれ以上尋ねる事はしなかった。
「そ、そうしてくれると助かります。まだ…私の心の準備ができていないので」
彼女は心臓の辺りを押さえて荒い息をしている。まさに「恋する乙女」という感じだ。
俺も彼女みたく、必死に自分を高めたくなるぐらい好きになる異性が現れるのだろうか。
空をゆっくり流れる雲を見ながらそんな事を思った。
◇◇◇
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