第33話 オタク、誘われる



 無事に、地下都市の資料庫は探し当てられたらしい。

 次はいつ来れるかわからないので、なるべくアイテムボックスに収納して帰るとのこと。

 記録方法は、何と石版だった。

 それもコンクリートみたいな人工石で、学者の人たちはその滑らかさに不思議がっていた。


「貴重な文献がこんなに! きみたちのおかげだよ、ありがとう!」


「錬金系の設備や道具も残ってたわ! 前回に続いて、今回もありがとうね!」


 学者さんたちからはすごく喜ばれた。

 その後も都市内を散策したけど、本当に人の気配はなかった。


 どころか、人の生活痕や遺骨さえもなかったので、どうやらこの遺跡は『破棄された』都市だったのかも知れない、ということだ。


 ここの住人は、古代にまた別の地域に移住してたんだろう、とのこと。

 記録媒体が石版だったのもそのためで、いつか帰ってきたときに記録のバックアップを残すため、らしい。


 現状の仮説では、それが一番可能性が高いそうだ。


「すごいですね、こんな大規模な施設を捨てて、また移住しちゃうなんて」


「んー、そんなものじゃないの? 私たちも遷都とかないわけじゃないし。資源枯渇か何か、事情があってここを破棄したんじゃないの?」


 ノアールさんが教えてくれる。

 資源枯渇か。確かに、食料品らしいものを生産する場所がなかったな。

 資源問題という面は、本当にあったのかもしれない。


 そのまま上の階層を突破し、地上に出る。

 学者さんのマッピングのおかげで、帰りは迷わないのが良いね。


 休憩後、特に問題もなく、街まで帰ってきた。

 遅い時間だけれどもギルドが閉まる前に滑り込めた。


 学者さんたちから依頼書にクエスト完了のサインをもらって、依頼は達成。

 報酬金をもらうことができた。


「きみたちは優秀だね。世紀の発見に導いてくれてありがとう、また頼めないかな?」


 今回の件で、学者さんたちの覚えがめでたくなったようだ。

 クルスさんが次回の打診を受けている。


 冒険者としては、仕事があるのはありがたいことだ。

 もちろんクルスさんも請け負っていた。


「ええ、もちろん。ご用があればまた呼んでください」


「そう言ってくれると嬉しいよ。私の名はアルフォンス・ギルバートだ。学者だが、一応貴族でね。王立研究所に所属している。今回の件は覚えておくよ」


 二人はぐっと握手し合っていた。

 その名前を聞いて、一緒にいたノアールさんが目を丸めていた。


「どうしたんです、ノアールさん?」


「ちょ、ちょっとこっち来て」


 ノアールさんに連れ去られる。

 何だろう、と思っていると、神妙な顔で耳打ちされた。


「アルフォンス・ギルバートって、ギルバート公爵家の関係者よ。実際に見たのは初めてだけど、たぶん、公爵家の次男だわ」


 はい?

 そんな大物が、こんな田舎の街に?


 って、田舎の遺跡の調査だから、王都の人が来ることもあるのか。

 ノアールさんは随行の現地有識者として共同調査に誘われたらしいけど、アルフォンスさんの名前は知らなかったらしい。


 まさか、調査責任者でもない学者の中に、そんな大物がいるとは思わなかったようだ。


 学者にしては、移動速度がやけに健脚だと思ったんだよ。

 貴族なら子どもの頃から鍛えてるはずだから、貴族関係者の一行だったのか。


「ギルバート公爵家は先々代の王弟の血筋よ。あなたたち、そんな人に名前を覚えられたら、これから王都に呼ばれるかも知れないわよ?」


「そ、そんな大事だったんですか」


 驚いていると、レイノルド爺さんが受付から出てきた。

 爺さんも、いつにも増して真面目な顔をしている。


「おい、オタク。今の名前はよそに口外するんじゃねぇぞ。……貴人のいる調査団だから、王都からってことも身分も何もかも隠した、『ただの調査団』ってことで依頼を受けたんだ。ギルドの信用に関わる」


 先に言えよ、爺さん!

 もし万が一のことがあったらどうするつもりだったんだよ!?


「爺さん。死ぬ危険がありましたよ?」


「だからお前らをつけたんだろうが。予算の問題で『王立研究所』の名前が使えないってんで、説明できなかったんだよ。最大限の戦力はつけた」


 爺さんも口止めされてたらしい。

 予算の都合ってことは、今回は私費での調査か。

 たぶん、研究所の公的な調査じゃなかったんだろうな。


 それはそうか、遺跡探査なんて考古学の分野、『研究所』が技術開発でもないのに予算を出すはずがない。


 あやうく、知らないうちにとんでもないクエストを受けてしまっていた。


「ま、予想通りに全部無事に済んだから、終わった話だ。……この話は、『紅月』にも『翡翠の刃』にも話すんじゃねぇぞ?」


「……はい」


 ここだけの秘密、ってか。

 知らぬが華、ってことなんだろうな。

 ぼくも知りたくなかったよ。


「――後衛のきみも、若いのに素晴らしい魔法だったよ! 歴史や文化への理解もあるようだし、またこの地方に来たときには護衛を頼むよ!」


 うげ、アルフォンスさんがこっちにも来た。

 遺跡の中で散々話して教えてもらったからな。


 むげな態度を取るわけにも行かず、笑顔を浮かべて握手をする。

 アルフォンスさんはどうも教えたがりみたいで、歴史や古代文化の話題に興味を示したぼくも気に入っていたらしい。


「きみは、王立研究所の魔法部門に協力する気はないかい? きみの魔法はどうも、世間一般で知られている『魔法』とは別次元の練度のように思える」


 それは、生まれたときから鍛え続けてましたからね。

 確かに魔法には自信があるけど……


「お誘いはありがたいですけど、今のパーティが気に入ってますので。もう少しは冒険者を続けると思います」


「そうか。確かに、きみたちは仲も良さそうだしね。そのうち、パーティごと王都に来てみると良い。面白いものが色々あるよ」


 アルフォンスさんはわかってくれたらしい。

 優しく微笑んで、無理に誘うことはしてこなかった。


「じゃあ、我々はこれで。……今回はありがとう、非常に有意義な調査だったよ」


 そう言って、学者さんたちは帰って行った。

 王都から来ている人たちも多いと思うけど、そこは『転移魔法』でも使うんだろうな。

 秘密の話によれば、王立研究所のエリート研究者さんたちっぽいし。


「なになにぃー、オタクくぅーん。そんなに、あーしらと一緒にいたいのぉー?」


「こーれは手放せませんなぁ! 今夜はお疲れ様会しよーね!」


 アルフォンスさんとのやり取りを聞いていた、エイジャさんとリーシャさんが、ニヤニヤとぼくに肩を組んでくる。

 二人とも照れているようで、顔が赤い。


 ふと見ると、クルスさんも安心したように微笑んでいた。


「良かった。一緒にいてくれる、って言ってくれて嬉しいよ、オタクくん」


「あはは。これからもよろしくお願いしますね」



 ぼくらは笑い合って、肩を叩き合った。

 『翡翠の刃』とも別れて、ぼくらは宿へと帰ることにした。


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