01-3 気になるむかつくやつ(3) 大地を震わす拳

取り囲む魔物の群れが勢いづき、兵士たちへ殺到する。

誰もが恐怖に目を閉じた瞬間――


「どけッ!」


レオンハルトの怒声が戦場を震わせた。

彼は地を蹴り、一気に前へ飛び出す。


その拳が振り下ろされた瞬間、大地が揺れ、轟音が響いた。

放射状に広がった衝撃波が、数百の魔物をまとめて吹き飛ばす。


「ば、馬鹿な……拳ひとつで……!」


セドリックが蒼白になる。

ユリウスも思わず息を呑んだ。


「非常識すぎる……」


レオンハルトは拳を振るい続ける。

一撃ごとに数十体、数百体が消し飛び、戦場が瞬く間に更地と化していく。


だが、その時だった。


土煙の向こうから、ひときわ巨大な影が現れた。

十メートルを超える巨体、灰色の皮膚に鋭い牙を持つ――巨人魔族である。


「う、嘘だろ……あんな化け物まで……」

「もう駄目だ……!」


兵士たちの顔から血の気が引く。

ユリウスも恐怖に震え、思わず両手を胸の前で組んだ。


(レオンハルト……! 頼む……!)


巨人魔族が吠え、振り下ろした一撃がレオンハルトを直撃する。

土煙が立ちこめ、地面が裂けた。


「せ、聖者様が……やられた!?」


兵士たちの絶叫が響く。

ユリウスは怖くて、目をぎゅっとつぶった。


「やめろ……そんな……!」


だが――


土煙の中から、堂々とした影が歩み出る。

無傷のままのレオンハルトだった。


「……お返しだ」


彼はゆっくりと拳を構え跳躍する。

全身の力を込めて、巨人魔族の顔面へと叩き込んだ。


ドゴォォォォン!!


轟音と共に、巨人魔族の頭部が砕け散る。

巨体は後方へと吹き飛んで、大地に崩れ落ちた。


一瞬の静寂。

次いで――


「す、すげぇ……!」

「巨人を一撃で……!」

「やっぱり聖者様だ!!」


歓声が戦場を揺らした。

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