第75話 オタク、高級品を狩る
飛行魔法でエイオン山岳へと向かう。
目的地は山岳ではなく、その向こうの未開地帯だ。
人類未到の地であるその場所は、上空からだとやはり密林になっていた。
湖も見えるけど、基本的には『魔獣の森』みたいに魔獣の生息地帯になってるだろう。
奥地にありすぎるので一瞬ためらったけど、湖を目指すことにした。
理由の一つは着地に適した開けた場所であること。もう一つは水場があるからだ。
湖の水が浄化魔法で飲めるなら、給水地点になるので拠点にしやすい。
もちろん、水棲魔獣や、水場に集まる魔獣も多いので、そこは善し悪しだけど。
「着地します」
「うん」
クルスさんが全員に目配せし、警戒を促す。
着地しても、周囲に魔獣の姿はなかった。
「ここが未踏地か。こんなに広大な景色があるなんて……」
「周りは見渡す限り、自然しかないですね。人の生活的な雰囲気がどこにもない」
周囲を見回して、森林と山岳に囲まれた中を歩く。
植生自体は、街近郊の『魔獣の森』とそう変わらなかったので、ぼくらの知識が通じそうだった。
「とりあえず、この湖の近くを散策してみよう。魔獣がいたら交戦してみるけど、基本的には撤退が優先。攻撃が通用しないかもしれないからね」
クルスさんが出した指示に、エイジャさんやリーシャさん、リルカさんもうなずく。
ぼくも同意見だったので、慎重に行きたいところだ。
すると、目の前に奇妙な死骸が見えた。
肉をかじられた魔獣の死骸だけど、表面が石化している。
石の甲殻を持つ魔獣? いや違う、これは……
「全員、警戒してください! 近くに石化攻撃してくる魔獣がいます! ――『アイズディストーション』!」
魔眼や邪眼攻撃をねじ曲げる回避魔法を全員にかける。
次の瞬間、密林の木立から現われたのは、巨大な鳥型魔獣だった。
両脚が発達していて、体型的にニワトリのように歩行するタイプの鳥類だ。
尻尾がヘビの姿をしている。
「『コカトリス』! 石化の魔眼を使う凶悪魔獣です! 魔眼は無効化してるので、今のうちに仕留めてください!」
「あいよっ! オタクくん、強化よろぴくぅ!」
エイジャさんがデスサイズを振りかぶって、姿を現したコカトリスを一刀両断した。
コカトリスは筋力も強いけど、強化したエイジャさんの方が上だった。
あっさりと息絶える。
「ふぃー、あっぶなー。いきなりコカトリスなんて、特級クラスの危険魔獣だよ? オタクくんがいてくれて、本当に良かったわー!」
首を落として息絶えたコカトリスの素材を、アイテムボックスに収納する。
一撃で倒せて良かった。
「コカトリスって、人の生息圏じゃ見ないよねー? 食べれるんかな?」
「王都でオークションにかけられた際は、食用として肉も競り落とされたそうですわ。大変美味な鳥の肉だったとか」
リルカさんが貴族間の希少魔獣情報を教えてくれた。
美味しいのか。高級鳥肉なんだな、地鶏みたいな感じだろうか。
「エイジャが一撃で仕留めてくれたから、傷が少なくて剥製にできそうだね。……リルカちゃん。コカトリスの剥製は高値がつくの?」
「完璧に現存してるものは二十体分もないはずですわ。希少なお宝です! 魔眼も潰れてないので、さらに希少だと思いますわ!」
コカトリス討伐は、まず目を潰して魔眼攻撃を封じるらしい。
なので、目玉の潰されていないコカトリスの標本は本当に数が少ないんだとか。
この、無傷の目玉だけでも剥製よりずっと高値がつくそうだ。
目玉の欠けた剥製に補填したがる貴族が、多いんだろうね。
「とりあえず収入ができた。ここからは、なおさら無理せずに慎重に行こう!」
今の収穫だけでも一財産だ。
最低限の稼ぎが得られたので、あとは、無事に帰るのが最優先の方針になる。
バイコーンと遭遇した。
二本のツノを持つ二角馬の魔獣だ。強化系の魔獣っぽく、威嚇で後ろ足蹴りをしてきて樹木が一本吹き飛んだ。
「そいやぁっ!」
リーシャさんの投げた鉄球が太い馬の首に命中して、直角に曲がるまでへし折った。
「勝った! 馬肉、馬肉!」
さすがに即死したバイコーンをアイテムボックスに収納しながら、リーシャさんが喜ぶ。
この世界にも馬肉を食べる文化はあって、馬型魔獣の肉は美味しいらしい。
「アースヒュドラだ! 四つの首を一度に刈らないとダメです!」
「まっかせろーい!」
エイジャさんのデスサイズが四本いっぺんに刈り取った。
即死した。
アースヒュドラはワイバーンと同じ、中型のレッサードラゴン種で、ドラゴン種のお肉はとても美味しい。
エイジャさんとリーシャさんが「いぇーい」とハイタッチしていた。
「エビルカーバンクルです! 幻惑魔法に気をつけて!」
「わかった!」
クルスさんが広範囲型の複数斬撃スキルで幻像ごと刺し殺した。
エビルカーバンクルは肉は少ないんだけど、その毛皮と額の宝石が超高額らしい。
「……ここ、実はめっちゃ良い狩り場なんじゃん?」
「思った。割と何とかなってるよね。オタクくんのおかげで、今までと変わらない感じ」
エイジャさんとリーシャさんが真理に到達していた。
強化された三人なら、ここの魔獣でも一撃で倒せる。
なのに、獲れる魔獣はどれも高額。
「…………帰ろうか。慣れると、危機意識が薄れる気がする」
「そうですわね。今までの四体で、平民なら人生二回は遊んで暮らせる稼ぎかと」
クルスさんとリルカさんも、半分呆然としていた。
あまりに気が緩んだので、一度出直そうかと言い出すほどだ。
あれだけ慎重に準備してきたのに。
「いや、でも確かに。ここから何か、比べものにならない、とんでもない魔獣に出会うかもしれませんしね。一度、帰って素材を換金しましょうか」
クルスさんの言うとおり、気が緩んだ瞬間が一番危ない。
飛行魔法を使って、一度街まで帰ろうということになった。
「冒険者ギルドに解体を頼んだら、肉以外の素材はすべて辺境伯家が買い取るとお伝えください。王都に贈るなり、オークションを開くなり、貴族間で高値で売買いたします」
「それが良いだろうね。ギルドも、買い取れるだけの資金は持ってないと思うし」
リルカさんの提案に、クルスさんも納得していた。
「飛行魔法を使わないと、ここには来れないし。飛行魔法を使えんのはオタクくんだけだから、しばらくはあーしらが狩り場を独占できんじゃん?」
「だよねー。でも、救援も来ないから、やっぱちょこっとずつ狩ってくのが良いと思う」
エイジャさんとリーシャさんも慎重論に戻っていた。
獲物の奪い合いは発生しないから、無理のない範囲で少しずつ狩っていっても充分な収穫になる。
全員の意見が一致して、今回はそのまま飛行魔法で街に帰還した。
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