第89話 オタク、ピザを焼く
なぜかステラさんがぼくらに賛同してくれることになって、少し一緒に過ごすことになった。
精霊の里に帰る前に、もう少し色々と人里を見るために逗留したいらしい。
「じゃあ、料理しよーぜぃ! 美味しいもんは食べたいよね!」
「さんせー! オタクくん、任せた!」
任されてしまった。
ということで、ステラさんに人間文化を教えるために、厨房に向かうことになった。
「良いよ! また美味しいものを教えてくれるんだろう!?」
新しいメニューが知れると聞いて、女将さんはうきうきだ。
こころよく厨房を貸してくれた。
現時点で料理の売れ行きは順調らしい。
小麦粉とマヨネーズがあるので、まずは主食を作ることにした。
朝からは少し重いけど、このパーティなら食べられるだろう。
「じゃあ、『ピザ』を作りますね」
作るのはバジルチキンピザかな。マヨネーズも足そう。
まずは生地作りからだ。
小麦粉の山に、酵母の汁と水飴少々、塩と植物油を少しずつ入れて味をつける。
火魔法で軽く温めたぬるま湯でこねて、生地がまとまったら発酵開始。
三十分ほどかけて練り上がった生地をまとめて、濡れた布で包んでしばし置いて膨らませる。
これで後は一度、発酵待ちだ。
発酵にも三十分以上かかるから、その間に具材の準備をしよう。
「女将さん、そこのチーズももらえます?」
「良いよ。まとめ買いしてあるから、好きなだけ使いな」
了承が出たので、チーズをがっしがしに削って、皿に用意しておく。
コッコードの肉をそぎ切りにして、別のお皿に放り込む。
そこに、大量のバジルのみじん切り、植物油、行者ニンニクのすりおろし、ナッツ、塩、を放り込んで揉み込む。
具材はコッコード肉のバジルソース和えだ。
パスタで言うと『ジェノベーゼ』みたいな味付けかな。
肉だけだとバランスが悪いので、芋も拝借して小さくスライス、温野菜も用意する。
「じゃあ、生地作りを仕上げますね」
生地は良い感じに発酵していた。
ので、潰してガス抜きする。それを切り分けて、麺打ち棒で平たく伸ばす。
生地が丸く戻っていくので手でも丸く伸ばして、熱しておいた鍋肌にぴっちり貼り付ける。
石窯ピザじゃないので、ナンの焼き方だ。
伸ばして鍋肌に貼り付けたピザ生地の上に、肉が重ならないように生コッコードのバジル和えや他の具材を並べて、ソースとマヨネーズを塗る。
後は、上からチーズをたっぷりかけて鍋にフタをして、じっくり焼けば完成だ。
「……そろそろ、焼き上がったかな」
蓋を開けてみると、良い感じだった。
湿気も飛んで、生地の縁がこんがりとちょうどよく焼けている。
金串を使って、中の肉に火が通っているかを確認したら、鍋から台の上にピザを取り出した。
アツアツのうちに、包丁で放射状に切り分ける。
「完成です。『バジルコッコードピザ』です。試してみてください」
「へぇ。パンみたいだけど、鍋で焼くんだね。変わってるね、どれどれ?」
女将さんが手を伸ばすのを皮切りに、みんなが一切れずつ手に取っていく。
溶けたチーズが糸を引いて、みょん、と伸びては切れた。
良い焼け具合だ。
「へぇっ! サクッともちっとして、チーズと肉が濃厚な味じゃないかい!」
「あつっ、あつっ! でもおいひぃ!」
女将は目を見開いていた。うまくできたらしい。
甘党のクルスさんも、この料理は夢中で食べていた。
そうだよね、サンドイッチと違って熱くて柔らかいのに、溶けたチーズのコクも肉や野菜の味も、全部が生地の上に乗っている。
あらゆる味を一口でたべられる料理、だ。
前世では各国で人気だったのもうなずける。
「まぁ……昼下がりの軽食は、これが良いです!」
「美味い! 色々な味が絡まり合って、とろけるチーズにくるまれて舌が幸せだ!」
リルカさんとステラさんにも好評のようだ。
エイジャさんやリーシャさん、エカナさんは、しゃべるのも忘れてがっついている。
「人間の世界は侮れないなぁ、こんなに豊かな味があるとは!」
「ステラさん。これは、師匠じゃないと知らない味ですわ。こんなに贅沢な味の庶民料理、今までにありませんでしたもの!」
どうだろうなぁ。
石窯があれば、ピザや惣菜パンは作れそうだけど。
石窯のあるはずの貴族育ち、リルカさんが言うんなら今までなかった料理なんだろう。
「お酒……お酒が欲しい!」
「朝っていうか、昼前なんで我慢しましょうね、エイジャさん」
エイジャさんとリーシャさんは、ピザをつまみにお酒を飲みたいらしい。
確かにお酒に合う味だとは思うけど。
真っ昼間から飲まないでくださいよ。
二人が飲んだら、またぼくがベッドに連れてかれちゃうでしょ。
みんなの食べる手が止まらないので、ぼくも一切れ確保する。
うん、美味しい。
トマトがないのでバジル味だけど、ちゃんとピザになっている。
トマトはどこかにありそうだけど、醤油がないので照り焼きができない。
マヨネーズがあるから、照り焼きチキンも試したいんだけどなぁ。
茹でたコーンがあったので、その粒を外してコーンマヨピザも作る。
生地は最初に分割したから、あと三枚くらいは焼けるな。
「今度はあたしにやらしておくれよ!」
生地をのばそうとしたところで、女将さんが挑戦することになった。
パンやパスタは作れるので、女将さんはショートパスタやラザニアの応用で生地をのばす。
甘みが足りないので塩と少量の水飴に和えて、たくさんのコーンをまぶした生地にマヨを乗せて広げて、丸鍋で焼く。
こんがり焼き上がって試食したら、それも美味しかった。
肉類は入ってないけど、コーンマヨピザは最高だね!
「良い出来です、女将さん! 美味しいですよ!」
「そうかいそうかい! こいつは生地をたくさん仕込んで置けそうだから、いつでも言いな! 焼きたてを食堂で出してやるよ!」
そう請け負ってくれる女将さんの言葉に、全員が沸き立った。
塩で炒めたジャーマンポテトピザとかも頼もう。コショウがないのは残念だけど。
女将さんは上機嫌で、煮込み肉をほぐしてマヨと野菜を乗せたピザに挑戦していた。
それ、絶対美味い奴!
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