第174話 オタク、避難場所を知る



「も、もうダメです……!」


 三回目が終わって、シルヴァさんはベッドに倒れ伏した。

 その肢体を投げ出して、荒い息を吐きながら恍惚とした笑顔を浮かべるシルヴァさん。


 その瞳からは、感極まった涙が流れていた。


「夢のようです……とうとう、オタク先生と繋がれました……!」


「シルヴァちゃん、初めてなのにすっごい激しかったねー……痛くなかったん?」


 エイジャさんの様子見の問いも、耳には入っていないようだ。

 それだけ、全力を使い果たしていたということなんだと思う。


 あまりの激しさに、ぼくもまた気を失う前に、自分で回復魔法をかけた。

 初めてだとは思えないよ、シルヴァさん。相当心に溜め込んでたんだろうな。


「シルヴァーナ様……きれい……!」


「お姉様が、あんなに嬉しそうに……素敵ですわ、師匠……!」


 ララミアさんとリルカさんの貴族令嬢組が、うっとりとこちらを見ている。

 シルヴァさん、今までずっと塞ぎ込んで解消できなかったんだね。

 ものすごく生き生きとしてたしね。


「……ここに来るたびに、いっぱい可愛がってくださいましね、オタク先生……でないと、わたくし、泣いてしまいますわよ……?」


 ぺろり、と舌なめずりをしながら、這いつくばったまま懇願してくるシルヴァさん。

 それはお願いなのかな? 捕食されてるような印象を受けてしまいますが。


「お、オタク……お前、何人貴族令嬢と関係を持ってんだ……?」


 カビラさんがおののくようにぼくを見ていた。

 気持ちはわかりますよ、カビラさん。

 ぼくも、なんで今、自分の首が繋がってるのか、不思議で仕方ないですもん。


 普通はこんなことしてたら、どこかでバレて打ち首だよ。


 シルヴァさんが満足したので、回復するのを待って話を聞いた。


「それで、ララミア様がこちらにいらしているということは、セインザム候にも『紅月』が認められた、ということなんでしょうか?」


「そうです、シルヴァーナ様。みなさまの協力で、こちらのカビラが未踏地の『幻獣』を生け捕りにしまして……」


 裸のままだけど、落ち着いてベッドに腰掛けたシルヴァさんに、同じく裸のララミアさんが説明する。


 事情を聞いたシルヴァさんは、ふと考え込んだ。


「ジュエルピーコック……そうですか。そんな幻獣が、未踏地に。……ですが、わたくしだと活用できませんわね。貴族への贈り物としては、価値が希少すぎます。手元に留めるのも良いですが、資産が増えることにあまり意味はありませんし……」


 まぁ、そうなるよね。

 幻獣は、希少価値が高すぎる。輸出品や贈答品にするには単価と意義が高すぎるし、もし数を贈りすぎれば、最初の購入者のものまで一緒に価格急落まっしぐら、だ。


 シルヴァさんの立場としては、扱いづらい代物だろう。


「それでララミア様が利益を得て、『紅月』のみなさまの評価が得られたなら、一番良い結果だったのではないでしょうか? 少なくとも、後援者のわたくしには損はありません」


「そう言っていただけると安心ですわ、シルヴァーナ様」


 話を聞いたララミアさんが、ホッとしたように息を吐いた。

 言っちゃえば他の貴族家のヒモ付きの、冒険者から莫大な利益を得たのだ。


 その利益は本来の後援者に収める筋合いがある、と主張されればこじれたろう。

 なので、シルヴァさんとしてもちゃんと筋を通して「問題ない」と返答したのだ。


「それよりも、ララミアさんがご一緒してくださることが嬉しいですわ」


「あ……シルヴァーナ様ぁ……!」


 シルヴァさんの手が、裸のララミアさんに触れる。

 カビラさんとの一件で同性愛を知っているララミアさんは、うっとりと表情をとろけさせた。


「その。シルヴァーナ様は、独立して家を興すつもりなんですかい? リルカたちが、たぶんそうだって言ってたんですけど……」


「あら? カビラさんにまで、もうバレてましたの? ……まぁ、お父様から余った爵位を譲り受けられたら、それが早いのですけど。最終的にはそこを目指して活動していくと思いますわ」


 ね? とぼくたちに微笑みかけるシルヴァさん。

 現実的には、シルヴァさん主導で家を興せるなら、それが解決には一番早いよね。


 貴族に囲われても、同性愛に関する弾圧が主家の貴族に及んだら、ぼくたちは切り捨てられかねない、というのが問題なわけで。

 後援者かつ親しい仲間のシルヴァさんが、権力を持って保護してくれるなら、その問題は回避できる。


 切り捨てられなければ、一緒に活動を支えることもできるわけだからね。


「どのみち切り捨てられるなら、最初から仕えない方が早いんだけど。シルヴァちゃんがボクらと一緒にいてくれるなら、こうやって各地を回って縁を繋ぐこともできるしね」


「師匠の魅力があれば、どうにでもできると思います! できれば、わたくしにも師匠をどうにでもさせていただきたいのですが……!」


 クルスさんの意見に、危なく乗っかるリルカさん。

 欲望ダダ漏れですよ。


「もう充分、どうにでもしてるじゃないですか、リルカさん。身体が持たないですよ……」


「大変だな、オタク。疲れたらいつでも『お姉ちゃん』のところに来いよ? わたしがいつでも、慰めてやるからな?」


 カビラさんが気遣ってくれるけど、それに反応したのがメイドのサフィルさんだ。


「いやいやいや。オタクくんは、あたしに子どもをくれることになってるから。たまに遊びに行くくらいは良いけど、ちゃんとあたしにも子どもちょうだいよ? 家族欲しいんだから」


「なんだ。子どもが好きなのか? じゃあ、うちの村に遊びに来ないか? オタクの仲間なら、子どもたちも歓迎すると思うぞ?」


 ああ、孤児のサフィルさんに対して、カビラさんは村単位の大家族だからね。

 迎えようとすれば、家族なんてたくさんいるぞ、となるだろう。


「へー。獣人の子ども? 可愛い感じがするわね。……あ、あたしサフィル。今はここの侍女で、引退前はオタクくんたちのパーティ仲間よ。よろしくね、カビラさん」


「そうだったのか! それは、オタクたちと親しいのも納得だな。カビラ・ネムロだ。よろしく頼むよ、サフィル。いつでもネムロ村に招待するよ」


 サフィルさんとカビラさんも打ち解けたようだ。

 サフィルさんは、カビラさんの揺れる尻尾に目が釘付けになっている。


 もふもふだからね。


「カビラはわたくし付きの騎士になったので、領地として故郷のネムロ村を与えられておりますわ。いざというときの、緊急避難場所としても頼ってくださいませ」


「そうだな! お嬢の言うとおり、わたしが匿うぞ! 困ったらいつでも来いな!」


 領地を得た新任騎士のカビラさんは、どん、と胸を叩いた。たゆん、と揺れた。

 領地持ち、ということになったので、自信がついてちょっと気が大きくなってるみたいだ。


 領地持ちとの伝手ができた、という点でも、シルヴァさんは少し安心したようだ。

 ぼくらと共闘してる人が騎士爵叙任されている、という状況から、セインザム候からのぼくらへの好評にも、気がついたんだろう。


「まったく。オタク先生には、かないませんわね」



 そう微笑むシルヴァさんは、とても嬉しそうだった。


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