第28話 オタク、わからされる



「おはよう、オタクくん」


 目が覚めると、目の前にクルスさんのイケメン顔があった。

 一瞬びっくりしたけど、すぐに落ち着きを取り戻す。


「おはようございます、クルスさん」


 ぼくに覆い被さったクルスさんの胸が触れる。

 一緒のベッドで寝ちゃったのか。

 クルスさんはベッドに頬杖をつき、微笑みながらぼくを見ていた。


 綺麗な形の胸も合わせて、こうしてみると美女なんだよなぁ。

 寝起きの微笑みはイケメンだったけど。

 前世のヅカみたいな、男装の麗人、という表現がピッタリ似合う。


 性格も優しいし、奥さんに向いてるよな、クルスさん。

 女子校にいたら間違いなく王子扱いされるけど。


「二人を起こして、朝ごはん、食べに行きましょうか」


「うん、そうだね」


 うなずくクルスさんの笑顔は、なぜだか幸せそうだった。



*******



 朝ごはんを食べながら、ぼくの話になった。

 話題は昨日、『破岩の斧』と『翡翠の刃』が話してた、ぼくの異名だ。


「てかさ、オタクくん『英雄請負人』とか呼ばれてたん? うける」


「すごい名前だよね。『あなたを英雄にします!』的な?」


 エイジャさんとリーシャさんにからかわれる。

 ぼくも初めて知りましたよ、そんな名前。


 確かにずっと、レールスたちを強化してきたけど。

 まさか、後衛のぼくに二つ名が付いてるなんて思わなかった。

 面と向かって言う人は一人もいなかったし。


「でも、なんかわかるよ。オタクくんの強化は強力すぎるもの。防御も回復もすごいから、ボクらみたいに攻撃力があれば、それ以外のサポートは全部できちゃう」


「あー、それわかるー。あーしのデスサイズも、本来はあんなに切れ味良くないしね」


 クルスさんたちには思い当たるところがあるらしい。

 強化をしても、戦ったり立ち回ったりは本人の技術に依存するんで、実際に『英雄になることを請け負う』なんて無理なんだよね。


「ぼくのは『強化』ですから。元から強い人を、さらに強くすることしかできませんよ。クルスさんたちが元々強かったんです」


「ボクらが弱いとは言わないけど、オタクくんの強化や防御は、限度ってものがあると思うよ……」


 呆れたような声が三人から飛んだ。

 エイジャさんとリーシャさんも「うんうん」とうなずいている。


「後衛で二つ名が付くんだから、それだけオタクくんの前のパーティへの貢献度が高く見られてたんだよ」


「追放されたのも、そのせいじゃね? あーしより目立つな! みたいな」


 確かに、レールスからの風当たりはキツかったけど。

 それを言うなら、昔からぼくに対する当たりはキツかったからな、レールスは。

 褒められたことなんて一度もないし。


「……案外、いきなり追放されたのって、パーティの奴らがその名前、聞いたからじゃね? 『後衛のくせに目立ってんな』って妬まれたとか」


「あり得るね。普通、目立つのは攻撃や討伐に関連する前衛だからね」


 リーシャさんとクルスさんが納得したようにうなずいている。

 エイジャさんも「あー……」と顔を覆っていた。


 マジか。

 優秀だから追放される、とかいうケース、本当に存在するんだ。

 前にクルスさんに言われたときも飲み込めなかったけど、まだちょっと信じられない。


「冒険者が、優秀なことを妬んで役に立つ人間を追放してたら、パーティが崩壊しますよ」


「だから解散したんじゃん? 実際、崩壊してるっしょ」


 確かに。

 エイジャさんに事実を指摘されて、何も返せなくなった。

 レールス……パーティの存続より、ぼくがいないことを優先したのか。


 よっぽど、嫌われてたんだろうな。

 生まれたときからの幼馴染だったけど。たぶん、もう会うこともないだろう。


「世の中色々な人がいるし、心が狭い人もいるよ。……オタクくんは、このパーティにずっといてくれたら嬉しいな」


「ウチの嫁だしね!」


 クルスさんたちが優しく言ってくれる。

 ぼくも、このパーティは居心地が良いな。

 前のパーティにいたときみたいな、疎外感がない。


「ありがとうございます。しばらくお世話になりたいと思います」


「しばらく、じゃないっしょ! あーしらの仲じゃん!」


 ばんばんとぼくの背中を叩いてくるリーシャさん。

 その気持ちが嬉しくて、ぼくも笑顔が浮かんでしまう。


「オタクくんは、そうやって笑ってる方が可愛いよ」


 口説かないでください。

 イケメン顔で優しく口説かれると、男のぼくでもときめいてしまいそうになる。


 いや、クルスさんは女性だから、ぼくがときめいても良いのか? あれ?

 でも、それは男女が逆じゃない? あれ?


「それは良いけどさー。オタクくんと一緒にパーティにいるんだから、ウチはもっとオタクくんの料理とかも食べてみたいわけよ」


「新しい料理かい!?」


 リーシャさんのふと出した話題に、女将さんが突然飛び出してきた。

 目が輝いている。


「良いね、何を作るんだい!? 厨房は貸すよ!?」


 期待する女将さん。

 これは、何かを作らなければならない流れなのだろうか。


 参ったな。新しい料理って言っても、厨房に何の食材があるかもわかんないし。


「それは良いね、もっと甘いものが食べたいよ」


「ミズアメは作り置きしてあるよ! カスタードも今冷やしてるからね!」


 準備は万端だった。

 スイーツを作るのか。何が良いだろう。


「期待してるよ、オタクくん」


 クルスさんが待ち遠しく微笑んでいる。

 うん、この人たちが食べて喜んでくれてる顔。見たいかも。


 何か作ってみるか。


 とりあえずお客さんがいなくなった後で、厨房に入ってみる。

 牛乳、卵、小麦粉、水飴、バター、シナモン、カスタードクリームはある。


「じゃあ、材料を使わせてもらいますね、女将さん」


「あいよ! 楽しみにしてるからね!」


 お菓子の材料は一通り揃っている。

 この材料で、目分量で作れる料理というと……


 やっぱり、クレープか。

 クレープなら肉類も包めるし、それが一番手っ取り早いかな。


 小麦粉をフォークでさっくり混ぜてダマを潰して、火魔法で温めた牛乳を入れる。

 そこに水飴と卵を投入して生地をゆるくして、フォークで混ぜ混ぜ。


 残りの牛乳も入れてさらに混ぜる。

 目の粗い麻布で生地を漉したら、火魔法で温めた溶かしバターをしっかり混ぜ込む。


 器に布をかけてしばらく寝かせる。

 今日はグルテンを生成させた、もちもちクレープだ。


 その間に鍋の調子を見る。

 鍋肌は女将さんが使い込んでいるので、磨かれたようにつるつるだ。

 女将さんの日頃の手入れが良いんだろう。



 これなら、薄く焼いても大丈夫そうだ。

 もちもちパリパリのクレープができるだろう。


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